仲良きことは
翌日。
曹昂は出来た辣醤油を使った料理で宴を開いた。
家臣達に声を掛けると、皆目の前に置かれた膳に置かれている物を見て、不思議そうな顔をしていた。
膳に盃の他に、平たい皿に串が刺さった淡い黄色い物が幾つもあった。
表面に細かい粒々の様な物がついていた。
その近くには、深めの器の中に黒い液体が並々と入っていた。
皆はこれはどうやって食べるんだ?という思いで見ていると、曹昂が口を開いた。
「今日は新しい料理だ。皆、存分に味わってくれ」
「殿、これはどうやって食べるのですか?」
どうやって食べるのか分からない皆を代表する様に趙儼が尋ねて来た。
「串を持って、この液体につけて食べるのだ」
そう言った曹昂は見本とばかりに、串を手に取り黒い液体の中にどっぷりと着けてから口に運んだ。
暫し咀嚼した後、飲み込むと満足そうに頷いた。
その顔が美味しいと言っていると分かると、皆真似て食べだした。
「おっ、これは今まで味わった事がない味だっ」
「塩辛い味の中に甘酸っぱい味がするぞ。その味を味わっていると、衣のサクサクした食感と中に入っている肉の汁が合わさって美味しくしているなっ」
皆串に刺された物を食べつつ、初めて味わう味に驚いていた。
「う~ん。これはこの複雑な味は酒によく合う。左手に盃。右手にこの串に刺された食べ物。酒を飲んで食べ、食べては酒を飲む。これは酒が進んでしまうな」
呂布に至っては、料理と酒を交互に味わい楽しんでいた。
「確かに。これは酒が進むな。・・・むっ」
呂布の言葉に同意する様に料理を食べていた沈友であったが、黒い液体に着けそこなった部分があった。
もう一回つけても良いのかと思ったが、自分しか使わないからいいかと思いつけて味わった。
「殿。この料理は何と言うのですか?」
「この料理は炸串《串カツ》と言うのだ。その液体は辣醤油という調味料だ」
「初めて聞く調味料ですが。これは美味しいですな」
諸葛亮が料理名を聞いてきたので、曹昂が教えた。
孫礼は炸串を美味しそうにほおばっていた。
「揚げた事で、衣がサクサクとしいる。衣に包まれている事で、肉から美味しい汁を全く零れる事無く味わえれる。其処にこの辣醤油の塩辛く、酸味と甘みが混じりあった複雑な味が、深みを生み出している。食べ終えると酒を飲む事で口の中にある脂を流してくれる。この辣醤油をつけた炸串を食べれば、酒が幾らでも飲めますな。これは正に酒泥棒の様な料理ですなっ」
炸串をほおばった後に酒を飲んだ孫礼は、酒臭い息を吐きながら叫んでいた。
孫礼の言葉に同意する様に、他の家臣達も頷きつつ味わっていた。
家臣達は料理を楽しみ酒を浴びるように飲んでいた。
酒で酔いが回ったからか、皆顔を赤らめながら語りだした。
「炸串で一番美味いのは豚肉であろう。柔らかく、脂の味も存分に味わえれるだろう」
「いやっ、牛肉だ。肉は少し固いかも知れんが、肉の味を十分に味わえる」
「鶏肉」
「いや、肉はどれでもいい。それよりも長葱を挟んだのが美味しい」
「長葱よりも洋葱《玉ねぎ》の方が美味いだろう。こっちの方が食べやすいぞっ」
酔っているからか、皆どの炸串が美味しいのか話していた。
驚いた事に、寡黙であまり食べ物の好みなど口にしない高順まで口を出してきた。
幼馴染の呂布も驚いて、目が見開いていた。
家臣達が炸串の事で話しているのを聞いた曹昂は酒を飲んでいた。
(・・・・・・これも仲が良いという事になるのかな?)
まぁ、気軽に思っている事を言えるのだから仲が良いのだろうと思い、曹昂は黙って酒を飲んでいた。




