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41話 姉vs弟 inボンバーマン

 初めまして、戸部桜です。

 今日はお休みなのでおねーさんとおにーさんの家に遊びに来ています。

 いつものように鬱蔵ちゃんと遊んでいると、おねーさんがあたしとおにーさんをテレビゲームに誘ってくれました。

 あたしたちは今、スーパーファミコンの『ボンバーマン3』というゲームで遊んでいます。

 スーパーファミコンもボンバーマン3も、あたしが生まれる前からあるゲームだそうです。バクダンで相手を倒すゲームで、ルールも操作も簡単ですぐに覚えてしまいました。

 おねーさんが黒いボンバーマン、おにーさんが白いボンバーマン、そしてあたしが赤いボンバーマンです。


「あー、また桜ちゃんに負けたー。なぁ弟よ、桜ちゃんは初心者なのにボンバーマン強くないか?」


「そうだな姉よ。料理のときもそうだが、桜ちゃんはゲームの才能もあるんだな。よし、もう1プレイだ」


 おねーさんとおにーさんに褒められて、あたしは照れ笑いしました。

 でもあたしはちゃんと知っています。おねーさんもおにーさんも、あたしに手加減してくれているんです。

 二人ともカッコ良くて優しくて、あたしの憧れです。あたしも将来はおねーさんとおにーさんみたいな大人になりたいです。

 またゲームが始まりました。

 あたしたちはわいわいボンバーマンをプレイして、ふとおにーさんが言いました。


「なぁ姉よ、俺の勘違いだったら申し訳ないのだが……」


「ん、どうした弟よ」


 おねーさんの黒ボンが、おにーさんの白ボンを倒しました。


「……さっきから俺ばっかり狙ってないか?」


「気のせいだろ弟よ。変な言いがかりはよし子ちゃん」


「また懐かしいネタを。それならいいんだけどな」


 おねーさんの黒ボンを倒して、1ラウンドはあたしが勝ちました。続いて2ラウンドです。

 今度はおねーさんが、開始してすぐにおにーさんにやられてしまいました。

 するとおねーさんが低い声で言いました。


「……弟こそさっきから私ばっかり狙ってるんじゃないのか」


「気のせいだろ姉よ」


 おにーさんが仏頂面で答えます。

 あっ、あたしの赤ボンがおにーさんの爆弾で挟み撃ちにされました。身動きが取れません。

 2ラウンドはおにーさんの勝ちのようです。


「あ、こら弟! 桜ちゃんを爆弾で挟み撃ちにしやがったな! 貴様、どこでそんな卑劣な技を覚えた!?」


「いや待て姉よ、ボンバーマンで挟み技って基本じゃないか?」


「基本でもダメなもんはダメだ! 少なくとも桜ちゃんにはダメ!」


「わ、わかったわかった。ごめんな桜ちゃん?」と、おにーさんが頬をかきながらあたしを見ます。


「え、ううん。今のはフツーにあたしの負けだよー」


 あたしがそう言うと、おねーさんは鼻息を荒くして再び画面を見つめました。

 第3ラウンドの始まりです。


 すると、おねーさんが開始早々、自分の爆弾で自滅してしまいました。

 ボンバーマンは、やられると場外から爆弾を一個だけ投げられるシステムがあります。その爆弾が爆発したらまた次の爆弾を場内に投げ入れられるというものです。これを『みそボン』というらしいです。

 おねーさんはいきなり自分からみそボンになって、場外からゆっくりおにーさんの白ボンに近づいていきました。

 おねーさんは白ボンに向けて爆弾を投げていき、白ボンが慌てて逃げます。


「おい、ちょっ、待て姉よ。まだブロック残ってるから、姉の爆弾で挟まるって。やめろ、シャレにならん。これは姉の方が卑劣じゃないか? おいおい止めろって」


「はっはっはっ! ほらほらさっさと逃げないと死ぬぞ弟よ。さぁこのまま大人しく爆死して楽になりな!」


「いやいやいや……あ、挟まった! しまった、動けん」


 ついにおねーさんの手によって、おにーさんの白ボンがやられてしまいました。


「けっ、汚ぇ花火だぜ!」


 おねーさんの黒ボンが復活しました。みそボンでボンバーマンを倒すと、みそボンは復活できるのです。

 おねーさんはすかさずおにーさんの落としていったアイテムを拾い上げました。


「……姉よ、今のは流石にやり方がお下劣過ぎるぞ」


「ふん! 卑怯な手を使った弟に私が制裁を加えてやったのさ! 悔しかったら私と同じようにみそボンで私を倒してみな!」


「くっそう……」


 おねーさんがベロベロバーでおにーさんを挑発していて、おねーさんの黒ボンの動きが止まっています。

 ……いま攻撃したら勝てるかな?

 あたしは恐る恐る黒ボンを爆弾で挟んでみました。

 やった、成功です。

 おねーさんがテレビ画面を見て、あぁっと声を上げました。


「いかん、油断した」


「やったっ」


「いやーやられたやられた。やっぱり桜ちゃんは強いなぁ」


 3ラウンドはあたしの勝ちです!

