買い物する話。
一夜明け、今日は聖歴1246年4月7日。メイは、昨日手にしたお金をもって、街中の店々を回っていた。
メイは、まず武具を扱っている店に入っていった。店の中は、いろいろな武器がずらっと並び、店のカウンターには、無骨なおやじが居座っていた。
「おう。冷やかしなら帰んな。」
「………冷やかし?」
「はぁ。おめぇみてぇなガキが武器なんて必要なのか?」
「………私、冒険者だから、武器必要、です。」
「そんぐらいはわかっとるわ。問題は、武器を買う金をちゃんと持ってるのかって話しだ。」
「………1万コイン以上は、もってる、ます。」
「…そうか、金貯めてきたんだな。じゃあ、気になるもんあったら持ってこい。」
武具屋のおやじは、メイが金を持っていることを知ると、態度が若干柔らくなった。このおやじにとっては、買う気もないのに武器や防具を触られるのが嫌なのだろう。
メイは、適当に店の中を歩きながら、自分が使う小剣や剣を中心に見ていた。メイはそこまで武器の性能などを判断できるわけではないが、やはり、値段の高いものはそれなりの性能であるように思える。メイの持っている金額で買えそうなものは、剣として使うことは可能であるが、メイが今持っている小剣の性能を超えるわけではなさそうであった。
今の金額では良いものを買えなさそうだと思い、あきらめ半分で店の出口へ向かっていったとき、他の武器と比べて雑多に武器が置かれている場所に気が付いた。その雑に置かれている武器の中に、メイにとってかなり見覚えのある武器があり、しかも10000コインと、その武器の性能にしては破格の安さが提示されていた。
その武器は、メイの師匠が使っていた武器に似ていて、比較的細く、若干反っているような片刃の剣であった。
「おめぇ、それを買うんか?」
「……はい。」
「おめぇカタナの使い方わかるのか?」
「……使えるかは、わかんない、です。でも、使ってるのはみたことある、ます。」
「そうか、この街は東から変わったものも流れてくるんだが、それもその一つでな。珍しいし、見た目からして性能も良さそうだから買ったが、この街のやつらは、ほとんど興味をしめさねぇ。だからおめぇが買ってくれるんならありがたいぜ。」
おやじからそんなことを言われつつ、10000コインを支払い、マジックバックの中にしまう。
「そういや、おめぇ名前なんていうんだ?」
「…メイです。」
「メイか。カタナ含め、武具関連なら俺がメンテナンスもしてやるからちょくちょく来いよ。メンテナンス不足で武器をダメにしたら、二度と売ってやらねぇからな。」
「…わかりました。…ありがとう、ございます。」
「おう、じゃあがんばれや。」
そんな言葉を交わし、メイは武具屋を後にする。
メイはその後、適当な食堂で昼飯を食べ、その近くにあった薬屋で、ポーション類の補充をし、残金が1000コインとなった状態で、学園の学科試験対策のため、何か勉強道具を買おうと本屋に向かった。
しかし、本屋に入ってすぐメイは驚愕していた。本が思っていたより高いのだ。メイが、ばーちゃんと師匠と住んでいた家にはたくさんの本が置いてあったので、食費と同じような感覚で購入できると思っていたのだが、パッと見た感じ最も安い本でも2500コインくらいはするようだ。
さらに店内を見渡して、受験勉強に適していそうな本の値段を見ると、なぜか他の本と比べて圧倒的に高価であり、まさかの30000コインであった。それなりの戦闘能力を備えているメイであれば、数日節約しながらモンスターを倒せば、購入できそうな値段ではあるが、どう見ても一般人が気軽に買える値段ではない。
今の所持金では買うことができなさそうだとあきらめて店を出ようとした時、店員の女性から声を掛けられる。
「ねえあなた、シンゾーって名前に聞き覚えない?」
「!?…知ってる、です。」
「やっぱりね。ふむふむ…。」
「?……なんで、師匠のこと、知ってるの?」
「師匠?……あ~なんとなくわかったかも。そうね、じゃああなたと少しゆっくり話をしたいから、今晩うちに泊まっていかない?」
メイは、何故か師匠のことを知っている本屋の店員を不思議に感じながらも、悪い人ではなさそうだったので、本屋の二階にある居住区に今夜は泊めてもらうことになったのだった。