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39話 姉vsオレオレ詐欺

 やぁ姉だ。

 仕事から帰ってきた弟がプレートを取り出し、「ボーナス入ったからな、今日は焼き肉だぞ」と言ってキッチンで材料の下準備を始めた。

 前は焼き肉とか言われて豚肉を出しやがったから、それだけは危惧していたのだが今回はちゃんと牛肉らしい。私は久しぶりの牛肉にそわそわしながらリビングでテレビを見たり、キッチンの様子をちょくちょく見に行っては弟にウザがられたりしていた。

 そんなときだ、家の電話が鳴りだした。

 くそ、誰からだこんなときに。私はひったくるように受話器をとったのだ。


「はいもしもし」


『もしもし、練馬警察署の者ですが』


「げえっ!」


『げえ?』


 しまった、基本的に他人とは話したくないから電話は弟に出させているのに、勢いで出てしまった。

 しかも警察? 私なんか悪いことしたっけ?


「し、失礼。えと、サツが私に何かご用でしょうか」


 やべ、サツとか言っちゃった。


『そうですね、まずは落ち着いて聞いてほしいのですが』


「そ、そうなんですか。私いま非常にあわててているのですが、落ち着くにはどど、どうしたら?」


『……九九の段でも唱えてみては』


「1×1が1、1×2が2……」


『も、黙読でよろしいですよ』


 そう言われて九九の段を頭の中で唱える私。7の段が結構難しいな。

 ようやく8×3のとこで落ち着けるようになった気がしてきた。


「よし、落ち着いたぞ」


『あ、よかった。遅すぎて受話器置いてどこかにいってしまったのかと。ではもうよろしいですか?』


「おう、どんな驚愕的な事実でも私は驚かんぞ」


『実はですね、えーと、ご家族に男性の方……とかいらっしゃいます?』


 なんだろう、この質問は。


「男といえば、うちには弟と鬱蔵がいるが」


『鬱……えっと、その方はお父様ですか?』


「セキセイインコだが?」


『あぁ。じゃあ弟さんがですね』


 じゃあってなんだ、じゃあって。


「弟? 弟が何か悪いことでもしたのかな」


『ええ、弟さん、交通事故に合われたんですよ』


「ええっ!」


 キッチンにダンプカーでも突っ込んできたのか!? ……っていやいやそれは違うな流石に。

 そうか、まさか弟のやつ、ひき逃げでもしてのうのうと家まで帰ってきたのか。


『さっき驚かないとおっしゃったはずですが……まぁ無理はありませんね』


「わ、私はどうすれば?」


『まずは状況をご説明しますね。弟さんの運転されていた車が相手の車とぶつかってしまって、弟さんはかすり傷程度なのですが、相手の方が意識不明の重体でして』


「……なんだとぉ」


 あの弟がひき逃げだと。

 私は即座に電話を保留にし、キッチンで調理する弟の背中を睨みつけた。


「弟よ! 姉ちゃんはお前をそんな子に育てた覚えはないぞ!」


 弟の背中が「誰のおかげで飯食えてると思ってんだ馬鹿姉ー」とのんきに答えてくる。


「お前ひき逃げしたそうだな! 悪いことはつまみ食いまでなら許すと昔っから言ってるだろうが!」


 弟はまたも背中を向けたまま「ったく何言ってるんだ姉は。そもそも俺運転免許持ってないし、うちには車もないんだぞ。また詐欺電話でも来たんだろ」とのたまわっている。

 駄目だこの弟。警察が詐欺なんかするわけないだろ。全くお話にならん。

 私は保留ボタンを押し、また通話を再開した。


「弟は運転免許を持っていないし、うちには車もないそうだぞ! 何がどうなっているんですか!」


『えっ。えーとですね、あ、そうだ。車といっても、弟さんは自転車事故だったんですよ』


「どんなむちゃくちゃな運転したら自転車で意識不明の重体になるんだよ!?」


『え、すごいむちゃくちゃな乗り方されていたんじゃないですか。そうそう、弟さん、今隣にいるんですよ。代わりますね』


「……え?」


 なんだ、話がややこしくなってきたぞ。弟は今キッチンに居るはずだが、どこか他のところにも弟が? 全く意味が分からん。

 しばらくして、裏声つかったみたいな声の男が電話に出てくる。


『……もしもし』


「あ、もしもし。弟……なのか?」


『そ、そうだよ、お姉ちゃん』


「お姉ちゃんとか言うな気色悪い。ていうかなんだお前は。弟って実はアメーバか何かの一種だったのか? もしかして分裂できたりするのか?」


『そ、そうだよ、お姉ちゃん』


「そうだよじゃないだろ! 真面目に答えろド阿呆!」


 私はまた保留ボタンを押し、弟の方へと振り返る。


「弟よ、お前分裂できるなら最初から言ってくれよ! お前面白過ぎるだろ! なんで今まで隠していたんだ!?」


 弟はうんざりしたように振り返り「……訳分からんから、詐欺電話ならさっさと切っておとなしく座ってろ」と言ってくる。全然信じてないぞこいつ。弟の分身が迷惑をかけたなら、私がなんとかしなければ。

