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32話 死亡フラグ

 こんにちは弟です。

 もはや恒例となっていますが、また姉が部屋から出てきません。

 お気づきかと思いますが、姉は何かに熱中するとすぐ部屋に籠もってそれ以外の全てを拒絶しようとするのです。

 まぁ今日はせっかくの予定なしの休日。家事や買い出しなど色々したいので姉に構っている暇はありません。

 俺は買い物用のエコ袋を肩に、スニーカーに足を通しました。


「……おや?」


 靴紐を結ぼうとしたら、プッチンと切れてしまいました。

 やれやれ。午後から雨も降るというし、なんか不吉だよなぁ。


「……死亡フラグだな」


「うおっ、何だ姉か。驚かせるなよ」


 背後に姉が立っていました。姉は前髪を垂らし、貞子ばりのホラーオーラをはなっていました。

 姉はおもむろに一冊のメモ帳をめくり、パラパラとめくり始めます。


「靴紐が切れる……ふむふむ、死亡率40%か」


「何だ姉よ、死亡フラグとか死亡率とか」


「ほら、映画や漫画なんかでよく死亡する前兆の演出があるだろ。あれのことだ」


「あぁ……『ここは俺に任せて先に行け!』みたいなやつか」


「そうそう。で、私は気付いてしまったわけだ。私たちにも、つまり私たちの日常にも死亡フラグが潜んでいるということに!」


 姉はメモ帳を俺の目の前にかざしました。

 メモ帳には『死亡フラグ回避マニュアル』と書かれています。


「姉ちゃんが三日三晩寝ずに作成したマニュアルだ。これからは何かあったらこのメモ帳を見返し、フラグを回避していかねばならん」


「……いやいや、これがフィクションならまだしも。現実にフラグも何もあるはずないだろ」


「弟よ、今日は買い物に行くな。死ぬぞ」


「いやしかし……っておい」


 姉がひたすら俺の腕を引っ張ってきます。


「今のお前は死亡率40パーなんだよ! ほっといたら死ぬんだよォォォ!」


 姉の貞子スタイルと相まって鬼気迫ったものを感じます。


「わ、分かった。行かない、買い物には行かないから。……はぁ」


 さて、どうしたものか。

 ここは一度姉を落ち着かせ、隙を見計らって家を出るしかありません。

 俺は姉に連れられ、とりあえずリビングへと入りました。


「ピャー! ピャホホーイ!」


 鬱蔵が鳥カゴの中で何だか楽しそうに暴れていました。姉はそれを見上げ、ガクガクと震え出しました。


「突然動物が暴れ出したり逃げ出したりする……死亡率15%! まさかフラグが立て続けに起こるとは……!」


「姉よ、それは疑心暗鬼というものじゃないか? またアニメの見過ぎでそんなことに……」


「事実は小説より奇なりというだろう弟よ。たとえ現実だろうと侮ってはいかん」


「その言葉はそういう意味じゃないと思うが。落ち着け姉よ。とりあえずお茶でも飲もうか」


 俺は震え出す姉をテーブルにつかせ、キッチンへ向かいました。

 今日は何のお茶にするか……煎茶でいいな。

 俺は棚から茶碗をとりだしました。


「……ん?」


 あぁいかんいかん。何故か茶碗が割れている。あとで買い物ついでに買わねばな。

 すると、いつの間にやら貞子姉が背後にいて、『死亡フラグ回避マニュアル』をパラパラとめくり出しました。


「茶碗やカップが割れる……これも死亡フラグだ。靴紐と同じ40%か……」


 そんな姉を、俺は呆れ眼で見返します。


「姉よ。そんなフラグとやらで、簡単に人が死ぬわけないだろ?」


「何? まさか今のは『俺がそう簡単にやられるわけないだろ?』の類似か! し、死亡率80%! まずい、これはまずいぞ……」


「……はぁ」


 今日の姉はいつも以上に面倒臭い。

 それから十分後。

 俺は姉を落ち着かせるため、いつもの定位置でお茶を啜らせました。

 やがて、曇っていた空からぽつりぽつりと雨が降り出してきました。


「突然の雨……そして私の感じる嫌な予感……これは……」


「突然じゃないからな姉よ。予報で今日は雨だって言ってたから」


「……弟よ。幽霊っていると思うか?」


「聞いてねえよこの姉。何、幽霊が何だって?」


「幽霊っていると思うか? 頼む答えてくれ!」


 今度は幽霊が怖くなったんでしょうか? よく分かりませんが、とにかく落ち着かせてやらねば。


「あぁ、幽霊か? ははは、姉よ、そんなもんいるわけないだろ? 幽霊なんて所詮迷信だ」


「……出た。今日の弟はやはり歩く死亡フラグだ。『そんなもん迷信だろ?』は……死亡率60%!」


 やっぱそっちかよ!


