ようやく休めると思えたが
南陽郡の郡境で、侯音の部下と合流した翌日。
ようやく新野県へと向かった
兵の家族を連れているので、行軍は時が掛った。
それから数日が経ったがその間曹操軍の襲撃は全くなかった。
その事から劉備達は文聘軍は宛県攻略にかかりっきりだと分かった。
「我らが丹陽郡を後にし、この地に来るまでの日数を考えると、そろそろ許昌で兵を出すという事が言われてもおかしくないな」
行軍の最中、徐福が馬に揺られながら馬順にそう問うてきた。
それを聞いて馬順は確かにと頷いていた。
「ですな。そうなりますと、宛県に援軍としてくるでしょうな」
「ならば、宛県に援軍として赴く事は出来ぬな」
徐福は新野に着いた時に、どうやって侯音を言い包めるべきか考えた。
「遠回しに、宛県は落ちるから救援に向かうなと言うべきでしょうか?」
「しかし、そうなると侯音をどう扱うか考える事になるな」
徐福としては反乱を起こしてくれた事には感謝している。
その後は、共に益州に向い再起を図る様に言うべきだと思っていた。
「そうですな。とりあえず、会って今後の事をどう考えているのか話を聞きましょう」
「そうだな」
徐福もとりあえず会ってから考える事にした。
それから更に十数日後。
時はかなり掛ったが、劉備軍はようやく新野に辿り着いた。
時間が掛ったのは、兵の家族もいるという事で、歩みが遅かったのが原因であった。
劉備達も仕方がないと思い、何も文句は言わなかった。
むしろ、その家族達を労わっていた。
そのお陰で、離脱する者が出なかった。
そして、新野に着いたので侯音に会い今後の対応を話し合おうとしようとしたが。
「なにっ、侯音殿が居ない⁉」
劉備が侯音の部下から告げられて、耳を疑っていた。
「はい。皇叔が来られる数日前に、近くの県で曹操軍の別動隊が見つけたという報告を聞いて、情報の仔細を調べる為に、兵を率いて向かわれました」
「ぬう、間が悪いな。それで侯音殿は何時頃御戻りに?」
「少し前に早馬が来まして、早くても明日か明後日には戻って来るそうです」
「そうか。分かった」
部下の報告を聞いた劉備は、直ぐに家臣達の元に向った。
「むぅ、これから協力しようと思った者と会えぬとは」
「間が悪い事ですな」
劉備の話を聞いて、張飛と公孫続は残念そうに溜息を吐いた。
「軍師殿方。どうされますか?」
孫乾が徐福達の意見を聞くべきと思い、二人に訊ねた。
「そうですな。此処は侯音が帰って来るのを待っても良いと思います」
馬順の献言を聞いて、徐福も頷いた。
「わたしも賛成です。明日か明後日には帰還して来るのでしたら、待っていても問題ないでしょう」
徐福達は侯音が帰って来るのを待つべきと言うのを聞いて、孫乾が意見した。
「よいのですか。わたしが言うのも何なのですが、侯音が帰ってくるを待っていて」
孫乾は前に一度何処かで休むべきと意見した。
その時に、侯音と意見交換するかも知れないが、その話し合いでどう行動するか決めても良いと思い提案した。
だが、侯音が居ないのであれば、さっさと益州に向った方が良いと思い意見したのだ。
「既に曹操軍は動き出しているかも知れませんが、まずは宛県攻略を先に行うでしょう。落ちるまでの間、少し時はあるでしょう。その間に侯音とどうするか話し合っても大丈夫です」
「それに、此処までの行軍で襲撃こそ無かったが、兵もその家族も疲れ切っている。此処は一日二日ぐらい休ませるべきだ」
「お二人がそう言うのでしたら・・・」
孫乾も兵達が疲れているのを分かっているので、同意するしかなかった。
劉備達は新野に留まる事を決めると、侯音の部下達は精一杯のおもてなしとばかりに、食糧などを提供してくれた。
今後の事を考えて、食糧などは切り詰めていたので、兵もその家族達も腹一杯に食事できる事を喜んでいた。
劉備達もその様子を見て安堵しつつ、提供してくれた酒や食料に手を付けていた。
歓待を受けている劉備達を見て、侯音の部下の一人が馬に跨ると、そっと城を出て行った。
城を出て、そのまま駆けていくと鵲尾坡という土地であった。
そして、其処には陣地が築かれ曹の字が書かれた旗が幾つも立っていた。
侯音の部下がその陣地の傍まで来ると、大声をあげた。
「開門! 開門! 新野から参りましたっ」
そう大声で告げると、陣地の門が開かれた。
侯音の部下は陣地の中に入ると、馬から降りて一番大きい天幕に走った。
天幕の中に入ると、中に居た者達を見た。
其処に居たのは司馬懿、諸葛亮、龐統、曹純、張燕であった。
部下はその場で跪き一礼する。
「申し上げます。劉備率いる軍勢は新野に入りました。我らの歓待を受けて気を許している様で、警戒しておりません」
その者の報告を聞いて、司馬懿が口を開いた。
「良し。では、準備の方は出来ているか?」
「はっ。城内の至る所に、乾いた柴等を置いております。また、各門には拒馬槍を置けるように準備しております」
「よくやった」
話していた者がそう言うと、隣に諸葛亮を見た。
「孔明殿。これで劉備は袋の鼠ですな」
「ええ、その通りです」
諸葛亮が頷くのを見て、龐統は頭を叩いた。
「まさか、反乱を利用するとな。流石は臥竜と言われるだけはある」
「ふふふ、君も思いついたのではないか? 士元」
「ははは、どうであろうな」
諸葛亮達が笑いあった後、報告した者を見る。
「お主は直ぐに帰り、事前に言っていた準備を行え。我らもこれから直ぐに向かうとしよう」
「はっ」
諸葛亮の命を聞いて、報告した者は返事をするなり立ち上がりその場を後にした。
「では、直ぐに出陣の準備を。この地から新野まで三十里ほど。今出れば、夜か明日の朝までには着くでしょう」
「おうっ」
諸葛亮の命を聞いて、出陣の準備を行った。
程なく、諸葛亮率いる軍勢は出陣した。




