15話 第一回・姉と弟の茶飲み話 〈挿絵付〉
ズズズ。ふぅ。
紅茶もいいですが、やはり日本人はお茶に限りますね。
どうも弟です。
今日は休日。特に予定もないので、リビングで姉とひたすらお茶を飲みながらのほほんとしております。
今日は静岡県の茶畑直送の茎茶。このお茶は玉露や煎茶の茎で作られたお茶です。味は比較的爽やかでまろやかなのですが、二煎目から少々味が薄くなるのが玉に傷です。
二番煎じ。やはりネタは一発勝負ですね。既出のネタは大抵、薄味になりかねません。
俺たちもこうならないように気を付けたいものです。
――午後二時三十一分。
「きっとジェイソンはリア充が許せなかったんだ」
「いきなりどうした姉よ」
「ほら、ジェイソンってよく、ベッドでにゃんにゃんしてる男女を襲うだろう」
「にゃんにゃんって。今時にゃんにゃんってお前」
「私なりの自主規制のつもりだったのが。いや、ともかくジェイソンについてだ」
「あれは単に濡れ場を挟みたいだけじゃないのか」
「ホラー映画に濡れ場など期待する奴なんているのか? 濡れ場を期待するならにゃんにゃんDVDでも借りればいいだろう」
「にゃんにゃんDVDて。もはや動物のドキュメンタリーDVDにしか聞こえんぞ」
「アニマルビデオ。略称にすれば私の表現したいことに繋がるな。いや待て、ジェイソンの話だろうが」
「あぁ、脱線したな。というかそれ目的じゃなくても濡れ場は『おっ』とくるものだろ」
「分からんぞ。彼は暗い過去があったという設定だ。浮かれきっている人間どもが許せなかったんだよ」
「なんというか、姉に通じるものがあるな……」
「フフ」
一口、茎茶を啜って、姉はため息を吐く。
「今ならジェイソンの気持ちが痛いほど分かるよ」
そう言って、今にも襲いかかってきそうな目付きで俺を見る姉でした。
姉よ、いい加減彼女の件は受け入れてくれ。
――午後二時五十分。
「妹が欲しいぞ、弟よ」
「唐突にして危ない発言だな」
「弟よ、何故貴様は弟なのだ」
「ふむ、哲学的な問いだな」
「違う。何故妹に生まれてこなかったのかということだ」
「姉よ、お前は妹という存在に幻想抱いてるぞ。実際姉の妹なのだからロクでもないに決まってる」
「弟がロクでもないようにか?」
「姉にだけには言われたくない台詞だな」
――午後三時二十二分。
「……そうか、弟が女装すればいいのか」
「しばくぞ」
――午後四時二分。
「ペットっていいよな、弟よ」
「一人で家にいるのが寂しいからか?」
「……私のことをよく理解してるじゃないか」
「飼うのはいいけどな、我が家は経済面がピンチなんだ。だれかさんのせいでな」
「私か? 最近電気代は極力抑えてるつもりなのだが」
「いや、姉の食費と姉のネット通販代と姉の使用する分の水道代と電気代と雑費と」
「つまり私が家に居ること自体ってことだな。よし、ようく分かった。今包丁持ってくるからそこを動くな」
「待て待て待て」
――午後四時五十九分。
「ファッションショーで使われる服って実際着て歩きたくないものが多いよな、弟よ」
「……それには同感だ、姉よ」
――午後五時二十八分。
「姉よ、お前引きこもりだよな」
「うむ、周知の事実だな」
「全く以て悲しい事実だ。で、引きこもりのお前にもし虫歯が出来たらどうするんだ?」
「……」
「……」
「……歯医学を学んで自ら治す」
「ある意味力技だな」
――午後五時四十三分。
「砂山のパラドックスって知ってるか、弟よ」
「砂山のパラドックス?」
「うむ、まずここに砂山があるとする。そこから一粒、砂粒を取り除いたらどうだろう」
「一粒除けただけだからな。まぁ砂山だろう」
「そう。で、そいつから一粒、また一粒と砂を取り除いていく。それを繰り返すとどうだ。最終的に砂粒は一つだけ。それを砂山と呼べるだろうか……という矛盾命題的なお話だ」
「んー、なにかしら明確な境界がなければそういう矛盾が生まれてしまうだろうな」
「で、私もパラドックスを考えてみた。題してニートのパラドックス」
「嫌な予感しかしないのだが」
「いいか、ある人間が一日だけ社会に出ることを休んだとする。俗に言う休日だ」
「休日をそんな嫌な意味に変換するな」
「で、続けて二日休む。二連休だな。それをどんどん繰り返していく。そしてようやく私に辿りつくのだ。さぁ問題。私はニートなのか、それとも四百連休中なのか」
「まごう事無くニートだな」
「頼むから即答しないでくれ」
――午後六時。
もう外は暗くなってきました。このままネタが被らないことを祈りたいのですが。
「兄が欲しいぞ、弟よ」
「……二番煎じだ、姉よ」
ズズズ。
残念、茎茶の味が最高に薄い。
四コマ漫画:ふにょこ氏