その頃、鄴では
法正と話し終えた曹昂は一人で考えていた。
(劉備が益州に入った時期に劉璋を暗殺するか。これは考えてみると、今度こそ劉備を討てるかも知れないな)
益州に逃げ込めば、最早何処にも行く事は出来なくなる。
交州に逃げ込むかも知れないが、そうなる前に士燮に阻止する様に命じれば良かった。
「そうだ。益州に逃げ込んだ場合、士燮に益州の南部にいる親しくしている者に反乱を起こす様に指示を出すか」
そうすれば、交州に逃げ込む事も出来ないだろうと思えた。
悪くない案だなと思いつつ、問題は士燮にどうやって話を持っていくかであった。
曹昂は暫し、どうやるべきか考え込んだ。
曹昂が劉備について対処を考えている頃。
曹操は鄴に帰還していた。
軍の事は夏侯惇に任せて、曹操は屋敷に帰って行った。
屋敷に入るなり、私室に入ると溜息を吐いた。
「はぁ~、ようやく手に入れられると思っていたのだがな・・・・・・」
曹操は二喬を鄴まで連れて来れない事に、とても悔いていた。
亡き喬玄との約束を果たせない事もあるが、それよりも絶世の美人で人妻と未亡人という曹操の嗜好に嵌っていたので、是が非でも手に入れたいと思っていた。
其処に丁薔と卞蓮の二人が反対した為、許昌に留める事となった。
「・・・・・・仕方がないと思うしかないか。それに妹の小喬の方は妊娠しておるから、来るのに時間が掛るからな」
その内顔だけは見ておこうと思いつつ、酒を飲もうと使用人を呼んだ。
数日後。
政務を終えた曹操の元に曹洪から文が届いた。
此度の戦勝を祝い宴を開くので、屋敷に来られたしと書かれていた。
「ふむ。気晴らしに行くか」
曹操も政務を終えたので、特にする事も無かったので宴に参加する事にした。
丁薔に曹洪の屋敷に開かれる宴に参加する事を伝えると、何故か顔を険しくしていた。
「子廉殿の事ですから、またいかがわしい事でもするのでは?」
「あいつは確かに好色な所はあるが、別に大した事は出来ぬだろう」
せいぜい、旗袍を着せた侍女を参加させるだけだろうと思う曹操。
その顔を見た丁薔は何を考えているのか分かった様で、顔を更に険しくさせた。
「あのようなふしだらな服を着せた女性の相手をさせるのですか?」
「い、いや、儂も其処までするかは分からん。だが、親戚である以上、宴に誘われたのだ参加しなければ義理を欠くであろう」
「まぁ、そうですね」
「という訳で、屋敷の事は任せたぞ」
「お早いお帰りを」
曹操は頷いた後、用意した馬車に乗り込み曹洪の屋敷に向った。
曹洪の屋敷に入ると、そのまま宴が行われている部屋に案内された。
曹操は用意されている席に座ると、直ぐに膳に置かれている盃に近くに居る旗袍を着た侍女が酒を注いだ。
盃に口をつけて、唇を塗らせていると曹洪が近づいてきた。
「丞相におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
「此処は朝廷でもないのだ。そんな肩が凝るような挨拶をするな。お前らしくもない」
「ははは、これは失礼を。しかし、こうして話してみても思うのですが、子脩は本当に丞相の血を引いていると思えない程に固い所がありますな」
「其処はあれだ。薔が教育したからだろうな。まぁ、人妻を娶っている時点で儂の息子だなと思うがな」
「一族の皆、其処は似ないで欲しいと思うでしょうな。わたしとしては特に気にしていませんが惇が愚痴っておりましたぞ。あんなに良い子が孟徳と同じ事をするとはと」
「あやつめ。まぁ、あいつの気持ちも分かるから、何も言えんな」
若い頃、色々な女性に手を出して丁薔や夏侯惇にも迷惑をかけたので、曹操も苦笑いしか出来なかった。
「それで、今日は何をするつもりだ? 戦勝の祝いなのだから、何かしらの趣向をしていると思ってよいのか?」
既に旗袍を着た侍女が居るので、他に何か見世物でもあるのかと思い訊ねた曹操に曹洪は頷いた。
「ええ、それはもう。丞相もお楽しみ出来ると思いますよ」
曹洪が楽しそうに笑っていた。
「其処まで言うのであれば、楽しみにさせてもらうとしよう」
曹操はそう言って、内心期待に胸を膨らませていた。