一応考えてはいた
僅かな部下と共に逃亡した韓玄は呉巨達に捕まる事無く、逃亡する事が出来た。
その足で、韓玄達が向かったのは攸県であった。
先触れを出していたので、県令には直ぐに会えた。
「太守。どうされた?」
韓玄を出迎えたのは黄忠であった。
黄忠が攸県の県令をしているのは理由があった。
曹昂が声を掛けた際、劉磐と黄忠の二人は朝廷に仕える事に決めた。
その後、曹操が許昌に帰還するのに合わせて劉磐も共に付いていったのだが、運が悪いのか黄忠の息子である黄叙が病に罹ってしまった。
重い病で許昌まで移送するのも無理と薬師が述べた。
それで仕方がないので、息子の病が治るまで黄忠を攸県の県令に任命した。
曹昂も病なら仕方がない上に、万が一孫権又は劉備が長沙郡に攻め込んでた場合に備えて置いておくのも良いかと思い任命した。
「おお、黄忠よ。実はだな」
韓玄は臨湘県で反乱が起きて逃亡した事と、鎮圧の為に助力して欲しい事を告げた。
「承知しました。この黄忠がお力になりましょうぞっ」
「頼む。お主が居れば、千人力よ」
「ははは、どうぞご安心を」
あからさまなおべっかであったが、黄忠は機嫌よく笑うのであった。
数日後。
一応太守なので韓玄が大将で副将に黄忠となり、騎兵歩兵合わせて五千の兵を率いて臨湘県へと向かった。
そこから更に数日掛けて進軍して、ようやく臨湘県へと辿り着いた。
城壁には既に兵が詰めており、守りを固めていた。
その様子を見た韓玄は黄忠に訊ねた。
「守りも固そうだが、どうする?」
「太守。ご安心下され。呉巨は勇猛な武人ですが、政など得意ではない男です。嘗て蒼梧郡の太守でありましたが、苛烈な悪政により郡に暮らしていた人々の反感を買い、其処を士燮に付け込まれて蒼梧郡を奪われたました。臨湘県も支配下に入れても日が浅く兵も忠誠心などもっていないでしょう。ですので、兵二手に分けて攻めれば、難なく落ちましょう」
「そうか。では、一方は任せたぞ」
「はっ」
黄忠の献策を聞いて、韓玄は納得した。
そして、韓玄は南門を、黄忠は東門を攻撃する事に決めて兵を分けた。
四半時後
「攻めよ! 朝廷に歯向かう愚か者にその愚かさの報いを与えよ‼」
黄忠が号令を下すと、太鼓が叩かれた。
空気が震える程の轟音を聞いて、兵達は駆け出していく。
城壁に居る兵達もそれを見て、矢などを構えて迎撃していた。
だが、猛然と進む黄忠軍の兵達の迫力に押されたのか、城壁に梯子が掛けられると直ぐに城壁が突破されて城門が開かれた。
「城内に突入する! 謀反人呉巨の首を儂自ら討ち取ってくれる!」
黄忠が跨っている馬の腹に蹴りを入れて駆け出した。
兵達もその後に続いた。
突撃した勢いのまま、城内の各所を占領し政庁の前まで来た。
門をこじ開けると、其処には甲冑を身に纏った呉巨の姿があった。
後ろには兵達が控えていた。
「この老いぼれがっ。大人しくしていれば重く用いてやろうと思っていたというのにっ」
「はっ。この黄漢升。貴様の様な愚かな謀反人に従うなど、天地がひっくり返ろうと有り得んわ!」
「何をっ! 今ここでその素っ首を斬り落としてやるわっ」
「ふん。貴様如きと刃を交えるのも惜しいわ。これでも食らえっ」
黄忠は愛用の弓を番え、矢を放った。
弓弦から離れた矢は狙いたがわず、呉巨に命中する。
呉巨は短い悲鳴を上げて、そのまま倒れた。
「ああ、呉巨様っ」
「降伏、降伏する!」
呉巨に従っていた者達は、呉巨が死ぬを見るなりその場に跪いて黄忠に許しを乞うた。
黄忠はその兵達の武具を奪い、縄で縛り牢に放り込んだ。
そして、韓玄を出迎えようとしたのだが、其処に兵が駆け込んできた。
「なにっ、太守が流れ矢に当たり倒れた⁉」
「はっ。治療の甲斐なく、そのまま」
「なんと・・・・・・・」
兵の報告を聞いた黄忠は太守が倒れた事で、郡の政はどうするべきか悩んだ。
とりあえず、事の顛末を朝廷に報告し臨湘県の統治は自分が行う事にした。
それから更に十数日が経ったある日。
黄忠の元に朝廷からの使者が参った。
此度の反乱鎮圧の功を称えて、黄忠に裨将軍の位を授けられた。
後、戦死した韓玄には立派な墓を建てられる事となった。
日が浅いとは言え太守と赴任し反乱の鎮圧に尽力し戦死したという事を称えてか墓碑には『漢忠臣韓玄之墓』と刻まれた。




