5話 エロゲー
今日も不健全にPCに耽る姉。
何をしているのか覗き込んでみると、画面に映ってるのはなんともピンク色な二次元の世界。姉はヘッドフォンも付けずに堂々とリビングに置かれたPCでそれに没頭していたのでした。
「おい姉よ」
「なんだ、姉ちゃんは今忙しい」
「忙しいのはいいんだが、何がどう忙しいんだ? 俺の目にはとてもそうは見えないのだが」
「エロゲーで忙しい」
「言い切った。こいつ臆面もなく言い切ったよ。それなら大人しく自分の部屋のPCでやってくれないか」
「何故だ。エロゲオタのお前ともあろう男が、これしきのことを気にするというのか」
「おい、不名誉過ぎるレッテルを張るな。名誉毀損で訴えるぞコラ」
「不名誉だと? お前エロゲオタを馬鹿にしてるのか? お前こそ名誉毀損で訴えるぞコラ」
こういう、とても一般人に受け入れてくれなさそうな事をけろりとした顔で言い放つ姉。俺は思わず頭を抱えてため息を吐きました。
「もう勝手にしろ。ただしヘッドフォンくらいは付けて……」
ここで、ある疑問が浮かぶ俺。
「ちょっと待て。このリビングのPCって俺のだよな」
「ん? あぁ、このエロゲー諸々をインストールした事を指摘したいのか。礼には及ばんぞ。お前も実はこういうのに興味があるんだろう。このむっつりが」
「色々突っ込みたいところだが、諸々ってなんだ諸々って。複数なのか、インストールしたのは複数なのか」
「軽く十八作品」
「今すぐ全部アンインストールしろ」
「嫌だ。弟のPCのが型が新しいから何かと都合が良いんだ」
「そういう問題じゃないだろ。まぁ姉がやらなくても後で自ら消すが」
「ふざけろ。そんなことしたら姉ちゃんの怒りの鉄拳が百八発飛ぶぞ」
「何故に煩悩の数。というか本当に勘弁してくれ。誰かに俺のPCいじられたらどうするんだ。面目丸潰れもいいとこだ」
「いじられる以前にうちに来客なんて来んだろ。何をそんな必死に……」
「……いや」
姉マウスをクリックする指が止まりました。ハッと何かに気付き、恐る恐る俺の顔を覗き込んできます。
「お前まさか……彼女が……」
「……」
「うわ、出た。リア充だ、これ。うーわ。マジで。ないわ、リア充とか」
「おいなんだその軽蔑するような目は。つーか何だリア充って」
「リアルが充実している全く不届きなKYな者共を指す俗語だ」
「なんだその圧倒的な負を纏った僻みの塊のような俗語は。姉のような現実社会で恵まれていない可哀想な輩共ですこぶる流行りそうなネット用語みたいなのは」
「この口か」
上唇を思いっきりつねられる俺。
「痛たたた。すまん言葉が過ぎた。痛いマジで洒落にならん」
パチンと指が離れます。姉はまだ何か不満そうな感じです。
「弟に彼女……あの弟に……クソッ、こんなブタ眼鏡ゴリラに……あり得ん!」
「おい、俺はブタでもないし眼鏡でもないしゴリラでもないぞ。弟の変な想像図を脳内で構成するな」
「三次元の人間など全員ブタ眼鏡ゴリラも同じ」
「なんだその退廃的な思考は。流石の弟も心配になってくるぞ」
「ええい黙れこの三次元が。貴様の彼女にイタ電して『お前の彼氏の姉ちゃんさぁ、ヒキニートで重度のネトゲとエロゲオタだよ』って言ってやろうか。そしてドン引きされて嫌われてしまえばいいんだ」
「……お前悲しくなってこないか?」
「……正直自分で言ってて死にたくなってきた」
「……」
「実際この会話を続けることすらもう辛い……」
「まぁ……そう思い詰めるな姉よ。ちょっと自暴自棄になってるんだ。今日はもう寝ろ」
「……そうさせてもらう」