名を改める
徐福が降伏を決断した事で、曹純の包囲に抵抗していた兵達は攻撃を止めて武器を捨てた。
曹純は兵とその他の民を捕らえて、とりあえず一カ所に纏めていた。
程なく、新野の周囲に展開していた他の部将達がやって来た。
その中には、諸葛亮と龐統の姿もあった。
「曹将軍。お見事な采配です」
「これで劉備軍の戦力は半減しましたな」
諸葛亮達が曹純の采配を称賛しだした。
「有難い。これも丞相が鍛えた虎豹騎のお陰であろう」
曹純は謙遜しながらそう述べた。
「わたしはこれから劉備の追撃に加わる。ついでに、襄陽に駐屯している曹仁殿にも文を送ってくれぬか。長沙郡で起きた反乱は直ぐに鎮圧されましたからな。襄陽に居るのであろう?」
「はい。その通りです」
「直ぐに人を遣います。そうすれば、襄陽に駐屯している蔡瑁率いる水軍も追撃に加わるでしょう」
「司馬懿殿と曹将軍の追撃に、蔡瑁率いる水軍も追撃に加わるか。劉備は逃げ切れないであろうな」
曹純は自軍の状況を聞いて、これは流石に討ち取れるなと思っていた。
それを聞いても、諸葛亮は無言であった。
「では、後の事は任せた」
曹純はそう言って、自分が率いる軍の元に戻ると、そのまま劉備の追撃に向った。
曹純を見送った諸葛亮達は劉備軍の捕虜の元に向った。
捕虜になった者達は、皆汚れ傷を負っている者達も居た。
最低限の治療だけされているが、傷が痛いのか呻いていた。
そんな中で、縄に縛られていても毅然としている者が居た。
諸葛亮達はその者を見つけるなり、兵に命じて自分達の元に連れて来る様に命じた。
「来い。お呼びだ」
「ふふ、首を切られるか。だが、戦場に出た以上、それも覚悟の上だ」
兵に促され、その者は立ち上がると兵に連れていかれて行った。
暫し歩いた後、その者は諸葛亮達の元に連れて来られた。
「連れてまいりました」
「ご苦労。縄を解け」
「は、はぁ」
龐統に命じられた兵は良いのかなと思いつつも、命令だからいいかと思いその者の縄を解いた。
縄を解かれた者は手が自由になった後、諸葛亮達を見た。
「孔明。それに士元まで、こうして会うのは何年ぶりだ?」
「元気そうで何よりだ。徐福よ」
「怪我がないようだな。それは何よりだ」
縄で縛られていた者は諸葛亮達の友であり劉備の軍師でもあった徐福であった。
諸葛亮達は無事な様子を見て安堵していた。
「・・・・・・此度の策、お主らが立てたのか?」
「そうだ」
「最も、南陽郡で反乱が起きたのは想定外であったがな。長沙郡の反乱の方は起きても、直ぐに鎮圧できる様に、我らの主が手を回していたようだがな」
「お主らの主と言うと、曹子脩殿か」
徐福は今、二人が仕えている人物が誰なのか知っている様であった。
「如何にもその通りだ」
「存外、面白い方ではあるぞ。少々奇行もあるがな」
「士元。それは今いう事ではないだろう」
「ははは、それもそうだな」
龐統が笑った後、徐福を見た。
「お主を劉備から切り離す為に色々としたが、ようやく成ったな」
「うむ。偽報を流して劉備軍を混乱させたりしたな」
龐統達は今までした事を思い返していた。
それが、こうして徐福を自分達の元に来るという結果となり、喜んでいる様であった。
「徐福。降伏したのだ、このまま朝廷に仕えよ」
「君が仕えてくれれば、喜ばしい限りだ」
諸葛亮達は徐福に朝廷に仕えるように促した。
当の本人である徐福は何か考えている様であった。
「・・・・・・二人とも、劉皇叔の事はどう思っている?」
徐福の問いに、諸葛亮達は顔を見合わせた後、述べた。
「時世に乗って人心を惑わせる豪傑?」
「魅力がありながらその魅力の使い所を誤り、己の野望にのみ従う腹黒い君子という所だな」
「・・・は、ははははははははは」
二人の評価を聞いて徐福は大笑いしだした。
「・・・・・・わたしはこの乱世を終える事が出来る英雄と見込んでいたのだがな」
「この状況にまで落ちぶれている時点で、そう思うのは無理があると思うが」
「分かっている。そう思っていたと言っただろう」
徐福は空を見上げた。
「此処まで連れて来た者達を見捨てるなど、いずれその報いを受けるであろうな」
万感の思いを込めて徐福は述べると、諸葛亮達を見た。
「だが、皇叔への恩義を忘れる事はできん。だから、献策を求められても何も献策しないぞ」
「それでも構わん」
「我らとしては、お主を死なす事が無いように知恵を巡らせただけだからな」
「そうか。朝廷には仕えよう。だが、けして献策はせん。其処は断じて譲らんぞ」
「分かった。その願い聞き入れる」
「ああ、その願いを破らぬ事の誓いとして、今日から名を改める。・・・・・・今日から徐庶と名乗ろう」
「劉備への恩義で献策しない事を庶幾か」
「悪くないだろう」
徐福改め徐庶はそう言って笑うのであった。




