思わぬ事を
友人の崔州平が来たと聞いて、徐福は話を切り上げている部屋へと向かった。
部屋に入ると、席に座る崔州平がいた。
「徐福。また来たぞ」
「友よ。今日は何をしに来たのだ?」
徐福も対面の席に座るなり、そう訊ねてきた。
「今日来たのは他でもない。これだ」
崔州平がそう言い、手に蓋つきの小さな甕を見せた。
「今日は美味しい酒が手に入ったのでな。一緒に飲もうと持ってきたのだ」
「酒を? どういう風の吹き回しだ?」
徐福は何かあるのではと思い訊ねたが、崔州平は手を振った。
「他意はない。次こうして気軽に会えるか分からないからな。だから来たのだ」
「そうか。では」
徐福は盃を受け取り、崔州平と酒を酌み交わした。
楽しく酒を酌み交わして、程よく酔うようになった。
その際に、崔州平がある事を話し出した。
「しかし、此度は揚州に行くのも大変であったわ」
「そうなのか?」
「うむ。わたしは今は南陽郡で暮らしているのだが、騒動が起こっていてな。出るのに時が掛ったのだ」
「騒動? 何かあったのか?」
「新しく太守になった者が郡内の民に過酷な軍役を課していてな。太守に反発している者が暴動を起こしたのだ。お陰で此処まで来るのに時間が掛ったわ」
「暴動が起こる程の軍役を課すとは。何故其処までするのだ?」
「何でも、襄陽に居る曹操の親族に媚びを売る為に、重い税を課しているそうだ」
「搾り取った税を使い、機嫌取りか。とんでもない太守だな」
話をしていた徐福は呆れていたが、直ぐにこれは使えると思った。
そして、酒が尽きたので酒盛りは終わりとなった。
徐福は崔州平を城外まで見送ると、その足で馬順の元に向い、崔州平から聞いた事を話した。
「成程。新しく南陽郡の太守になった者が悪政を敷いていると」
「そうだ。其処でだ。南陽郡に居る豪族の中には、この太守に対して思う所がある者もいるはずだ。その者達を唆して、南陽郡で反乱を起こすと言うのはどうだ?」
「良い手です。混乱している間に、我らは南陽郡を通り益州に入れば良いのですから」
「後は江夏郡をどうやって通り抜けるかだな」
「其処は問題ありません。既に手は考えております」
「ほぅ、それはどんな手だ?」
徐福は気になり訊ねると、馬順はすんなり答えた。
「南陽郡で反乱が起これば、江夏郡の郡境も騒がしくなるでしょう。その隙に、太守の厳幹に刺客を送ります」
「暗殺するという事か?」
「上手くいけばそうなるでしょう。ですが、真の狙いは敵の兵糧を焼く事です」
「兵糧を焼かれれば、我らが江夏郡に入っても追撃するのも容易ではなくなるな」
「ええ、兵を動かせば兵糧を消費しますから」
これならば、江夏郡を通り抜ける事が出来ると思えた。
そうと決めた二人は直ぐに行動した。




