話をしていると
数日後。
曹昂は諸葛亮の元を訪れていた。
用意されている屋敷に着くと、事前に来る事を伝えていた為、諸葛亮と妻の黄月英の二人が出迎えに来てくれた。
「お話があると聞きましたが。何か有りましたか?」
「此処で話す事ではないので、部屋で」
「分かりました」
諸葛亮は曹昂の顔を見て、何か大事な話があるのだと察して、そのまま自分の私室に案内した。
部屋に案内されると、曹昂は室内にある座席に腰を下ろした。
諸葛亮も使用人に茶の用意を命じた後、近くの席に腰を下ろした。
程なく、使用人が茶を持ってきて席に置くと一礼し部屋を後にした。
曹昂が茶に口を着けると、諸葛亮も茶を飲んだ。
喉を潤すと、曹昂が口を開いた。
「今日来たのは、先生には前々から聞きたい事があって、こうして余人を交えず来たのだ」
「左様ですか。それで、聞きたい事とは?」
諸葛亮は茶を置くと、曹昂を見つつ訊ねた。
「先生は劉備の事をどう思っておいでで?」
曹昂は直球に訊ねた。
諸葛亮は劉備に会ったので、どう思っているのか気になっていたのだ。
史実では諸葛亮は劉備に仕えているが、三度その元に訪れた事に感銘して仕えたと言われている。
曹昂も同じように三度、諸葛亮の元に訪れて食客になり、其処から家臣となってくれたが、劉備に会って見て、どう思っているのか気になっていた。
其処で、余人を交えず聞いてみる事にしたのだ。
曹昂の問いに、諸葛亮は即答せず暫し考えた。
「・・・そうですね。一代の傑物と言っても良いでしょうな。尋常の者であれば死ぬような状況を生き残っているのですから。部下も少なくなったとはいえ優れた者達ばかりです。運と実力を兼ね備えておりますが、惜しむらくは己の感情を制する事が出来ないという所ですな」
「感情を制する事が出来ない?」
どういう意味なのか分からず、曹昂は首を傾げた。
「人伝に聞いた話なのですが、殿との戦で劉備の義弟である張飛が捕縛された時、殿は降伏する様に告げると劉備は降伏したそうですな」
「ああ、そうだ」
「これはつまり、身内を斬り捨てる事が出来ないという事です。将たる者、時には身内を斬り捨てる非情さも必要。それが出来ぬという事は感情を制する事が出来ないのです。その様な者には、天下は取れぬでしょうな」
「成程な。まぁ、劉備はその内、討たれるであろうな。所で、お主の友人も劉備の元に居ると聞いているぞ」
「はい。ですが、もう間もなく劉備の元から離れるでしょう。既に策は仕掛けておりますので」
諸葛亮が自信満々に答えた。
それは、どんな策なのか気になったが、話さない所を見て曹昂はその内分かると思い聞かない事にした。
その後、暫し雑談に興じていると、部屋の外に控えていた趙雲が入って来た。
「お話し中に失礼します。殿、揚州から文が届きました」
「揚州から?」
劉備が何かしたのかと思い、趙雲から文を受け取り広げて中を改めた。
すると、驚くべき事が書かれていた。
「・・・・・・はぁっ⁉ 呉郡太守の朱桓が同郡に派遣された劉勲の部下を殺した⁉」
何でそうなるのか分からず、曹昂は声をあげて驚いていた。




