8話 特別な日・後
「はっぴばーすでーとぅーゆー……ぱっぴばーすでーとぅーゆー……エヘヘヘヘ。誕生日おめでとー、自分……」
目覚めたときはソファーの上でした。どうやら一命は取り留めていたようです。
それよりも、何だこのもの悲し過ぎる声。
見ると、テーブルの上に出前のピザを置き、それにロウソクを差している姉がいました。
「何やってるんだ姉よ」
「……起きたか弟よ」
姉の目はいつも以上に死にまくっていました。おい、焦点合ってないぞ。
「一人で何をやっているんだ。ピザにロウソク差してる奴は初めてなんだが」
「何って、自分自身の誕生日を祝っているのさ。ほら、姉ちゃんヒッキーだから自分でケーキ買おうと思っても外出られないだろ。といっても出前にケーキなんてないし……」
「それでピザか」
「そうさ。意外と楽しいものだぞ、一人誕生日パーティー。何事も一人で楽しめないようじゃ損だからな、ハハ……」
そんな悲痛な声で言われても。
「あひ、あひひ。デロデロデロロロロロ」
そんなこの世のものとは思えない笑い声上げられても。
……ちょっと意地悪し過ぎたかな。
「姉よ、一ついいこと教えてやろう」
「なになに? 私がどれだけ世間から不要な存在だっていう証明でもしてくれるのかな? きひひ、うええっひ、あびびび」
「……ケーキにも出前はあるぞ」
「ひゃ?」
――ピンポーン。
「ちわーっす! お届けものでーす!」
快活な宅配のお兄さんの声が聞こえました。唖然とする姉を尻目に、俺は玄関へ向かいました。
再びリビングに戻ると、姉は先ほどの顔で一時停止したように固まっています。
宅配のお兄さんから受け取った白い箱をテーブルに置き、「開けてみろ」と姉に促しました。まぁ自分で箱を開けるのも気恥ずかしいというか、この状況にもそぐわない気もしたので。
目を丸め、おそるおそる箱を開ける姉。
「……姉、二十一歳の誕生日おめでとう」
「チョコに書いてある文字読み上げるな馬鹿」
くそ、急に恥ずかしくなってきた。
俺は手早くソファーの下に隠してあった袋包みのプレゼントを取り出し、姉に押しつけるように渡しました。
「一応家族だしな。どうせ他に姉の誕生日など祝ってくれる者などいないんだろう? まぁ流石に可哀想というか……俺も嫌々祝っているわけで決して勘違いしないでほしいし、悪くまで形だけでも、と。いや、そのなんていうか」
何故こんなに呂律回ってないんだ今日の俺。
「……オメデトウゴザイマス」
「……弟よ」
終始呆然としていた姉。突然下を向き、わなわなと震え出しました。
「愛してるっ!」
飛びかかってきた、もとい抱きこうとしてきたので俺は慌ててそれを躱わしました。
「何故避ける」
「本能が俺に避けろと命令した。つーか姉よ、愛してるは何か違うだろ」
「いやそれくらいの感謝の意を込めてだな。というかお前こそ焦らし過ぎだろうが。危うく精神崩壊するところだった」
既に崩壊していたような気がしますが。
「姉があからさま過ぎたからな。祝ってもらう態度じゃなさ過ぎてもう誕生日取りやめてやろうかと思っていたんだ」
「まーたそんな照れ隠し言って。このツンデレ君が」
「ツンデレ言うな」
……まぁそんなこんなで姉の誕生日は無事円満を迎えましたとさ。
おまけ。
「弟よ」
「どうした姉よ」
「プレゼントが就活本ってどういうことだ!」
「いい加減働けよ」
「嫌だ」
「……ヒキニートが」