表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/63

57話 姉の生態

 どうも弟です。


 最近テレビで見たのですが、ヒキニートを脱するためには、家族が彼らを理解してあげることが第一だ、ということを知りました。

 所詮テレビの受け売りだろ、などと言ってはいられません。なんせ今年の俺は本気です。初めから無駄だと断ずるのは愚かしいことなのです。

 姉とは二十一年来の付き合いですが、もしかしたら俺の知らない姉の悩み・心の闇があるのでは、と懸念しました。


 今日は会社も休みです。

 この機に姉の生態を観察してみたいと思います。

 まずは事前に得ている知識からまとめてみましょう。



 年齢 22歳

 職業 引きこもり・ニート(推定三年以上)

 身長 俺より若干低い程度。

 血液型 AB型

 利き手 右

 好きな食べ物 スイーツ全般、鶏肉料理etc

 嫌いな食べ物 一部の魚、チーズ類etc



 とりあえず、こんなところでしょうか。

 お、さっそく姉が起きてきました。

 姉の寝癖は今日も前衛的で、どこぞのキャバ嬢の昇天ペガサス盛りを彷彿とさせます。どうやったらこんなことになるのか。

 ちなみに、現在の時刻は朝の8時15分。


「おはよう弟よ、朝飯はまだか」


 そう、姉は意外と早起きなのです。

 ヒキニートといえば、まっ昼間に起き出すイメージですが、ここは彼らと姉との決定的な違いと言えましょう。

 よし、こうして姉の生態をどんどんメモ帳に書いていくとします。



 ◆◆◆


 姉の生態その①「姉の歯磨き粉はいまだにアンパンマンこどもハミガキ」


「あっ、おいこら弟ー!」


 洗面所から姉の怒声が聞こえました。

 今は食器の片付け中なのですが、やけにやかましいです。エプロンで手を拭き、しぶしぶ洗面所へ。


「弟、これはどういうことだ!」


 姉が突き出しのは、新品のアンパンマンこどもハミガキ。

 もう歯磨き粉の残りがないからと、俺が昨日買い足してきたものです。


「なんだ、姉がいつも使ってる歯磨き粉じゃないか。せっかく新しいの買ってきたのに、何が不満なんだよ」


「ここをよく見ろ!」


 姉が歯磨き粉のパッケージを指しました。

 『いちご味』との表記があります。


「メロン味じゃないと駄目なんだよッ! いちご味とか、私はもうガキじゃないんだぞ!」


 補足:アンパンマンこどもハミガキはメロン味でないと駄目。



 ◆◆◆


 姉の生態その②「姉はネトゲではネナベキャラ」


「大変だ、どうしよう弟よ。ネナベなのがバレそうだ」


「その前にネナベってなんだ姉よ」


「ネナベとは、姿が見えず素性がわからないネットワーク社会の匿名性を利用して、女性が男性を装うこと及び装っている人を指す言葉だ。対語として逆のケースの「ネカマ」なんてのもある」


「wikiで調べたかのような正確無比な説明をありがとう姉よ。で、どうしてそのネナベってのがバレそうになってるんだ。どうせネットだから顔なんか見えないんだろ」


「いやな、スカイプをしませんかと誘われたんだ。相手はガチのゲイらしくて、私も調子に乗ってゲイキャラ演じてたら、ひたすら気持ちの悪い全裸画像を送ってきやがったんだ。その上『僕ら気があうね。どうだい、スカイプエッチでも』と誘われて」


「なんだかよく分からんが、その前にスカイプってなんだ? 無知で悪いな」


「スカイプとは、P2P技術を利用したコミュニケーション・ソフトウェアであり、比較的低速な回線やファイアーウォールの内側でも高音質の安定した通話を」


「いやもうwikiはいいから! つまりスカイプで無料通話やビデオ通話が出来るってことだろ」


「ちゃんと分かってるじゃないか弟よ。一応スカイプは断ったんだが、まだ相手もしこくてな。そこで、弟に頼みがある」


「……なんだ」


「明日会わないか、と誘われてるんだ。絶対何もしないらしいぞ。場所は近所のカラオケ屋。監視カメラないところだけど、まぁ大丈夫だろ、何もしないらしいし」


「いや、それ普通に食われるだろ俺!」


 補足:俺はたまに姉の尻ぬぐいを頼まれる。



 ◆◆◆


 姉の生態その③「姉はメタ発言が好き」


「小説家になろうのランキングがファンタジー一色なのは運営の陰謀なのか弟よ」


「それが需要というものだ姉よ」


「異世界召喚ってあり得ないくらい流行ってるけどどうなってんの?」


「もはやこのサイトの文化だ姉よ」


「ぶっちゃけヒキ姉アンケートってなんのために作ったんだ弟よ」


「それは俺に聞くな」


「第一話『姉、起床』の小説と漫画のクオリティの落差あり過ぎじゃね? 小説の方すげえお粗末じゃね?」


「泣けてくるからそれだけは言うな」


「弟は彼女いる設定なのに、いつまで経ってもその彼女とやらを登場させないのはあれか、万が一のための女性読者離れを避けるためか? じゃあ最初からその設定作らなかった方がよかったんじゃね? ていうか、その前に女性読者いるの?」