 今のところあたしが2勝、おにーさんが1勝、おねーさんが0勝です。

 すると、おにーさんとおねーさんが何やらヒソヒソ話をし始めました。


「……今のも挟み撃ちなのに、俺と桜ちゃんとじゃ随分反応が違うな姉よ?」


「いいんだよ、桜ちゃんは可愛いからな」


「な、なんだよそれ。いくら何でもひいきし過ぎじゃないか?」


「うるさい。弟も可愛くなったら同じ反応してやるよ。ほら、さっさとスカート穿いてこい」


「どうしてそうなる!?」


「弟よ」


「なんだ姉よ」


「カワイイは作れるぞ☆」


「作らねーよ! しかもやめろその星マーク、マジで腹立つ」


 全部聞こえるヒソヒソ話でした。思った通り、二人とも今まで手加減してくれていたみたいです。

 嬉しいけれど、手加減されないようにあたしも強くならなくちゃいけません。

 4ラウンドの始まりです。

 おねーさんは爆弾で一直線に左へとブロックを壊して行きました。おねーさんの向かう先には白ボンがいます。

 おねーさんはおにーさんを狙っているようです。


「ふん、アイテムも取らずに向かってくるとは。まるで猪の突進だな姉よ」おにーさんが鼻で笑いました。


「何をほざいているのやらこの弟は。私は何となく左に進みたくなっただけさ」おねーさんもニヤリと笑っています。


 ついにおねーさんの黒ボンが白ボンのところにたどり着きました。

 ブロックと爆弾とで挟みうちすべく、おねーさんがひたすら白ボンを追っていきます。


「……完っ全に俺のこと狙ってるだろ姉よ」


「勘違いしないでくれ。たまたま弟と進む方向が一緒だっただけだ。……おっ、あれを見ろ弟よ。あそこにアイテムがあるぞ。取らなくていいのか?」


 おねーさんの言う通り、行き止まりの場所に火力のアイテムがぽつんとあります。行き止まり道への入り口付近で、おねーさんの黒ボンが待機しています。


「……遠慮しとく」


「何故だ。別に私は挟み撃ちなんか狙ってないぞ? さぁどうぞ遠慮せずに取りたまえよ、ほらほら」


「俺は一言も挟み撃ちなんて言ってないぞ。やっぱりそれ狙いなんじゃないのか姉よ」


「おやおや、無闇に人を疑うのはよくないな弟よ。人のことを信じない人は嫌われますよって小学校の道徳で習わなかったか弟よ。な、習ったよな桜ちゃん?」おねーさんが真面目な顔であたしを見ました。


「う、うん。4年生のときに習ったよ」


「ほらな、分かったらさっさとアイテムを取りにいけ弟よ。人の厚意を無下にするものではないぞ」


 おにーさんは納得していないような顔でコントローラーを操作しました。

 おそるおそる白ボンが行き止まりの道へ進んでいきます。


「……阿呆めが!」


 白ボンがおねーさんの爆弾で挟まれました!

 おにーさん、あえなく退場です。


「……なぁ、姉よ」


「何だ弟よ」


「俺はちょっと燃えてきたぞ、この勝負」


「くくく……私はもうとっくに燃えているぞ弟よ」


 4ラウンドはおねーさんがあたしを倒し、これであたしが2勝、おねーさんとおにーさんが1勝ずつです。

 いよいよ5ラウンドですが、なぜかおねーさんとおにーさんが睨みあってからのスタートです。

 真っ先に白ボンと黒ボンがお互いに向かって進んでいきました。


「爆死しろ愚弟よ」


「お前が爆死しろ愚姉」


 私が画面下でせっせとアイテムを拾っていくなか、二人が熱い戦いをしています。

 クーラーの冷気が二人の熱気で消え去ってしまいそうな勢いです。


「どけ、そのルーイ卵は俺のだ愚姉」


「ふざけんな、それは私のだ。弟に取られるくらいなら卵爆破する」


「……うわ、マジで卵消したな姉よ。最低だ、無下に命の芽を摘み取るか愚姉」


「黙れ愚弟。おい、この爆弾当たって死んでくれ弟よ」


「お前こそふざけんな。どこにそんな頼みを聞く馬鹿がいる。姉が当たれ。爆死しろ」


「うるさいお前が爆死しろ。四肢をフィールド上にぶち撒けろ。貴様の五臓六腑でマップ上を血の海に沈めてやる」


「姉がぶち撒けろ。爆炎で跡形もなく燃えさかって灰になれ。夜空の星になれ。いい加減働け馬鹿姉」


「ならお前は爆風で衣服を吹き飛ばされて警察に職質――って何さりげなく働けとか入れてんだ愚弟!」


 激しいです。もはや口喧嘩が中心で肝心のボンバーマンがあんまり動いてません。

 やがてコントローラーも放り投げ、二人がつかみ合いになりました。


「なーんでボンバーマンやってるときまで『働け』なんだよ! 空気読めこらぁ!」


「うるさい、さっさとゲームに戻れ姉。あぁうざい、手を離せ姉よ、手を離してスーツ着てハローワークに行け」


「ほらまた言った! やめろよ桜ちゃんの前でそういうこというのォォォ!!」


 大変です。私もコントローラーを離して二人の喧嘩を止めに入りました。


「落ち着いてよ二人とも! ねぇボンバーマン止めて他のゲームしよーよ! ボンバーマンだと喧嘩になっちゃうでしょ!」


 二人のつかみ合いがピタリと止まりました。突然無言になって座り、またコントローラーを取りました。

 また二人がボンバーマンを始めました。


「ね、ねぇ、おねーさんおにーさん。ボンバーマンやめて他のゲームしない……?」


 あたしがそう言うと、二人がゆっくりと振り返りました。おねーさんもおにーさんも、すごく目が恐いです。


「駄目だ!」二人が声をそろえて言いました。「この馬鹿とはボンバーマンで決着をつける!」


 それから二人はボンバーマンに熱中し出しました。

 おねーさんもおにーさんも、普段はすごくカッコ良くて大人なんです。

 そう、大人なんです。


「さっさと爆死しろ弟よ」


「お前が爆死しろ姉よ」


 ……なにが大人なのかよく分からなくなってきました。

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