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これはこれで面倒だ

 曹操が河内郡に向かったので、曹昂達は洛陽の復興に手を貸していた。

 尤も指揮をするのは楽進と史渙の二人なので曹昂は二人の報告を聞くだけであった。

 なのでやる事があまり無いと最初、曹昂は思っていたが。

「ぜひ、御父君にこの話を伝えて貰いたい」

「いやいや、私の方を先に」

「何を言う。先に話を持って来たのは私だぞっ」

 曹操が洛陽を離れたと聞くなり、諸侯達が曹昂の下に押しかけて来た。

 諸侯達は我先にと曹昂にある話を持ち掛けて来た。

 それは婚姻の話であった。

 董卓を討つ為の連合軍の発起人にして、董卓を追撃して戦利品を手に入れ、その戦利品で洛陽の復興を行っているという事で天下に曹操の名が轟いていた。

 その曹操の信頼が厚く実の息子である曹昂に姻戚関係を持ちたいと思うのは不思議ではなかった。

「いえ、その。僕にはもう婚姻を結ぶ者が居ますので……」

 曹昂がやんわりと諸侯達が持って来る話を断ろうとしたら。

「何をおっしゃる。私としても別に正室でなくても良いのです」

「左様。こちらとしても側室か妾でも特に問題ない」

 諸侯達からしたら別に曹操と誼を通じたいだけなので、別に正室でなくても良かった。

 なので、側室だろうと妾だろうと構わなかった。

「この事は父と相談してから決めたいと思います」

「では、御父君に書状を送っても宜しいですな?」

 諸侯の一人が目を光らせた。

 曹昂は頷くと「では、失礼する」と一人が言うと、他の者達も慌ててその場を離れて行った。

 これで静かになると思われたが、諸侯達は曹昂の気持ちも自分の一族の者にも向けようとあの手この手を使って曹昂に話をした。

 連日来てそんな話を持って来るのであまりに鬱陶しかった。

 曹昂は董白達を連れて適当な理由を付けて陣地から逃げ出した。


「……そんな訳で暫くここに居ても良いですか?」

「おうっ、別に良いぞ!」

 逃げ出した曹昂が向かった先は孫堅の陣地であった。

 最初、袁術か袁紹の陣に駆け込むもうかと考えていた曹昂であったが、あの二人も婚姻の話をするかもと思った。

 其処で年頃の娘が居なくて親しくしている孫堅の陣地に向かう事にした。

 陣地に着くと孫策がおり事情を話すと快く受け入れてくれた。

「しっかし、お前も災難だな。親父さんが頑張ったお蔭で婚姻の話が来るなんてよっ」

「正直、こんな事になるとは思わなかったよ」

「俺もだよ」

 曹昂と孫策。

 性格は違うし、少し前にあったばかりだと言うのに二人はまるで長年の友人の様に話をしていた。

「董白様。あの、聞いても良いですか?」

「何だよ?」

「若様と孫策様ってこの前知り合ったばかりですよね?」

「そうだな」

「どうして、あんなに仲が良いのでしょうか?」

「う~ん。性格が違うから馬が合ったんじゃあないのか?」

「若様は温厚ですが、孫策様はこう押しが強い性格なので反発すると思うのですが」

「あいつ。何だかんだ言って祖父ちゃんの配下の我が強い武将達とも上手くやっていたからな。特に呂布と仲良くしていたぜ」

「あの呂布とですか?」

「ああ、そうだ。実は呂布って祖父ちゃんの軍の中じゃあ結構嫌われているんだぞ」

「そうなのですか?」

 天下に轟かせる武勇を持っていても義理の父を殺したという事で評判が悪いのだろうかと貂蝉は思った。

「祖父ちゃんの養子って事で、年上だろうと官職が上だろうと生意気な事を言うから好意を持つ奴が少ねえんだよ。特に李傕と郭汜なんて毛嫌いしていたからな」

 董卓配下の者達は涼州出身が多かった。

 涼州は他国との交流が深く、夷敵と戦う事が多い為か、儒教の考えよりも弱肉強食の考えが強かった。その為、呂布の行いについても特に非難する者は居なかった。

 だが、呂布の不遜さに苛立ちを覚えている者も多かったのだ。

「はぁ、そうなのですか」

「その呂布と仲良くしている事で周りの奴ら曹昂の事を不思議がっていたぜ」

「他には何かありますか? 若様は朝廷に出仕していた時の事は話してくれなかったので、教えてくれるとありがたいです」

「そうだな。他には……」

 曹昂が孫策と会話している後ろでは董白と貂蝉が曹昂についての話をしていた。

 

