22話 姉の研究シリーズ『一度は使ってみたい台詞・後編』
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バトル・戦争編。
①「ちょこまかとすばしっこいやつだ」
②「ここは俺に任せて先に行けぇぇっ!」
③「右から順に射殺しろ」
④「安心しろ、峰打ちだ」
⑤「俺が殺すと言った以上、お前の死は絶対だ」
⑥「最期くらい格好つけさせやがれ!」
⑦「行くぞ、どこかの誰かの未来のために!」
⑧「お前の相手はこっちだ」
⑨「足元がお留守ですよ」
⑩「金ならいくらでもある! 命だけは助けてくれ!」
⑪「銃を向ける度に5セントもらってたら今頃大金持ちだぜ。諦めな」
⑫「全員仲良く、十万億土を踏みやがれぇぇぇ!!」
⑬「アバラが2、3本いかれちまった」
⑭「見えてる見えてるって、俺の残像でも見えたか?」
⑮「先ずはそのふざけた幻想をぶち殺す」
⑯「第一、戦闘配置につけ!」
⑰「私のために争わないで!」
⑱「俺、この戦いが終わったら君に伝えたいことがあるんだ」
⑲「ハッ……待て、これは罠だ!」
⑳「我が生涯に一片の悔いなし」
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「マニアックだなやけに。さすがは姉というか」
「うむ。よく考えたら20番のは第2話で言ってた気がする」
「言ってたな。お前は生涯悔い改めることだらけだが」
「私は全く後悔していないがな」
「胸張っていうなそんなこと。というより、姉は職に就いたら言ってみたい台詞はないのか?」
「……まぁあるっちゃある。仕事編が少し」
「ほう、読んでみようじゃないか」
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仕事編。
①「こんな接待は初めてだ! この商談はなかったことにさせてもらう!」
②「君、明日からこなくていいよ」
③「スマン母さん……会社が倒産した」
④「店長、迷ったときは顔採用でしょ。ホラ、可愛い子もよりどりですよ」
⑤「犯罪的だっ・・・・!うますぎるっ・・・・・・・・・・!労働のほてりと・・・・・・・・部屋の熱気で・・・暑苦しい体に・・・・1ヵ月ぶりのビール・・・・!染み込んできやがる・・・・・・!体にっ・・・・・・!くっ・・・・!溶けそうだっ・・・・・・・・!本当にっ・・・・・・!本当にやりかねないっ・・・・・・・・!ビール1本のために・・・・・・強盗だって・・・!」
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「なんでこんな破綻的な内容ばっかりなんだよ!」
「え、仕事って毎日こんな感じなんだろ。毎日地獄の15時間労働なんだろ」
「イメージすらこんなんだから姉は働かないのか。俺が毎日クタクタで帰ってくるのも原因の一端か……ううむ」
「頭を抱えている場合ではないぞ弟よ。次行こう、諦めてどんどん行こう」
「うむ……うまく流されてるような……」
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サスペンス編。
①「殺人? 全く、こりゃとんだ観光巡りになりそうだ」
②「はい○○警察……何ィ? ○○が殺されたぁ!?」
③「やっこさん、なかなかシッポを出しませんねぇ」
④「前の車を追ってくれ!」
⑤「おう悪いな……ってまたあんパンと牛乳かぃ」
⑥「あなたが被害者を上手く騙し、この崖に誘った……あなたがやったんですね、奥さん!」
⑦「この事件の犯人はたたりなんかじゃありません。人間の……歪んだ心です」
⑧「おいおいボク、勝手に現場を荒らしちゃダメだぞ」
⑨「この事件は思っている以上に何かが絡んでいる……そんな気がするんですよねぇ」
⑩「名乗るほどの者じゃありません。ただの観光人ですよ」
⑪「お巡りさん、自転車借りるよ! あとで返すから!」
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「姉よ。俺の気のせいかも知れないが、台詞が全て火サスのあの人で脳内再生されるのだが」
「船越英一郎は私のバイブル」
「言っちゃてるよ、船越言っちゃってるよ。せっかく俺がオブラートに包みまくったというのに」
「今更だろう。19話で●表記は一切しないと私自ら公言してあるからな。二次的著作物批判がなんぼのもんじゃい」
「このままでいいのかこの小説……」
「ただジャスラックは怖い。やつらは著作権の鬼だ。歌詞だけは載せられない。知ってるか、やつらの――」
「おっとそこまでだ姉よ。流石の弟もこれ以上の綱渡りにはついていけないからな」
「うむ……すまなんだ、次に移るか。次は……うん」
「なんだ勿体ぶって。ん、姉弟編? ……どういう意味だ」
「まぁ、ここまで来たら読むがいいさ」
「あぁ、うん」
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姉弟編。
「今まで迷惑かけてごめん。これからもよろしく」
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「……姉よ」
短い文です。他のジャンルには多く書き込まれているのに、俺に対して言ってみたい台詞はこれで充分だと言わないばかりに。
でも、これで充分なのかもしれません。普段言いたいことを言い合っている俺たちです。和気藹々とした会話だとか、姉弟の絆だとか、謝罪の言葉だとか、そんな言葉はほとんどかわさず、その大半は口喧嘩の中の醜い言い争い。
だからこそ、相手を慮る台詞は一言で充分なのです。醜い言い争いの中だからこそ、それで十二分に伝わったりします。映画のジャイアンが突然いいやつに見えちゃう現象です。
「弟よ、その例えは若干違うと思う」
ならば普段つっぱてるヤンキーが捨て猫を優しく抱いてるところを見て、あぁ、こいつ実はいいやつなんだなって思っちゃう現象です。
「いい加減私を不良系のキャラに例えるの止めようか。もっとこう、ツンデレ系の萌えキャラに例えてほしい。ヒロインの立ち位置的に」
誰がヒロインだ。そして俺の心の声に入ってくるな。
それからお互いに無言の気まずい重圧を掛け合い、突然、姉は前髪をいじって恥ずかしそうにしました。
「ともかく弟。せっかく見られたからこの台詞、言っておこうかなぁ、なんて……」
「いや、もう充分伝わったよ」
これに対して俺が返すべき台詞は、もう決まっているのだから。
「姉よ、本当に迷惑だと思っているなら働いてくれ」
「……いよいよツンデレ度が増してきたな弟よ」
うるさい。