26話 歯医者クエスト~旅立ち~
ごきげんよう、姉だ。
よもや今回も一人称を任されることになるとは。何か嫌な予感がしてならない。
「寒っ!!」
私は今、しぶしぶ久しぶりの外着に着替え、弟に引きずられながら玄関先へ来ていた。
「寒っ! 外さんむっ! 弟よ、いつの間に日本は氷河期になったのだ。やはり不景気の影響か?」
「姉よ、桜も咲く季節に何をトチ狂ったようなこと言っているんだ。もう3月も終わりだぞ。ほら、さっさと歯医者行くぞ」
さて、結局行くことになってしまったぞ歯医者。外の空気に触れるのさえ久々だというのに歯医者ってお前。
「本当に行くのか。お前こそトチ狂ってるんじゃないのか弟よ。あんな拷問台みたいなのに私を上げるつもりか。今日ってエイプリルフールだっけか」
「わざわざ虫歯だって嘘までついて駄々こねる姉を無理矢理外に連れ出すほど俺も暇じゃないんだよ」
「く、以前虫歯になった際は歯医学を学んで自ら直すと言ったはずだが」
「学んでる間に虫歯進行するだろうが。姉よ、歯周病は死に至る恐れがあるんだぞ。姉のは多分もってあと3ヶ月だろうな(適当)」
「何? 私はハンター×ハンターが完結するまで死ねないのだが」
「あれの完結を待つのは相当長生きせねばならんぞ姉よ」
「うむ……だがしかし……」
「ここは一つ歯を食いしばって、医者のお世話になりに行こうじゃないか」
「ん、歯食いしばったら治療出来ないだろ? 何言ってるんだこの弟は、頭に蟯虫でも沸いたか」
「沸いてるのはお前だ愚姉。ていうかいつまでもここで漫才してる暇は……ん?」
「どうした弟」
弟の視線に目をやると、お隣の戸部さんちから人影が二つ。あれは戸部さんちのお爺ちゃんと桜ちゃんだ。
「大丈夫か桜ぁ。歯医者ならお爺ちゃんついていくぞぉ。一人じゃ恐かろうて!」
「あたしもうすぐ6年生なんだよ! 歯医者なんて一人で行けるもん!!」
「ほぉー! ビッグマウスじゃのう、うちの桜は!」
こんな会話してる。桜ちゃんも歯医者行くのかぁ。しかも一人で行くなんて偉い偉い。将来は日本を救うよ彼女は。
「さて、私は弟に連れていってもらうとするか。道ばたでモンスターにばったりしたら大変だからな……っておい弟」
弟が何を思ったか、戸部爺と桜ちゃんのもとへ歩いていく。
何か話しながら私の方を指さしてくる。
しばらくして桜ちゃんと弟がこっちにやってきた。
「というわけで姉よ、桜ちゃんと二人で歯医者行ってこい」
弟はこんなとぼけたことを言い出した。
何? 桜ちゃんと二人で? 弟こないの?
桜ちゃんは、まさに桜満開の笑顔を見せる。
「実は一人で行くの恐かったんだぁ。おねーさんと一緒なら大丈夫だね!」
弟がパーティから外れた! 桜ちゃんがパーティに加わった!
「……いやいやいや」
「桜をたのんだぞぉー! お隣のべっぴんさん!」
戸部爺うるさい、けど許す。
すると弟は、ニヤニヤしながらこちらを見てくる。
「なんだ姉よ。お前も実は歯医者が恐いのか?」
それを聞いた桜ちゃんは心配そうにした。
「そうなの、おねーさん?」
「ぐっ……」
こいつらなめやがって。ヒッキーなめやがって。
なら見せてあげようじゃないか。ヒッキーの本気ってやつをよおおおお。
「は、恐くねーし。歯医者とか余裕だし。歯医者とかマジ二年くらい週3ペースで通ってるし」
「お前どんだけ虫歯だらけなんだよ」
「ええい黙れ弟。お前が居なくともなぁ、私は歯医者でもヨハネスブルグでもグランドラインにでもいってやるわ! さぁ大船に乗ったつもりで、ついてこい桜ちゃん!」
「お、おー!」
言っちまったぞ私。どーすんのよ私。ぶっちゃけ私の船は大船どころか泥船……というかもうトイレットペーパー船だぞ。
「……とりあえず私の護衛は任せた桜ちゃん」
「ごえー?」
「お前は最低だ、愚姉よ」
後半へ続くのかこれ。
もちろん続きます。