 曹昂達が天幕に通され寛いでいると。

「そう言えば、文台殿はどちらに居られるの?」

 曹昂は今更ながらと思いながら訊ねた。

「ああ、父上なら今頃、袁紹達の軍議に参加しているぜ」

「軍議ね。酒宴の間違いじゃないの?」

「俺は参加してないから知らないけど、父上は帰ってくる度に『こんな無駄な事をするぐらいなら全軍をあげて長安に攻め込めばいいものを』って愚痴るぜ」

「文台殿は良く我慢できるね。僕の父上はその気持ちが我慢できないから河内郡に行ったんだよ」

「まぁ、礼儀だろう。俺は早く家に帰って寝たいぜ」

 寝たいという言葉に曹昂は孫策がこの前すると言った事をしているのか気になった。

「そう言えば、薪を寝台に乗せて寝ているの?」

「おうっ。俺の天幕の寝台の上には薪が何本も置かれて天井から胆を吊るして毎朝舐めてるぜ」

「効果あった?」

「寝てるのに痛えけど、朝の目覚めに胆を舐めると苦くて一発で目が覚めるから悪くねえな。お蔭で恨みを忘れる事はねえな」

 孫策は教えた事をちゃんとしていると知ったので意外に真面目なんだなと曹昂は思った。

「そうだ。今日は父上と一緒に夜回りがあるからお前も手伝わないか?」

「良いの? 僕は兵を連れてないけど」

「良いって事よ。その代わりによ。聞きたい事があるんだけど良いか?」

「何を聞きたいの?」

「お前、董卓の孫娘を略奪して洛陽から陳留まで連れて来たって聞いたけど本当か?」

「「ぶっ⁉」」

 孫策の口から出た話に曹昂と董白は噴いた。

「だ、だ、誰がそんな事を言いやがったっ⁉」

 董白は顔を赤くしながら訊ねた。

「え? 俺は父上からだけど。父上はある酒宴の場で孟徳殿にある諸侯が『貴殿の息子はどれくらい董卓に信頼されていたんだ?』って聞いて来たから孟徳殿が『董卓は孫娘の婿にする程に気に入っていたのです』と言って諸侯達を驚かせたそうだぜ」

 あの父は諸侯に何と言う事を言っているんだよと思う曹昂。

「んで、孟徳殿が自慢げに『しかし、流石は我が息子なのか。その董卓の孫娘を一目見て気に入ったのか、洛陽を脱出する際に董卓から略奪してこの陳留にまで共に来たのかと思ったら『父上。董卓の討伐が終えたら、僕はこの董白を嫁に迎えます!』と言い出した時には、私の息子なのだと思いましたよ』って言って高笑いしたそうだぜ」

(ちちうええええぇぇぇぇ⁉)

 何時の間にか言ってもいない事を言っている風に話され、更には勝手に董白と婚姻をする時期を決められていた。

 これには流石の曹昂も内心で激昂した。

「その話を聞いた時は凄えなと思ったぜ。俺はさ、まだそんなに女の事が好きになった事がねえからよ。略奪してまで好きになるってどんな気分なんだ? 教えてくれよ」

 孫策は純粋に曹昂がどんな気持ちで董白を洛陽から連れ出したのか気になって訊ねて来た。

 だが、曹昂は。

「…………ああ、うん。その、ちょっと言いづらいから……ね?」

 悪気も無いのは分かるが流石にこの事については話せば色々と問題があったので曹昂は言葉を濁す事しか出来なかった。

 話題に上がっている董白は気まずそうに顔を背けていた。

 そんな董白に貂蝉は、

「略奪ですか。そうですか。…………」

 本当は董白が勝手について来ただけなのだが、その事については話せないので貂蝉は笑いを堪えていた。

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