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23話 めりーくるしみます

 こんな日だというのに、姉が中々部屋から出てきません。せっかく弟が今日らしいものを買ってきたというのに。

 姉はこのまま今日は引きこもり続けるつもりでしょうか。ちくしょう、用意した俺がアホらしいではないですか。

 俺はついに痺れを切らし、二階の姉の部屋へと向かいました。


「おーい姉」


 ノックをしながらそういうと、姉の気怠そうな返事が返ってきました。


「なんだ、入るならさっさと入れ。私は今超忙しいぞ」


 ドアを開けると、姉は案の定、PCに向かってひたすらマウスを動かしています。

 溜息をつきつつも、俺は声をかけました。


「おい姉、ケーキを買ってきたんだ。リビングへ降りてこい」


「ん、なんでケーキなんて買ってきたんだ弟よ」


「いやほら、今日あれだろ。あれ」


「んん? 弟の誕生日は一月だろ。私のはとっくに終わったし。鬱蔵か? すごいな、鬱蔵の誕生日まで知っているとは。どんだけ仲いいんだお前ら」


「姉よ、お前それマジの反応なのか? ひょっとしてそれはギャグで言ってるんじゃないんだろうな」


「悪い。弟が一体何のことを指して言ってるのか皆目検討がつかん。率直に言ってくれないか。姉は忙しいんだからな」


「……クリスマスだろ」


「あぁ、うん……えっ、はぁ!?」


「待て、その反応はおかしい」


「え、えぇぇ? 今日クリスマス? 今日!? えぇんっ!?」


 この姉、本気で知らなかったのか……。


「正確にはクリスマスイヴな。おい大丈夫かお前の日にち感覚。ちょっと今日が何日か確認してこい」


「お、お」


 うめき声のようなものを漏らしながらリビングのカレンダーを見に行く姉。俺は辛辣な眼差しでそれについていきました。


「馬鹿な、もう年末なのか……?」


 カレンダーを見上げた姉の第一声がそれです。俺は思わず頭を抱えました。


「待て待て待て。あぁ、何かもう頭が痛い。愚姉、何だその『目覚めたら100年後の世界でした』みたいなリアクションは」


「いや、おかしいだろ。ちょっと私が引きこもってる間に一年過ぎてるとか。もうすぐヒッキー歴2年じゃん私。時間過ぎるの早すぎ。絶対おかしい」


「おかしいのはお前の頭だポンコツ」


「いくらなんでもポンコツは言い過ぎだと思う。ちょっと待て、じゃあ今日はクリスマスイヴ?」


「……」


 軽蔑の目でそれに答える俺。


「私はここ数日ずっとネトゲに没頭していた。それならそれでネトゲ仲間がクリスマスの話題の一つでも出しそうなものだが……」


「単にそいつらが姉と同類だったというだけの話だな」


「……嫌に納得した」


 それから姉はテーブルに置かれた、今日俺が買ってきたケーキとワインを眺めながら、何か考え出しました。


「弟よ。お前に問い詰めたいことがいくつかある」


「とりあえず言ってみろポンコツ」


「ポンコツ言うな。いい加減泣くぞコラ」


 もう俺が泣きたい。


「まず一つ目、我が家は代々真言宗を信仰している。キリスト教のそれなどもっての他だ」


「うちがそんなもの信仰していたなど初耳だが」


「二つ目、何故お前は今日、リア充らしく彼女と過ごさないんだ。これはすごく疑問。まさか彼女よりこの姉のことが……」


「二、三回ドブに落ちて脛骨折して溺れろ。ただ今日は彼女の仕事で都合が合わなかっただけだ。だから申し訳程度に姉とクリスマスを祝おうかと」


「申し訳程度にって……お前今日はいつになく辛口だな」


「自分でも怖いくらいにな。それ以上に姉が怖いが」


「……まぁいい。では最後の質問だが」


 姉はおもむろにテーブルをどかし、部屋の角へとゆっくり歩いていき、突然振り返ってこちらへ向かって走ってきました。

 強烈なデジャブ。


「キリストの誕生日はおおいに祝えて私の誕生日は素直に祝えないってどういうことだコラァァァ!!」


 姉の鋭いエルボーが飛んできました。しかし同じ技を二度も喰らう弟ではありません。俺は十分な余裕をもって見極め、それを受け止めました。


「ぬうっ!」


「何度も喰らうか愚姉が!」


 姉の腕をはねのけ、再び俺たちは対峙しました。


「諦めろ姉。大人しくキリストの誕生日を祝うんだ」


「誰が祝うか。むしろ呪ってやるわ」


「お前はアウェイだぞ姉。見ろ、鬱蔵も狂喜乱舞して聖夜を楽しんでいる」


「メリクリ! メリクリ!」


 サンタの帽子を被って鳥カゴの中で暴れまくっている鬱蔵を指しました。


「くっ……」


「姉よ、お前顔に似合わず甘いものには目がなかったよな。いいのか? ケーキは俺一人で全部頂くぞ」


「くうっ……私は、私は……」


「プレゼントにとWEBマネー5000円分を用意していたのが……残念だな」


「私は、仏教徒だぁぁぁ!!」


 叫びながら、姉は大人しくテーブルについていました。


「とことん姉というやつは……」


「……いいじゃないか弟よ」


 俺も呆れ返りつつテーブルにつき、グラスにワインを注ぎました。


「まぁ何はともあれ、弟よ」


「……うむ」


 俺たちは静かにグラスを合わせました。


「めりーくりすまぁぁぁす!!」


 さっきの争いが嘘のように、姉は愉しそうに奇声を発しました。


「……はぁ」


 俺は多分これからも苦しみます。




 おまけ改め、余計な一言。


「季節ネタって便利だよな弟よ!」


「それだけは言うな姉よ……」

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