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4話 ゾンビ

 貴重な休日。

 阿呆な姉のせいで最悪の休日となりました。くそ、ニートの分際で。

 そこで俺はとびきりの仕返しを思いつきます。

 呑気にネットゲームに耽る姉に近づき、いつものオクターブ低い声で話しかける俺。


「お姉ちゃん」


 姉は、棒でつつかれた蛇のように身を震わせてゆっくりとこちらを向く。


「や、やめろ。私に弟属性の気はない。マジで吐き気がする。きしょい。あー、子分みたいに使える可愛い妹のがよかったわぁ……おえ」


「お姉ちゃんの単語だけでここまでなじられるとは思わなんだ。流石は我が姉」


「で、なんだ。私はこれからネトゲで予定が」


「今から買い物に行くぞ」


「そうか。いってらっしゃい」


「お前も行くんだよ」


「嫌に決まって……痛たたた、引っ張るな。ちょっ、誰か男の人呼んでぇ!」


「落ち着け。半年も引きこもって、もうすぐお前二十一じゃないか。そろそろ焦りを感じてほしいんだ。リハビリだよリハビリ」


「今なんと言った? 私が今年で二十一? ふざけるな、私は永遠の十九歳の少女だ!」


「十九ってお前もうちょっと少女でいいだろ。それに知ってるか? 女は十五を過ぎたらもう老化が始まるんだよ。ということはお前は既に五年分老化したことになる」


「聞きたくない、そんな話。もう嫌だ現実なんて。くそう、みんなデリートされればいいのに」


「姉のようなニート類がデリートされればそれこそ経済効果があると思うのだが」


「馬鹿め! そうやってせいぜい果たせない妄想を吐きながらせっせと私を養っていけばいいんだよ、この働きアリが。私は勝ち組勝ち組ィィィ!」


「だそうです。天国の父さん、母さん……」


 もの悲しげな哀愁を漂わせ、静かに仏壇の前で合掌する俺。


「それだけはやめろぉぉぉ!」


 それから三十分。姉と相当言い合った結果。


「は、半年ぶりの外出だな」


 ようやく姉も観念しました。


「コンビニに行くだけだ。そんな気張ることもない」


 実際俺はTシャツにジーパン。姉に至ってはジャージ姿です。


「さ、行くぞ」


「あ、待って……」


 いよいよ姉が外への一歩を踏み出しました。


「……おい姉」


「ななななんだ。あまり話しかけるな」


「なんだその歩き方は」


 内股。

 前傾姿勢。

 両手を前に出して、痛いことに目が半開きです。


「ずっと家に居たから、たた、体力が……。おまけに日光がまぶしい。ぐえぇ」


「ぐえぇ? テンパり過ぎだ、落ち着け。まず背筋を伸ばせ。あと両手を降ろせ」


「無理無理。なんかバランスとれん。ぐえぇ」


「いやいや、やめて。恐ろしいからお前。今のお前、まるっきり不審者だから。くっそ泣きてぇ……こんなんが俺の姉だなんて」


 普段クールな風貌の姉がいきなりゾンビ化とはもう予想外です。

 ご近所さんに見つかる前に素早く我が家に引っ張り込みました。


「ぉ……弟よ」


「なんだ」


「もう外には出ん……」


「……出したくねぇ……」

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