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59話 【弟の一日】姉に実況させてみた【with鬱蔵】

皆さまお久しぶりです。姉弟家は今日も元気です。

今回は温めすぎて放置しまくっていたネタをご提供します。

 こんにちは、弟です。

 今日は休日です。春の陽光を浴びていると、時間がゆったりとして感じますね。

 こんな日はのんびり寝るに限ります。

 気持ち良くベッドで横になっていると、すぐそばで姉の声が聞こえました。


「皆さんこんにちは、姉です。本日はグループリーグ第一戦、弟の一日を実況していきたいと思います。本日の解説には、もちろんこの鳥、鬱蔵さんをお招きしております。鬱蔵さん、よろしくお願いします」


「ヨロチクビッキュー」


 布団をかぶりつつ、ちらりと確認。姉が、首にかけた紐につながる、コントのような台に手を置きつつ、俺をまじまじと観察していました。台の上には、鬱蔵の姿も。

 そして、台の上に立てられた名札。

 『実況 姉』『解説 鬱蔵』


 何をやってるんだこいつらは。そしてなんだこの昭和臭ただようノリは。

 とりあえず、起き上がってみましょうか。


「おおっと起き上がりましたよ。ただいまの時刻、午前9時4分。昨日弟がベッドに入ったのは昨晩の11時18分でしたから……鬱蔵さん、この睡眠時間の意味するところは?」


「寝スギ」


「……ハハッ」


 なに鼻で笑ってんだ姉。


「ともあれ、これでようやくスタートです。弟の一日はとにかくクソつまらないですからね。サポーターも、観客席で人生ゲームでもやって時間を潰していることでしょう」


「弟ノ人生ヨリハ楽Cカラネ。キョー!」


 ……無視しましょう。俺は有意義な休日を過ごしたいのです。

 ともかく、腹が減ってきたので朝ご飯でも作りましょうか。


「おっと、ここでまた弟に動きが。カーペット上を迷いのない足さばきで進んでいきます。オッ、もう扉を発見したか!? すぐさまドアノブに手をかけ……開けたぁっ! いやー、さすがは弟です。無駄のない流麗な動きでしたね。部屋の扉がどこにあるのか、最初から把握していたかのようです」


「マ、自分ノ家ダカラネ(笑)」


 なんだ鬱蔵、その(笑)は。腹立つ。

 キッチンへ向かうと、案の定、姉と鬱蔵の実況解説コンビもあとを追ってきます。


「おや、この弟、パジャマのまま料理に入るようです。まさか、エプロンを着けないというのでしょうか。これはいけない! パジャマが汚れてしまうかもしれない! 弟は気づいているのか? おっと審判、早くもカードに手を伸ばしかけています。あーあー、どうなんでしょうねぇコレ、鬱蔵さん」


「パジャマノ柄キモッ」


 殺したい。いや、無視だ無視。相手をすれば姉たちはつけあがります。


「冷蔵庫から卵とソーセージを取り出しました。ポットのお湯を沸騰させていますね。これはコーヒーの下準備でしょうか? まな板出して、包丁取って、おおーっ、キャベツを刻み始めた! この弟、休日の朝を洋風スタイルでキメるつもりでしょうか。どうですかね鬱蔵さん?」


「オシャレ(苦笑)」


 だからその(苦笑)やめろ鬱蔵。

 さて、朝飯も出来上がりました。姉たちの分は無視してさっそく食べることにしましょう。


「さっそく朝食を運んできましたね。『いただきます』はするのか? ……やりました! いただきます貰いました! しかしこれはいけないですねー、箸を指に挟んだままです! 食物に対する感謝の気持ちが足りない証拠でしょうか?」


「一人デ食ッテルシ」


「お、上手い! 左サイドに置いた皿の位置を手で直しましたね。ここは流石と言ったところでしょうか。私生活においても位置的バランスには手を抜きません。生来からの几帳面が功を奏しましたね」


「オ腹空イタ」


 よし、食べ終えました。テレビでも観ましょう。


「おや、テレビのリモコンを探していますね。しかし……見つからなぁい! 弟にも若干の動揺が見られます。それもそのはず、いつもはテレビ台のふちに置いてあるはずですから!」


「アクシデントッ」


「リビング内にも張り詰めたような緊張感がただよっています。観客席からはブーイングが漏れているようですよ。完全にアウェイですね。弟、苦しい状況です」


「食器モ片付ケテナイヨ?」


「おーたしかに! だがここで弟、リモコンを発見した! とことんタイミングが合いませんねぇ。……あれ、リモコン、こたつの中にあったんですか? あっ、そういや私、昨日こたつの中にリモコン置きっぱにしてたかも。すまん弟」


 素に戻ってるぞ姉よ。まぁ突っ込んでやらないが。

 さて、リモコンも見つかったことだし、食器洗いながら見よう。


「テレビを見ながら食器を洗い始めました。最初からこのつもりだったようですが、いやはや、見てるこっちがハラハラしてくるようなプレイですねぇ。いつイエローが出るか分かりません。おっと! 皿をシンクに落とした!」


「イワンコッチャナイ」


「弟、皿が割れていないか確認しています。……おや? 皿の裏に何か書かれていますね? あれは、なんと書かれているのでしょうか?」


「ダイソー」


「100均!? 100円で購入した皿を滅茶苦茶心配しています! ちょっとヒビ入ってて弟涙目です! どこまで貧乏なのか! 我が家はどこまで貧乏なのか!?」


「100均ナノニオシャレ(笑)」


 はぁ。皿はもう諦めよう。

 あ、そうだ。昨日TSUTAYAでDVD借りてきたんだった。

 暇だし見ようっと。


「弟、レンタルDVDを取り出そうとしています。会場内もざわつき始めました。エロなのか!? エロDVDなのか!? そんな雰囲気ですねぇ。まだお昼なんですけどねぇ。報道陣もカメラを下げる構えを取っております」


