目標を決める話。
「お金も手に入ったし、ご飯を食べに行こうか。」
冒険者ギルドから出てきたメイは、そんなことを独り言ちつつ人で賑わっている方へ向かい歩き始めた。
しばらく歩くと、程よくにぎわっている食堂を発見し、メイはそこに入ってみることにした。
「いらっしゃいませ~。宿泊ですか?お食事ですか?」
「……ここ泊まれるの…ですか?」
「はい!夕食と朝食付きで一泊500コインです!」
メイに声を掛けてきてくれたメイよりいくつか年上に見える少女は、元気よく教えてくれる。
「……じゃあ、とりあえず、一泊で。」
「かしこまりました!夕食は今食べますか?」
「……はい。」
「では、空いてる席に座っていてください!食事と鍵をお持ちしますね!」
そう言うと、店員の少女はカウンターの奥の方へ入っていった。メイは、言われた通り、空いている席を探して着席して待つことにした。
待つこと数分、さっきの店員が食事と部屋の鍵を持ってきてくれた。
「部屋は、4号室ね~。食事はこれね!パンは2回までならお変わりオッケーだから遠慮せずに頼んでね!じゃあごゆっくり~。」
そう言って店員は、他の客のほうへ向かっていったので、メイは一人静かに食事を取り始めた。
メイが一人黙々と食事をしていると、この宿の入り口から4人の冒険者が入って来た。よく見ると、そのうち二人は、先ほど冒険者ギルドでメイの後ろに並んでいた男性と女性であった。おそらく彼らは4人パーティで、内二人が依頼の報告のために列に並んでいたのだろう。
その4人は、以前からこの宿に泊まっていたようで、店員に一言声を掛けると、食事をするため席を探し始めた。そして、メイの周りの席が空いていたこともあり、彼らはメイのところへやって来た。
「お、さっきの嬢ちゃんじゃんか、お前もここに泊まってたのか?」
「……私は、今日から。」
「そうか、俺らもそこに座っていいか?」
「…はい。」
「ありがとな。そういえば嬢ちゃん名前なんて言うんだ?」
「……メイ、です。…お兄さんたちは?」
「ん?ああ、メイは最近この街に来たばかりなのか。俺は、ジーンだ。んで、さっきも一緒にいたこいつがレイラな。」
「レイラよ、メイちゃんこれからよろしくね。」
「それで、さっきはいなかったが、この二人がアシュリーとエリノアだ。」
「よろしく。」
「よろしくお願いします!」
「……よろしく、お願いします。」
メイは、恥ずかしがりながらもなんとか挨拶をすることができた。そんな挨拶を交わしている間に、ジーンたちの食事も運ばれてきたので、一緒に食事を取ることになる。
メイはこんな大人数で食事をすることは初めてだったので、すこし緊張しながらも、基本的に4人の話を聞きがら、過ごしていた。
彼らは、この街でかなり長く冒険者をやっていて、なんとDランクになっているそうだ。メイが、今日冒険者になったばかりというのを伝えると、この街で冒険者をやっていくための注意点などを教えてくれた。年の離れているメイに対して気さくに接してくれているのは、メイが大量のモンスターを売却していた場面を目撃していたため、小さなメイのことを侮ることなく、ある程度の実力のある冒険者だと既に認めていたことも大きいのかもしれない。
「そういえばメイは、なんで冒険者になったんだ?」
「…師匠に、もっと強くなりたいなら、同世代の人たちが集まる、学校に行けって、言われた。…それと、ばーちゃんが、お金は冒険者になって、自分で稼ぎなさいって、言われたから。」
「え!?じゃあメイちゃんは、迷宮学園に行くつもりなの!?」
メイが、ジーンに聞かれた質問に答えると、レイラが驚きの声を上げる。
「…迷宮学園?」
「その師匠が言ってる学校って、たぶん迷宮学園のことよ?」
「…そう。…どうやったら入れるか、知ってる?」
「えーっと、エリノアは知ってる?」
学園への入学方法を知らなかったらしいレイラは、一番物知りっぽいエリノアに問いかける。
「たしか、受験資格を持つ人は、3月31日の時点で12歳になっている予定の人で、3月1日に受験料金貨3枚を支払うことの出来る人が受験できるはずです。…それと、受験内容としては、文字の読み書き、算術、社会のルールなどの常識が出題される筆記試験と、戦闘能力をはかる実技試験の合計点数で試されるらしいです。」
「うわ~、金貨3枚って結構高いな!」
エリノアの説明を聞き、ジーンが驚いている。ちなみに、金貨3枚とは30万コインである。
「…金貨3枚と、勉強が必要…。ありがと。」
「いえ、メイさんなら無理をしなければお金と実技は問題なさそうですので、勉強を頑張ってください。」
「うん。」
こうして、メイの当面の目標は金貨3枚を集めることと、筆記試験に合格できる程度の勉強をすることとなった。