事の真実
出陣した諸葛亮軍は南へと進軍していた。
昼頃には出陣したのだが、駆けている間に空色が変わり始めた。
徐々に色を濃くしていく夕焼けの空が見えた。
馬に跨り駆けている諸葛亮に龐統が話しかけて来た。
「このまま進軍すれば、問題なく新野は包囲できるな」
「ああ、その通りだ」
諸葛亮は返事をしつつ、其処から先が問題だという顔をしていた。
「しかし、反乱を利用して劉備を誘導するとはな。流石の徐福もこれは考えつきもせんだろうな」
龐統は同じ立場でも思いつくかどうか分からないなと思い呟いていた。
馬順の調略により、侯音が反乱を起こしたのは本当であった。
加えて、長沙郡で呉巨が反乱を起こした事も、捕まっていた南陽郡の太守を務めていた東里哀が侯音の部下の手引きで共に逃亡し、文聘の元に参ったのは本当であった。
だが、東里哀が文聘の元に向かっている間に、諸葛亮率いる軍勢が侯音が籠る宛県を攻撃していた。
此処まで早く攻撃を受けると予想していなかった事に加えて曹純率いる精鋭騎兵である虎豹騎も加わった事で、侯音と衛開は力及ばず捕縛された。
諸葛亮は反乱を起こした罪で処刑すると、直ぐに南陽郡の慰撫に掛った。
その間に、長沙郡で呉巨が反乱を起こしたが直ぐに鎮圧された事と、劉備軍が江夏郡に入ったという報告を受けた。
それらの報告を聞いた諸葛亮は、直ぐに文聘に南陽郡に入り合流する様にと使者を送った。
文聘も東里哀の求めに応じて、丁度宛県に向っている最中であったので、直ぐに合流する事が出来た。
そして、諸葛亮は文聘を交えて軍議を開き、劉備を南陽郡に招き叩く策を立てた。
劉備軍は行軍しているという事で、南陽郡の反乱がどうなっているのか分からないという事を活かす策を立てた。
まずは、南陽郡に入った劉備に侯音の部下と偽らせて兵に、新野へ行くように誘導させる。
これで劉備が新野に行くのであれば良しとし、行かないというのであれば、その時は南陽郡から益州へ行くようにと伝える。
文聘には南陽郡と益州の境に布陣して貰い、益州に行かせない様に妨害して貰い、その間に諸葛亮軍が劉備軍の後背を攻撃し挟撃するだけであった。
新野に住んでいる者達は追い出して、策に使う柴などを準備させていると、劉備軍が南陽郡に入ったという報を聞いた。
その後、兵を偵察に出すと新野に向かっていると分かると、諸葛亮は率いていた軍勢と共に鵲尾波に駐屯した。
「計算通りに、敵は袋の鼠になったとはいえ、最後まで気を抜く事は出来んな」
「確かにな。相手はあの劉備だから」
諸葛亮にそう言われて、龐統は気を引き締めた顔をした。
その日の夜。
諸葛亮軍は新野に辿り着いた。
諸葛亮は直ぐに城に合図を送ると、城門が開けられ兵が出て来た。
「申し上げます。劉備達は敵の襲撃が無いと思っている様で、警戒する事無く休んでおります」
「我らの策に気付いた様子は?」
「それもありません。監視している者の報告ですと、兵と共に連れて来た者達も長旅で疲れてきっていたからか眠っており、劉備達も同じように休んでいるそうです」
兵の報告を聞いて、諸葛亮は敵は油断していると分かり、直ぐに指示を出した。
「では、お前達は直ぐに策の準備を」
「はっ」
兵が返事をし、城内に戻っていくのを見送ると、諸葛亮は次の指示をだした。
「では、張将軍は西門を。龐統は東門を、北門はわたしが包囲します」
「承知した」
「では、行ってくるとしよう」
「司馬懿殿と曹将軍は南門を正し、劉備達が出て来ても直ぐに攻撃はしないでください」
「何故だ? 計略により敵は備えなど全くないであろう」
曹純が尋ねると、諸葛亮は直ぐに理由を教えた。
「城から出て来た敵を分断し、各個撃破すれば、敵の被害が大きいです」
「成程。では、その分断はわたしがしよう」
「お願いします。司馬懿殿は曹将軍が攻撃していない方の攻撃をお願いします。逃げれば追撃を」
「任せろ。上手く行けば、劉備を討つ事が出来るかもしれんからな」
そうなれば、此度の戦の殊勲一番ものだと思い司馬懿は戦意を漲らせていた。
「では、お任せいたします」
諸葛亮がそう言うと、諸将はその場を離れたが龐統だけ残った。
「孔明。これだけ見事な策では、徐福は大丈夫だろうか?」
龐統が心配そうに尋ねると、諸葛亮は笑みを浮かべた。
「問題ない。鵲尾波にいる時に天文を見たが、徐福の命数は尽きていない様であった」
「おお、そうか。ちなみに、劉備はどうであった?」
「・・・・・・」
龐統の問いに、諸葛亮は無言であった。
それは、劉備は捕まる又は討ち取る事が出来るのか、それとも逃れられるのどれを言っているのか分からなかった。
やがて、準備が整うと、諸葛亮は城に合図を送った。
程なく城内から、煙が上がり始めた。




