遂に動き出す
南陽郡にて反乱が起きた事は当然、劉備達の耳にも入った。
その報を聞くなり、馬順は劉備の元に向った。
「殿。南陽郡にて反乱が起きました。今こそ好機ですっ」
「という事は、今ならば益州に向えるという事か?」
劉備の問いに馬順は頷いた。
「そうか。では、家臣達を集めて直ぐに準備する様に伝えよう」
「はい。ところで、前に話していた呉巨の方はどうなりました?」
「ああ、人を遣って調べさせた所、あの者は曹操が荊州を手に入れた際に官職が剥奪されてな。それで故郷の長沙郡に帰ったそうでな。人を遣り文のやり取りをした所、協力は惜しまないという文が送られたぞ」
「それは重畳。我らが準備をしている時に、孫権が警戒して兵を出すかも知れません。其処で長沙郡に居る呉巨に文を送り反乱を起こさせましょう。そうすれば、孫権も攻め込んで来るかもしれないと思い、我らに兵を出すのに躊躇するでしょう」
「成程。それは良いな。早速文を送るとしよう」
劉備はそう言って文を認めて、人を呼んで呉巨に渡す様に命じた。
その後、家臣達を召集し南陽郡の反乱に乗じて益州に逃げ込む事を伝えた。
「皆は直ぐにでもこの地を出立できる様に準備せよ。準備が完了次第、行動するぞ」
劉備がそう伝えると、其処に孫乾が口を開いた。
「殿。孫権の対処は長沙郡の呉巨が起こす反乱で動揺している隙に、廬江郡を通り抜ける事は分かりました。ですが、その先の荊州に入るのでしたら、江夏郡を通る事になります。これはどうするのです? 夏口の文聘が南陽郡の対処で郡境に行くでしょう。ですが、太守の厳幹がおります。その者が我らの行動を妨害する事も考えられます」
孫乾の指摘に他の者達もあり得ると思っていると、馬順が答えた。
「それにつきましては既に手を打っております。厳幹が居る県に刺客を差し向けて兵糧の焼き討ちさせます。運が良ければ厳幹を討てるかもしれません」
「其処までお考えでしたか。であれば、問題ないかと」
孫乾が頷くのを見た馬順は劉備を見た。
「殿。一刻も早くこの地を旅立ち、益州にて捲土重来を図りましょう」
「うむ。皆も聞いたな。急ぎ出立の準備をせよ」
「「「はっ」」」
劉備の命に従い、家臣達は一礼した後、直ぐに準備に取り掛かった。
数日後
荊州長沙郡臨湘県。
この県は長沙郡の郡治を行う県であった。
県内にある屋敷。
其処に呉巨が居た。
「そうか。ついに動くか」
呉巨は手に持つ文を読んで笑っていた。
文の送り主は劉備で、書かれている内容は荊州を通り益州に逃げ込み捲土重来を図る。貴殿にも助力して欲しい事が書かれていた。
「皇叔の頼みだ。答えるとしよう。それに、曹操に一泡吹かせる事が出来るからな」
呉巨は文を処分すると、県内に居る友人知人に声を掛けた。
二日後。
呉巨の元に五十人ほどの男達が集まっていた。
全員屈強な体を持っていた。
その者達を前には、甲冑に身を包んだ呉巨が居た。
「この地に居る太守である韓玄を討ち、長沙郡を我らの物とするぞっ」
呉巨が檄を発すると、男達は歓声をあげた。
そして、呉巨がこの時の為に密かに用意していた武具を男達に渡した。
男達が全員武装すると、呉巨は馬に跨っていた。
「行くぞっ。続け!」
呉巨が馬を掛けさせると、男達もその後に続いた。
馬を駆けた呉巨達は真っすぐに政庁へと向かった。
政庁の門を強引にこじ開けて入ると、官吏や兵達は何事なのか分からず、ポカンとしていた。
それを見た呉巨は剣を抜いて掲げた。
「攻め込め! 狙うは韓玄の首!」
呉巨がそう言うと従っていた男達は喊声をあげながら、政庁に突入し目につく者達に襲い掛かって行った。
少しして、政務を行っていた韓玄の元に兵が駆け込み、呉巨が攻め込んできた事を伝えた。
「ば、馬鹿なっ。反乱だとっ⁉」
「太守。とりあえず、此処は御逃げを。そして、何処かに県に逃げ込み兵を集めて呉巨を討つのです」
「そ、そうだな。良し逃げるぞっ」
韓玄はわずかな部下を連れて逃亡した。