「それはあれだ、俺をリア充にすることで姉の非リア充っぷりをさらに高めようという計らいだったんだ、多分」


「ここ最近の私を見て思うけどさ、もはや姉というキャラクターで読者を萌えさせようという気はないんだろ? え? どうなんだコラおい」


「姉よ、それは最初からだ」


 補足:姉は初っぱなから萌えないヒロイン。



 ◆◆◆


 姉の生態その④「姉が眼鏡をかけるのはかなり稀」


 姉が俺のノートパソコンでエロゲをしていました。

 珍しく、姉は子黒さんのお店で買った黒フレーム眼鏡をかけていました。


「姉が眼鏡なんて珍しいな」


 画面を見つめ、にやけ面を保ったまま姉は答えます。


「おう、エロゲをするときは必ずかけているぞ。より鮮明に見るためには必須だ。なんだかモザイクの奥まで透けて見える気がするんだ」


「ふーん……」


 また、あるときの姉。

 二階のベランダにて、姉が手すりからまじまじと下を見下ろしていました。

 ここでも、何故か眼鏡着用。


「姉よ、そんなところで眼鏡なんかかけて何をしてる。洗濯物干したいから邪魔なんだが」


「もうちょっと待て、そこを歩いている女子小学生のスカートの中が、風のおかけでもう少しで見えそうなんだ。もうちょっとだけ待ってくれ」


「流石に気持ち悪いな姉よ」


 また、あるときの姉。

 姉がテレビを見ていました。テレビにはジャニーズのイケメンタレントが映っており、バラエティーの罰ゲームで水を被る、というときのことです。


「はっ、弟よ! 私の眼鏡はどこだ!」


「どうした姉よ」


「櫻井くんが水を被るんだ、もしかしたら色んなものがこぼれ出るかもしれんだろ! 早く眼鏡を!」


「ことあるごとに気持ち悪いな姉よ」


 補足:眼鏡はひたすらエロに活用。



 ◆◆◆


 姉の生態その⑤「実はちょっと霊感あり」


「弟よ。最近、一人で部屋にいるはずなのに、謎の声が聞こえるんだ」


「声? 鬱蔵じゃないのか」


「違う違う。なんかオッサンみたいな声で『夢を追いかけてフリーターをやってた頃が懐かしい。結局バンドメンにはなれず、就きたくもない職に就き、好きでもない女と見合い結婚。せっかく入った会社までも倒産、妻や娘とも別居。そうだ、あの公園の木の葉っぱが全て散ったら、私の人生にも終止符を打とう……』とかなんとか言ってる」


「……崖っぷちだなオッサン」


 そしてなんかデジャブ。


「ちなみに、ちょっとだけそのオッサンの姿も見えるんだ。今も弟の頭上を舞っている。妖精みたいなキモい格好で、しかもギター弾いてるぞ。お前、もしかしてオッサンに憑かれてる?」


「……」


 身に覚え(52話)があるので俺は何も言えませんでした。


 補足:この家はたびたび霊らしきものが寄りつく(14話、25話、50話など)。



 ◆◆◆


 姉の生態その⑥「バレンタインデーはいつも受け取る側」


「弟よ、今年もあれ、貰えるんだろうな」


「何が?」


「何がじゃないよ! バレンタインだよバレンタイン! 私が誰からも貰えないの、弟も知ってるだろ!」


「あぁ、一応用意してあるんだよな。一日早いけど、もう渡しておくか。ほれ」


 俺は冷蔵庫からチョコを取り出しました。

 スーパーで売ってた88円の板チョコ。いやー、安かった。

 それを受け取った姉はしばし呆然と板チョコを見つめ、それから肩を震わせながらテーブルに突っ伏しました。


「手作りがいいよぉ……愛情のこもった手作りがいいよぉ……」


「……ていうかこれ立場逆だろ」


 補足:バレンタインは愛情のこもった手作りチョコでないと泣く。



 ◆◆◆


 姉の生態その⑦「姉は現実と空想が常に曖昧」


「弟よ、絆創膏ってどこだっけ。手怪我したんだが」


「確か和室の方にあったはずだけど、どうして怪我なんか」


「いや、るろ剣読んでさ。二重の極みを私も極めたかったから、ひたすら壁で練習してたんだ。そしたらこうなった。何故私には極められないのか、全く意味が分からない」


「現実だからだ、姉よ」


「何を言ってる弟よ。事実は小説より奇なりと言うだろう。そろそろ、美少女が空から降ってきてもいい頃だと思うのだが」


「そもそも姉は外に出ないだろ。もし空から美少女が降ってきても、姉が気づいてやれずに美少女は墜落死するだろ」


「あ、そうか。ならばそろそろ、うちにも可愛いくりくり幼女が訪ねてきてもいいはずだ」


「桜ちゃんのポジション取られるぞ姉よ」


「よく覚えとけ弟よ。桜ちゃんは小学校高学年だから童女、幼女というのは小学校低学年以下の女の子を指すのだ」


「どうでもいい独自見解だな姉よ。この前姉が語った『エロゲとギャルゲと泣きゲと燃えゲの違い』くらいどうでもいい」


「もしこれがコメディだったらそろそろオチをつけなきゃなんだけど、私ここでなんてボケればオチつくの?」


「やめろ、現実だからこれ、現実」


 補足:現実と空想の境界は常に曖昧。



 ◆◆◆


 姉の観察を一時中断した弟です。

 結局姉は姉であり、追求するだけ無駄ということでした。理解しようとしても、俺には突っ込みを入れるだけで精一杯です。

 逆に心の闇があった方がよかったな、なんて虚しいようなやり切れないような気分になる俺でした。

更新遅れてすみません。姉はちゃんと弟からバレンタインチョコ貰えてよかったですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