 これだこれ、ダヴィンチコード。早く観たい。


「オッシャレー」


「ダヴィンチコードと来ましたねぇ鬱蔵さん。さっそく観始めていますが、果たして内容を理解しているのでしょうか? ひたすらうんうん頷いてますけど」


「インテリジェンス(笑)」


「い、居眠りをしているー!? この弟、やっぱり内容分かっていなかったー! 身の丈に合っていません。完全に気取ってます。映画通を気取っていた! 姉として代わりに謝ります。ふつつかな弟ですみません!」


「プロダネ」


「プロですねー。この無理してる感じがプロですねー。普段の突っ込みも相当無理してますからねー」


 はっ、寝てしまったか。しかも映画終わってるし。ま、いっか。

 そろそろ掃除でもしようかな。


「さて、時刻も午後3時を過ぎたところで後半戦開始です。弟が掃除を始めましたね。停滞した日常展開が続きます。ここはそろそろ得点を決めてもらった方が、こちらとしてもありがたいんですけどねぇ」


「グースカピー」


「おや、仏壇の埃はたきがいい加減ですね。マークが甘いです。ご先祖様が泣いています。まぁ、この微妙に抜けてる感が弟らしいっちゃらしいんですけど、ハハッ(笑)」


「ハハッ(笑)」


 よしこんなもんか。さて、次は姉の部屋を掃除しよう。


「二階に上がっていきます。次はどこを掃除するつもりでしょう? おっと私の部屋に入った! 問答無用で私の部屋の扉を開けた!」


「キッタネエ」


「汚ねえっ! 私の部屋汚ねェェェーッ! エロゲの箱が散乱しています。服も脱ぎ散らかされております。今朝床にこぼした牛乳もそのままだぁーっ! 弟も思わず苦しい表情! どうする、どうする弟? つーか私、怒られるのか?」


 チッ。しょうがない姉だ。あとで説教してやろう。


「フツーニ掃除シテンネ」


「ほっと一息ですね。普通に掃除を始めました。いや、でも一回舌打ちしましたね。それでも無言で掃除をしています」


「シャチク」


「鬱蔵さんの言う通りですね。彼は社畜ですからね。どんな苦難にも黙って対応する術を身につけております。ここも、プロ、と言ったところでしょうか」


「シャチクノプロ」


「ですねぇ……おっと! ここで姉の下着を発見した! 嗅ぐのか!? 嗅がないのか!?」


「クンカクンカ?」


「嫌そうな顔をしたぁー!? 失礼です。これは危ないプレイですね。相手選手も怒りを露わに審判に抗議を始めました。監督が怒声を張りあげております」


「プンスカプンスカ!」


「掃除も一段落というところでしょうか。弟、リビングでコーヒーを飲みつつ、夕方のワイドショーを観ています。しかし、弟は大丈夫なんでしょうか? お昼を一切食べていませんよ?」


「ウチラモネ」


 なんか腹減ったな。ポテチでも食うか。


「姉用のポテチを貪り食っています。容赦ありませんね。容赦なく貪り食いますね。死んでくれませんかね」


「ヤッパコンソメダヨネ」


 おっ、もうこんな時間か。そろそろ夕飯の準備をしなければ。


「ここで弟、再びキッチンに立ちました。夕飯を作り始めましたね。今日のメニューはなんでしょうか?」


「ハンバーグ?」


「ハンバーグ? ハンバーグなのか? 肉の塊をぬちゃぬちゃやっておりますが、あれは本当にハンバーグなのか?」


「音エロイヨネ」


「おっと肉を床に落とした! 弟、驚愕の表情を浮かべている! どうする? 捨てるのか? ただでさえ我が家は貧乏なんだぞ?」


 あーあ、落としてしまった。どうしようこれ。うーん……。


「ま、姉のにしとけばいいだろ」


「わ、私だとォーッ!? 実の姉に床に落ちたハンバーグを食べさせようとしています!」


「キチク」


「鬼畜です。たしかに鬼畜ですね。社畜の上に鬼畜ですか。彼の血は何色でしょう? 床に落ちたやつ普通にフライパンで焼いています。しかも洗ったりとかせずに! 洗うくらいしろよ! 大丈夫か私! そろそろ口出さなくていいのか私! 実況してる場合なのか!?」


 よし……夕飯出来たっと。ハンバーグ落っことさなきゃ姉には作らないつもりだったけど、まぁいっか。


「おい姉。夕飯出来たぞ」


「ピッピッー」鬱蔵が笛を吹くかの如く鳴き喚きました。


 姉が簡易台を床に叩きつけ、憤怒の表情をしました。そして、胸ポケットからびしっと赤い札みたいなものを出して突き付けてきました。


「レッドカード!」


「なにが?」


「なにがじゃないよ弟! それ床に落ちたハンバーグじゃん! なに普通に食わそうとしてんの!?」


「いや勿体ないだろ、食わないと」


「勿体ないのは分かるけどせめて洗えよ! ていうかお前が食え! ていうかなにさり気なく私たちの朝飯抜いてんの! ていうかいい加減突っ込めよっ!」


「いや、面倒臭かったし……」


「……もうお前突っ込みキャラ辞めちまえ!」


 姉が絶叫し、ボケ一方通行な一日が終わりました。

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