 私は再び通話を続けた。


「もしもし、弟よ、まだいるか?」


『もしも……ゴホッ』裏声が一度咳払いをして続ける。『ええと、私です。練馬警察署の者です。さきほど弟さんと代わらせて頂きました』


「あぁなんだ。それで私はどうすればいいんでしたっけ、えっと……あなたの名前は?」


『私ですか? 私は高木という者ですが』


「高木? 高木ブー?」


『いやなんでですか。そりゃ確かに私は太ってますけどさ……ってあれ?』


「ん、そういえばお前の声、何か聞き覚えあるような……」


『そうなんですか、実は私もなのですが……』


 ふと、受話器から『あ!』と素っ頓狂な声が聞こえてくる。同時に、私もピーンと思い出したのだ。


『あんた、まさかあのときのジャイ子!』


「そう言うお前はあのときの高木ブー! って誰がジャイ子だ!」


『え、ジャイ子でしょ? それに高木ブーじゃないって何度も言ったはずです。私は普通の高木です』


「うるさい、ブーはブーだ。それより何だお前、警察の人間だったのか」


『え?』


「いや、え? じゃなくてさ」


『あー……そうそう、そうでした。私、実は警察の人間なんですよ。で、弟さんが自転車事故起こされて』


「いやはや、この前は喧嘩して悪かったな。それに今回は弟が迷惑をかけた」


『そう、ほんと困ってるんですよ。しかし私たち警察の方で示談しますから、い、慰謝料、って言うのかな。五百万ほどなんですが、今どれくらい用意できます?』


「ごごご五百万!?」


『いえ、今払える分で結構ですよ。ジャイ子さんの携帯の電話番号教えて下さいよ。ATMまでついたら電話下さい、振込先教えますから』


「待て待て……あ、そうだブー。お前、金立て替えといてくれ」


『いやいや、なんでそうなるんですか』


「私はあまりお金ないし、前に一悶着あって弟にキャッシュカードも通帳も隠されているんだ。弟も全くこの話信じてないし。な、私とブーの仲だろ?」


『やめて下さいよ馴れ馴れしい。私だってお金ないんですよ。お財布には今いくらあります?』


「んーと、六千円くらいだったかな」


『はぁ……まぁいいです。六千円でもいいから振り込みに行ってくださいますか』


「無理だ」


『何故ですか』


「私は引きこもりだからな」


『あぁ……』


 この引かれ方、懐かしい。そして腹立たしい。


『まだニートやってたんですか、いい加減働きなさいよ。そして何でもいいから外に出てください』


「なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだ。私は絶対外には出ないぞ」


『……ほんとに駄目な方ですねあなたも』


「なんだとこらぁ!」


『だってそうでしょ。弟さんが困ってるというのに。どうせ昔から悪いことばっかやってたんでしょ? 例えばつまみ食いとか。そんな感じのショボい悪事ばっかり』


「なんだと。じゃあなんだ、ブーは何か悪いこと自慢できるのか」


『そりゃあね、私も昔はやんちゃでしたよ。まずゆすりは毎日のようにしてましたね。あとはたかり、恐喝、放火に強盗、女遊び、土地転がし、あとは株の総会屋。悪いことは一通りやってましたよ』


「はん、それなら私ももっと悪いことしてたね。お前みたいにたかりやゆすり(ただし弟限定)は日常茶飯事だし、未成年のときからアダルトゲームを所持していたし、中学生の掲示板は面白いから毎日のように荒らしに行っている。あとは……部屋を散らかすとか、弟の座るとこにブーブークッションしかけるとか、風呂のお湯を水に変えて弟をびっくりさせるとか、あとは、つまみ食いとか?」


『つまみ食いしてるじゃないですか! ていうか段々ショボくなっていってるし! 後半とかもうただのイタズラ小僧じゃないですか』


「う、うるさい。お前の悪事だって全部嘘だろ。そもそもお前みたいな肥えた男に女遊びなどできるか」


『……ひ、引きこもりに言われたくないです』


「あ、図星か。そうだよなぁ、ブーは彼女も出来たことないもんなぁ」


『彼女くらい出来たことありますよ! 何ですか、会ったこともないのに分かったようなことばっかり。っていうか今も彼女いますもん』


「ほう、じゃあその女の名前言ってみろ」


『えっと……アスカっていう……?』


「お前今適当に言っただろ。アスカって絶対エヴァ思い出しただろ」


『違いますー。僕の彼女はアスカですー。ていうかもう入籍してますし。もうアスカは僕の嫁ですし』


「うわ出た。アイタタタ、これだからエヴァオタは。そういえばエヴァオタはエヴァのことロボットって言うと怒るんだよな?」


『当たり前ですよ! エヴァは人造人間ですからね!』


「知っとるわばーか! そんな必死になるなよブー。だから彼女も出来ないんだよ」


『あー、怒りましたよ。今完っ全にぷっつんきましたよ僕。住所もっかい教えてくださいよ、殴り込みにいってやります』


「そう言いながら前も来なかっただろ。なんだ、脂肪が重くて来る途中で疲れちゃったのか?」


『ぐわー! もう許しませんよ! 今日は遅いから無理だけど、いつか絶対ボコ殴りにしてやりますから』


「ははっ、そのときは返り討ちにしてやるがな。いいか、今から住所言うからよく聞いとけよ。東京都練馬区――」


―――

――


「というわけで、今度ブーが殴り込みに来るそうだ。玄関に虎バサミを仕掛けようと思うのだが、どうだろう弟よ」


 夕食を食べる私たち。牛肉を頬張りながら弟にさっきの電話の内容を話すと、弟はげんなりとした表情をした。


「お前らほんっとうに仲いいな……」

「?」の人がいたようなので、高木さんは13話に登場しています。

かなり遅い再登場でした。分かりにくくてごめす。

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