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25話 第三回・姉と弟の茶飲み話 〈挿絵付〉

挿絵(By みてみん)


 休日とは、実は引きこもりにとってはあまり喜ばしいものではない。いつもは学校や仕事へ出ている家族が在宅する頻度が増え、外は散歩や子供のはしゃぎ声で賑わう。

 引きこもりやニートは静かな落ち着いた空間を一人で味わいたいもので、年中休日であるヒキニートにとっては非常に煩わしいものである。滅びろ、休日。


 やぁ姉だ。

 休日だというのに予定がないらしい可哀想な弟とお茶を飲みながらボケーッとしている。

 本日は緑茶の中でも定番中の定番、煎茶だ。我が家でも最も飲んでいるお茶といえば煎茶かもしれない。

 うがいするときだって煎茶だ。お茶でうがいって結構いいらしいぞ愚民共。お茶に含まれるカテキンは、一昔前に流行ったO-157にも強い抗体を持っているらしい。

 かくいう私も、生まれてこのかた虫歯になったことがない。綺麗な歯であることはヒキニートにとっては非常に有利だ。だって虫歯になったら歯医者へ行くために外に出なければならんからな。

 私は死んでも虫歯にゃならん!

 私のような素晴らしい引きこもりを目指す若者諸君! ちゃんと歯みがいて寝ろよ!


 ――午前九時十分。


「ぶええええっくっしょいぶっころす!」


 お、いかんいかん。女子らしからぬ豪快なくしゃみが出てしまった。弟が危うく手にした煎茶を取り落としそうになった。


「すまんすまん、いやぁ嫌な季節だな弟よ。ついに引きこもっている私にまで花粉症の魔の手が来たか」


「なんだくしゃみか……何か物騒な発言が聞こえてきた気がするが、なんだくしゃみか」


「どう考えても今のは普通にくしゃみだろ。他に何がある」


「いや別にいいんだがな。というか姉よ。曲がりなりにも女ならばもっとこう、おしとやかにくしゃみもするべきではないのか」


「こればっかりは生理現象だからな。私もおしとやかにくしゃみしたいんだが、いかんせん……ふぇ、へ……へええええっくしょい弟ばっきゃろうちきしょう!!」


「ん?」


「え? どうした弟よ」


「い、いや、今のもくしゃみだよな、うん」


「当たり前だろ。あー花粉が辛い。くしゃみが止まらな……は、は、はああああくしょい弟もっと稼いでこいちきしょうばかやろい!!」


「お前絶対わざとだろそれ」


 ――午前九時五十一分。


「最近、家族間での殺傷事件が多いな、弟よ」


「あぁそうだな。全く世も末だ」


「お前も気を付けた方がいいかもしれんな、弟よ」


「……それはどう意味だ、愚姉よ」


 ――午前十時。


「ギャー! ギャー! 十時ダヨ! 十時ダヨ!」


 鬱蔵が鳥カゴの中で暴れていた。


「弟よ、鬱蔵が最近、目覚まし時計の芸を覚えたようだが」


「姉よ、最近どんどん鬱蔵が色んな芸を覚えていく気がするのだが。姉が教えているのか?」


「私じゃないぞ。私はいつも弟が鬱蔵に芸を仕込んでいるものだとばっかり」


「俺もそんなことした覚えはない。あれじゃないか、たまに桜ちゃんが遊びにくるだろ。桜ちゃんじゃないか」


「いや、私も桜ちゃんと鬱蔵と三人でよく遊んだりするが、桜ちゃんもそんなことしている様子もないぞ」


「じゃあ一体誰が……」


 私たちが頭を悩ませていると、鬱蔵が何やら一人(一羽)で喋っていた。


「ウン、ウン。マジデー! キャハハー! マジウンコー!!」


 鬱蔵は何もない空中を見て、ひたすら何かと雑談しているように見える。


「……姉よ。これは何だか気味悪いな。もしかしてこの家……」


「……弟よ。多分私も同じことを考えているな」


「ウケルー! チョベリバ!!」


 ……この家、90年代の女子高生の霊でも憑いてるのか?


 ――午後十時四十六分。


「私もニートの勉強中ですって言えばホワイト学割してもらえるのかな弟よ」


「むしろ姉と縁を切って家族割すら出来ないようにしてやりたいがな」


 ――午後十一時十四分。


「こたつエロゲは最高だな弟よ」


「最低だ。つーかもういい加減こたつしまうぞコラ」


 ――午後十一時二分。


「エアギターって一般にも結構浸透してきたよな弟よ」


「そうだな、姉よ。あれも言ってしまえば演奏中の演技の一部だしな」


「というわけで私も考えた。名付けてエア就職活動」


「これまた嫌な予感しかしないのだが」


「パラパラと適当に求人雑誌をめくる真似したり、鬱蔵を人事に見立てて面接の真似事してみたり。そうすれば弟の就職活動に対しての私への糾弾が無くなるのではないかと」


「無くならねーよ!」


 ――午後十一時五十五分。


 弟が昼飯を用意したようだ。今日はなんだろうか、腹が減った。


「最近暖かくなってきたからな。完熟トマトとチーズの冷たいパスタを作ってみたぞ」


 おぉ、流石弟だ。こんな女受けするようなものまで作れるとは。


「しかし、何だ……弟よ」


「どうした姉よ」


「最近冷たいものを食うと歯が染みてな。アイスとか食うともう死にそうなくらいに」


「……ちょっと口開けてみろ姉よ」


 私の口の中を観察してくる弟。一体何なのだろう。


「……姉よ、残念ながら」


「どうした弟よ。そんな『余命一ヶ月です』みたいな雰囲気出して。何だよ焦らすな恐いな。何が残念ながら、なんだ?」


「そんなたいそうなものじゃないが、虫歯だ。姉よ」


「……歯医者に行かなくていいレベル?」


「虫歯に歯医者に行かなくていいレベルはない。飯食ったら歯医者行くぞ姉よ」


「嫌だ、歯医者恐い」


「子供かお前は」


「歯医者に行くくらいなら私は一生子供でいい」


「姉の保険証どこあったかな……」


「行く気まんまんだしこの弟! 行かないし! 行かないし!」


「諦めろ姉よ。虫歯で死ぬ人間もいるくらいだ。虫歯なめるなよ」


「歯医者行くくらいなら私は死ぬしぃぃぃ! いやぁぁぁぁぁ!!」


「諦めろ姉よ、諦めろ」


 教訓。毎日歯を磨いても虫歯になることはある。虫歯おそるべし。


「私引きこもりだから! 外なんか出たら汚染された空気で一発で死んじゃう人だから!」


「諦めろ姉よ、諦めろ」


「もうこいつ諦めろしか言わないし!」


 みんな! 次話が『歯医者』にならないようにオラに力を分けてくれ!!

このページの下に歯医者の広告が出ることがありますが、もうフラグびんびんです。

絵はふにょこさんより。いつもありがとうございます。

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