仕方がないとは言え、流石に
曹操が曹洪の屋敷の催しものを楽しんでいる頃。
揚州丹陽郡宛陵県。
この県は劉備が拠点にしている県であった。
元々郡治が行われている為か、他の県に比べると裕福であった。
その県内にある屋敷の一室では、劉備軍の軍師である徐福と馬順が顔を突き合わせていた。
「内政のお陰で、兵の徴兵により一万ほどの兵が用意する事が出来ました」
「一万か。今の我が軍は二万。合わせて三万か。何とか孫権には対抗できるな」
「はい。ですが、この丹陽郡という地形を考えますと、五万はいてもいいですね」
「確かにな。揚州の真ん中にあるという事で、どの郡からも攻め込まれるから、五万の兵が居れば守る事は出来であろうな」
話していた二人は同時に溜息が出た。
「正直な話、このままでは我らは討滅されますな」
「曹操も孫権も赤壁での戦の傷が癒えれば、攻め込んでくるであろうからな。その時、どれだけ兵が居ても役に立たぬであろうな」
現状を考えると、どう考えても好転する材料など無かった。
だから、徐福達は知恵を振り絞って考えに考えたが、良い案など全く浮かばなかった。
「・・・・・・最早、我々だけで考えても良い案は浮かばぬな」
「此処は殿に相談して、何か方針を立てて貰いましょう。其処から、我々が策を考える。これが良いと思います」
「そうだな。では、明日に」
徐福と馬順の二人は頷いた。
翌日。
徐福は馬順を連れて、劉備の元を訪ねた。
二人が長廊を歩いていたが、屋敷は静まり返っていた。
空気が重く沈んでおり、何かあったのかと思われた。
不審に思いながら歩く徐福達は、劉備が居る部屋に入った。
「殿。お話ししたい事があって参りまし・・・た?」
一礼した徐福が顔を上げて、劉備の顔を見て怪訝な顔をしていた。
劉備の右頬にモミジが出来ていたからだ。
「ど、どうされたのですか?」
「ああ、気にするでない。それよりも、二人が訪ねて来たという事は、何かあったのか?」
劉備の頬に真っ赤なハレが出来ているので、徐福達は話そうと思っていた事が頭から抜けてしまった。
暫し、話そうか話さざるべきか、徐福達は目で話した。
少しすると、此処まで来たのだから話すべきだと思い、徐福が頷くと馬順も頷いた。
「殿。今の我らの状況は四面楚歌と言っても良い状況です」
「兵をどれだけ増やそうと、領地を広げる事も出来ません。我らが力を蓄えている間も、孫権と曹操は牙を研いでおります」
「先の赤壁での戦の傷が癒えれば、我らは両勢力から挟み撃ちを受ける事となります」
「殿。この状況をどうするべきか、何か案はございませんか?」
馬順が真剣な眼差しで劉備に問うた。
出来るだけ、頬は見ない様に。
問われた劉備は暫し考え込んだ。
「・・・・・・この地で力を蓄える事が出来ないというのであれば、何処か別の土地に逃げるというのはどうだ?」
劉備が自分なりに考えた事を述べると、徐福達はそういう手もあるかと思った。
「しかし、折角手に入れた領地を手放すというのも、少々無理があると思います」
「更に言えば、何処の土地に行くのですか?」
「そうよな。行けるとしたら・・・・・・交州かもしくは益州であろうな」
劉備は国内の状況を考えて、行けるとしたらこの二つの州しかないなと思い述べた。
「確かに、逃げるとしたらその二つの州しかありませんな」
「一番近いのは交州ですな。益州は行くとすれば、揚州と荊州を突っ切らねばならないので無理ですね」
逃げるとしたら交州しかないなと思う徐福達に劉備は言った。
「二つの州に交流は無い。だが、益州の州牧である劉璋は同族だ。同族の力を借りるというのも手では無いか?」
「はぁ、そうかも知れませんな」
「ですが、今の我が軍では揚州を通る事は出来ましょうが、荊州の曹操軍を相手にして逃げるのは無理があると思います」
「いや、敵もそう思い備えを怠るかも知れんぞ。それに交州の州牧である士燮は全く知らないが、今の朝廷に朝貢しておるからな。交州に行けば、捕縛されて曹操の元に突き出されるかもしれん」
「劉璋は同族とはいえ、そのような事はしないでしょうか?」
「同族だからこそ、同族を売るという事は出来んであろう」
劉備がそう述べるのを聞いて、徐福達は最もだと思った。
如何に劉備が朝廷に反抗する者と言えど、同族を売れば恥知らずと一生言われるだろうし親族に嫌われるからだ。
「益州に逃げますか。あの地は天険と言っても良いですからね。力を蓄えるには、良い土地ですな」
「殿の先祖である高祖も漢中へ左遷され力を蓄えて東進して天下を得ましたからな。それに倣うというのも悪くないですな」
徐福達は益州に逃げるという事に決めた。
その後、劉備の元を離れる長廊を歩いていると、前方から張飛が来るのが見えた。
義弟なので、劉備の頬の赤いハレがどうしてなったのか気になり訊ねた。
張飛は少しだけ言いづらそうな顔をした後、話し出した。
「なっ⁉ 殿が徐州に来る前に情を交わした者が居て、その者が子を産んでいた⁉」
「ああ、しかも冀州の田舎の県の県尉の時と、幽州の涿郡の太守をしていた時にな」
「そうなりますと、二人いる事になりますな」
「ああ、その者達の娘達が此処に来たんだ。しかも、兄者の奴、自分の子の証拠の品も渡していてな」
張飛は溜息を洩らしながら述べた。
「その者達の親はどうしたのです?」
「詳しくは聞いてないが、二人の親はもう亡くなっているそうだ。その者達が死ぬ前に、兄貴の娘という事を教えたそうでな。それで、住んでいる所から、此処までやってきて子として認めて欲しいと言ってきたそうだ」
「・・・・・・という事は、奥方様もこの話を聞いているのですね」
「一緒に話を聞いたそうだ。そして、義姉上が兄者の行いに怒って手をあげたそうだ」
それが、劉備の頬がはれている理由が分かった徐福は呆れていた。