モンスターを換金する話。
腰に掛けているマジックバックに、倒したモンスターが入りきらなくなったため、メイはギルドに戻り、モンスターの素材を売ることにした。
この世界では、24時間制がとられていて、だんだんと日が伸びてきている今日この頃、18時のギルド内は、依頼完了の報告やギルドの休憩スペースでの食事などを目的として、多くの冒険者で溢れかえっていた。
メイは、素直に冒険者用カウンターの列に並び、自分の番が来るまで静かに待っていた。
「おい嬢ちゃん。ここは冒険者用の列だぞ?依頼者用はあっちだ。」
メイのすぐ後ろに並んでいた、20歳前後に見える、そこそこ顔のいい男がメイに話しかけてきた。
「…………しってる…ます。私冒険者…です。」
メイは、突然話しかけられたことに戸惑いつつも、自分も冒険者であることを伝える。
「まじか!?お前まだちっさいのに大変だなぁ。余計なこと言って悪かったな。」
「……だいじょぶです。」
「そうか。というか、別に敬語じゃなくて大丈夫だぞ?」
「……そうなの?」
「ああ、冒険者は変になめられたらダメだから、冒険者同士はタメ口でもオッケーっていう暗黙の了解があるからな。つっても、お前みたいな小さいのからタメ口効かれるとイラつくやつもいるかもしれないから、そこは自己判断だな。」
「……?」
結局どっちがいいのかわからないアドバイスを受け、メイは少し困惑してしまった。
すると、その男の後ろから一人の女性が顔を出してきた。
「あんた子供に何適当なこと教えてるのよ。この子、目をパチパチさせてるじゃない!」
「いやだって事実じゃんかぁ。」
「…はぁ、まったくあんたは…。まあ、あなたがまだ小さいうちは、変な反感を買わないように基本は敬語を使っておいたほうが良いわよ。だから、さっきのあなたの対応が正解だと思うから、今後も続けていってね。」
「…はい。」
「あ~、なんか説教臭くなっちゃったけど、先輩からのアドバイスってことで受け取ってくれると嬉しいわ。こいつがいきなり話しかけちゃってごめんね。」
「…だいじょぶです。」
「そろそろあなたの順番が回ってきそうね。また、ギルド内であったらよろしくね。」
「……ありがとうございます。」
メイは、話しかけてきた先輩たちからのアドバイスを胸に刻み、正面に体を戻した。すると、ちょうど前に人の用事が終わったらしく、受付の人から声がかかる。受付は、さっきメイの登録をしてくれた人ではなさそうだ。
「冒険者カードの提示をお願いします。」
言われるまま、メイは自分のカードを提示する。
「Gランクのメイさんですね。依頼を受けていたわけではなさそうですが、どういったご用件でしょうか?」
「……モンスターを倒してきた、…死体売れるって聞いたから、売りに来た、です。」
「素材の売却ですね。素材は外ですか?」
「…?この袋の中に、あるます。」
「あら、マジックバックを持ってるのね。中にはどのくらい入ってますか?」
「んー、10よりは多いです。」
「では、そのマジックバックからこのマジックボックスの中に今回売りたい素材を全部入れてください。」
そう言われ、メイはマジックバックから、今日倒したモンスターの死体を一体一体移していく。
はじめは、草食動物で比較的おとなしく、食肉としても優秀で人気のあるブラウンディアをどんどん移し、ブラウンディアがなくなったら、ポーンラビットを移し始める。
「多いな。」
「…そうね。」
受付嬢や、メイの後ろにいた冒険者は、その量に驚きを隠せずにいるが、たんたんと死体を移し替えているメイに対して、特に何も言えずに見守っていた。
だが、ポーンラビットの次にメイが取り出したものを見て、受付嬢が声を上げた。
「え!?メイさん!これって、ブラックウルフですよね!?」
「……名前は知らない。」
「このブラックウルフはどこで倒してきたんですか!?」
「……えっと、東門から出てまっすぐ行ったとこにある森の中?です。」
「ええ!?東の森に入ったんですか!?あそこは、メイさんみたいな子どもには、危険な場所なんですよ!」
「…そうなの?」
「…いえ、まあすでにブラックウルフを倒せる実力があるということなら、危機は少ないのかもしれませんが…。森の中にはもっと凶悪なモンスターもいるので、気を付けてください。」
「…わかったです。」
「…ふう、急に大声上げてしまいすみませんでした。これで終わりですか?」
「ううん。さっきのオオカミあと5体ある。」
「……。」
10歳前後の女の子が、ブラックウルフを6体も倒してきたという事実に、受付嬢は数秒間フリーズしてしまった。フリーズから戻った受付嬢は、心ここにあらずといった状態ではあるが、メイの持ってきた素材の換金作業を行い、メイに15400コイン支払った。
1000コインあれば、2,3日気楽な生活をできる程度なので、メイは今日一日で庶民として約一か月分の生活費を手に入れたことになる。
また、ブラックウルフを倒してきたことに受付嬢がたいそう驚いていたが、ブラックウルフというモンスターは、Dランクの冒険者でも、1体多数で囲まれてしまうと命を落としかねない、凶悪なモンスターであり、そんなモンスターを10歳前後の女の子が倒してきたという事実に衝撃を受けたからであった。