「……ちょっと気晴らしに飯でも作ってくるぞ姉よ。何が食いたい?」


「ん? あぁ、そうだな。焼きそばが食いたいな」


「おう、それならすぐに出来るからな。ちょっと待ってろ」


「うむ……っておい! また死亡フラグか弟よ! 今のは『なぁに、すぐに終わるさ』の同系統で死亡率――」


「いやもういいから! 姉は大人しく座ってろ」


 俺はフライパン片手に焼きそばを作り始めました。

 姉が後ろから恐る恐るその様子を覗いてきます。


「何だ姉よ」


「いや、フラグが調理中にも潜んでいるのではないかと観察しているんだ」


「いつもやっていることだし、別に失敗はないと思うが。ましてや死ぬなんてな」


「今のは『いつもやってることだし大丈夫さ』か……おや、マニュアルにはまだ書かれてないな。書き足しておかねば」


「お前そのマニュアル作りたいだけだろ」


「このフラグは……うーん70%くらいにしとこう。よし、危険だ。弟よ、料理は中止!」


「いやいやいや……」


「心配するな。私も料理くらいできるぞ? 姉ちゃんにどんと任しとけ」


 俺をリビングに追いやりながら言う姉。「その台詞も死亡フラグってやつじゃないか?」とは思いましたが、心の中で留めておきました。これ以上不安を煽ると姉が発狂しそうな気がします。

 リビングでお茶を啜っていると、すぐに姉が戻ってきました。


「もう作り終わったのか姉よ」


「あぁ、あとは待つだけだからな。……ん?」


 姉が窓の方を見やりました。


「何か庭から物音がするような……。まぁいっか」


 何だか今度は死亡フラグが姉に集中してきているような気がするのですが。それに気付いて発狂する前に、何か俺が手を打たねば。

 俺はおもむろに携帯を取り出し、画像を開きました。

 しばらく眺めていると、姉が俺の携帯を覗いてきました。


「弟よ。何だこの画像の女は?」


「俺の大事な人さ」


 まぁ彼女なんですが。


「何っ! 今のは『俺の最愛の人さ』フラグ……!」


「あぁそうだ、飯食ったら姉に言っておきたいことがあるんだ」


「何だと!? まさか今の台詞も……」


 俺の台詞を聞いた姉はひたすらメモ帳をパラパラしています。

 やれやれ、死亡フラグの注意をこっちに引けたか。


「フラグが重なりすぎている……弟はもうダメだ」


 姉ががっくりと肩を落としてこんなこと言ってます。


「はっ、待てよ……?」


「なんだ姉よ」


「ここまでフラグを重ねる弟はもはや主人公クラス……。主人公は少なくとも最後に死ぬのがセオリー。だからフラグの被害を最初に被る者、そして先に死ぬのは主人公の最も近くにいる人物。つまり……」


 ぽんと柏手を打つ姉。


「あ、先に死ぬの私か」


 ……何か嫌な予感が。いやフラグとかそういうのじゃなくて。

 姉があり得ないくらいに、もうマグニチュード8くらいの勢いで震え出しました。


「……し、死にたくない。嫌だ、死にたくないいいい!!」


 嫌な予感的中。案の定姉が発狂し出しました。


「ふ、フラグなんかで死んでたまるか! まだ私は死ねないんだ!」


「落ち着け姉よ。思いっきり今の台詞もフラグ踏んでるから」


「こんな死が充満したような所にいられるか! わ、私は部屋に戻るぞ!」


「いやそれもフラグ立ててるから! とにかく座って――」


 ――ずどぉん!


 そんな轟音と共に、リビングへと突き抜けていく突風。

 固まる俺たち。


「……え?」


 姉と俺は、恐る恐る音のした方を見ました。

 電子レンジが爆発したようで、その爆心源を中心にキッチンが焦げカスになっていました。


「姉よ……もう尋ねるのすら恐ろしいが……お前一体何をした……?」


「え、ゆで卵作ろうと思って、卵を大量に電子レンジにぶち込んだだけだが?」


「だけだが? じゃねえよ! 危うく死ぬとこだろうが!」


「テヘッ」


「いや可愛くないから」


 ……死にはしませんでしたが。

 フラグというのは確かに嫌な予感を的中させる効力を持っているようです。


「やれやれ、全ては死亡フラグのせいだな弟よ。まぁ死ななくてよかった」


「マジで一回死んでみるか姉よ」

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