18話 スカウター
「amazonでスカウター手に入れたぞ」
「……何だって?」
うちの姉がまた訳の分からないことを言い出しました。
どうも弟です。
玄関先で何やら受け取ってリビングに戻ってきた姉が、何か鬼の首を取ったように誇らしげな笑みで、手に抱えたamazonの箱を見せつけてきました。
「なんだそれ」
「だからスカウターだと言っているだろう。ちょっと待てよ」
姉は箱を開けながら言う。
中から出してきたのは、某大人気宇宙規模系インフレバトル漫画に出てくる、敵の戦闘力を数値化することができるアイテムでした。
まぁぶっちゃけドラゴンボールのスカウター。
「玩具?」
「本物に決まってるだろうが」
「んなわけあるか。どう考えてもサイヤ人変身セットの一部かなんかだろ。いい年こいてそんな物買うな姉よ」
「馬鹿にするなよ。絶対本物だからなコレ。見てろよ」
そう言ってスカウターを装着する姉。
ボタンをいじって俺の方をスカウター越しにまじまじと観察してきました。
リアルにピピピとか機械音が鳴ってます。
「んー……」
「どうした姉よ。やっぱり玩具だったか」
「いや、弟のステータスがあまりにも微妙でな」
「ステータスて。戦闘力じゃないのか」
「弟よ。戦闘力が今時何の役に立つんだ? 喧嘩が出来て、それで社会で生きていく上で何か有利になるとでも。夢見るなよ。漫画の読み過ぎだ」
「腹立つ上にお前にだけは言わたくないわ、このDVニート女が」
「言ってろ。今にお前の微妙すぎるステータスを見せてやる」
姉はパソコンを立ち上げ、何やらひたすらマウスで操作しています。
「何をしているんだ姉よ」
「スカウターで読み取ったデータをPCに送信することができるらしいんだ」
嫌にモダンだなおい。
「ほら出た。見てみろ弟のステータス」
「ん」
画面を指さす姉。
興味半分にそれを見ました。どうせチープで出鱈目なステータスだと対して期待もしてなかったんですが。
しょくぎょう:リーマン
せいべつ:♂
しゃかいレベル:35
じょうしきレベル:78
HP:120
MP:0
そうび1:ベーシックTシャツ
そうび2:くろショートパンツ
コミュりょく:82
かしこさ:92
うんのよさ:3
しゃかいてきしんよう:67
G:25
「おい待て。微妙もなにもそれ以前に何でドラクエ風のステータスなんだコレ」
「多分鳥山先生繋がりなんじゃないか。それにしてもGが25か。中々高いじゃないか、プークスクス」
「何だ、Gって何だおい」
「ゴミクズ度。よかったじゃないか25もあって」
「ゴミクズて。酷い機能ついてるな。しかも25がどれくらい高いのかは知らんが姉には負けん気がする」
「ハハッ、言ってろ。ゴミクズが、言ってろ」
「そこまで言うならそれ貸してみろ。姉も測ってやる」
「おう。どうせ私のGは2くらいだろうがな」
こいつの自信はどこから来るんだ。ふんぞり返っている姉をスカウター越しに映し、Gを測ってみることにしました。
「どうだ弟よ。私のGは。2か? それとも3か?」
「いや……これは……」
2000!? 馬鹿な。俺の肉親が、2000。
いや違う、もっと上がっている。3000、3400、4100――。
ふと、目の前がくらむような感覚を覚えました。俺は目をこすり、再度前を確認します。
どうやら俺の目がおかしいわけではないようです。
原因は姉。
ソファーでふんぞり返る姉の周囲の空間が、やつ自身のオーラで歪んでいたのです。
ハリウッドで例えればスティーブン・セガールの大物オーラ。
戦国時代で例えれば織田信長のカリスマオーラ。
グラップラー刃牙で例えれば範馬勇次郎の鬼オーラ。
太陽系で例えれば太陽の神々しい光のオーラ。
そしてこれは間違いなく、姉の纏う“ゴミクズオーラ”に他ならなかったのです。
「どうした、弟。いくらGが私より高いからって気を落とすなよ。」
姉よ・・・・根拠のない詭弁はよせっ・・・・大甘・・・・。今スカウターが指し示す数値は9680・・・・。
間違いなくお前はクズ・・・・圧倒的クズなんだ・・・・!
俺は未だに数値を上げ続けるスカウターを見たくなくて、ボロボロと涙を流しながら目を瞑りました。
「姉よ……」
「何だ弟よ」
「お前は全然ゴミクズなんかじゃない。どんな企業に行っても成功する」
誰が見ても見苦し過ぎるほどの嘘でした。
「ふっふっふ。だろうな」
「だから頼む。せめて今のうちに、本物のゴミクズにならない今のうちに……働いてくれ……」
俺の懇願に、姉はソファーにふんぞり返ったまま、興味の欠片もなさそうな反応を返したのでした。
「えー、やだ。働いたら負けだもん」
やがて、画面が測定不能を表示し、スカウターが小さな煙を上げだしたのでした。
今回の話の8割はパロで出来ているようなものですね。