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12話 姉の研究シリーズ『人間観察・下』

◆◆◆


 九月六日(日)

 日曜日なのに弟は友人とやらと遊びに行くと言ってすぐに家を出て行った。寂しい。

 だが仕方ない。弟もまだ二十歳。遊び盛りなのだ。

 いや待て。友人と言いつつ、実は彼女とデートなんじゃないか?

 絶対そうだ。どことなく、いつもよりお洒落していたように思う。きっとあんなことやこんなことをして夜遅くに帰ってくるに違いない。

 かたや私は画面を通じて二次元キャラたちの擬似的な恋愛に耽っているのだ。なんだこの違いは。鬱だ死にたい。


(ここから延々と姉の自虐なので省略)


 夕方七時くらいに弟が帰ってきた。意外と早い。やはり本当に友人と遊んでいたのだろうか。

 いや待て。その考えは早計過ぎる。

 弟は猿みたいな脳をしているから、きっとデートプラン省きまくって本来の目的へと走ったのだ。

 それで彼女から嫌われたか、それとも快くそれに従ったか。

 前者であれ、前者であれ。

 って弟ぉぉぉぉ! なんだそのしたり面はぁぁぁぁ!?

 まさか貴様、まさか貴様ぁぁぁぁ!!


 はっ、いかんいかん。危うく怒りでシャーペンを握り潰すところだった。

 弟がコンビニ弁当を買ってきていた。

 「今日は疲れたからこれで我慢しろ」だそうだ。

 多分これは暗に「お前のような糞ニートに家庭料理など不釣り合いだ。お前にはこれで十分だろ、この社会不適合者が。俺? 俺はちゃんと外で美味しいもん食ってきたもーん☆」ということを意味しているに違いない。きっとそうだ。


 あぁ、さっきから弟の視線がやけに痛いような気がする。

 きっと「あー、コイツ何でずっと家に居るんだろうなー、目障りだなー」とか思ってるのだ。リア充ならではの傲慢な考えだ。

 私はその息苦しさに耐えきれず、「テレビ付けていいか?」と尋ねてみた。

 すると弟は数瞬の間を置き「あぁ」と答えた。

 ……何だ今の間は?

 そうか、恐らく弟は「お前のような生ゴミがテレビ観るなんておこがましいんだよ」と言いたかったのかもしれない。あるいは「テレビ観てる暇があったら


◆◆◆


「……姉の被害妄想が強すぎてこれ以上読んでいられないのだが」


「もはや持病といっても過言ではないな」


「胸を張っていうなそんなこと。弟として泣きたくなってくるわ。ていうかなんだしたり顔って。んな顔した覚えないわ」


「少なからず多少のフィルターをかけて弟を見ていたことは認めよう」


「……もはや何も言うまい。さて、ようやく最後の七日目か」


「うーん、本当のことを言うと最後は恥ずかしいからあまり読んでほしくなんだがな」


 ん? 今までと違う反応。ここまで読め読めオーラだったのに。そう言われると何故か読みたくなるのが人間というものです。


◆◆◆


 九月七日(月)

 今日は久しぶりに弟が朝食を作った。朝はいつもトーストとか、運がよくて昨日の余り物だったりするのだが。

 しかし、今朝は無理矢理作らせ過ぎたか。

 弟は寝不足で疲れてるみたいだ。

 よし。朝は冗談だったが、マジで夕飯は作ってやろうかな。なんだか悪いことをしたようだし、今日もコンビニ弁当になりそうで癪だ。


 昼過ぎ、一年ぶりくらいの料理に取りかかってみた。

 結果を言うと大変なことになった。まぁ詳しくは書くまい。この観察ノートは弟に見せることになるだろうから、事をぶり返すのはよくない。

 ともかく私の料理は二、三度の失敗を遂げた。

 で、ようやくまともなのが完成した。

 もやし炒めと麻婆豆腐。久しぶりにしては難易度の高いチョイスだが、我ながら中々の完成度。

 そうこうしてるうちに夕方になっていた。

 自分の分を食べて、弟の分はラップをしておく。

 テーブルに座ってテレビ観ながら、弟今日帰り遅いなーとか思ってたら、いつのまにかテーブルに突っ伏して寝ていたようだ。

 どうやら弟が帰ってきていたようで、「おいベッドで寝ろ、風邪引くぞ」とか言われたが、眠いのでシカトした。弟の口臭が麻婆豆腐臭かった気がする。


 すると私の身体が宙に浮いた。と思ったら弟におんぶされてた。

 弟におんぶされるのなんか初めてだ。

 いや、小学生の頃、「おれはつよいんだぞ」とか強がっておんぶされたか。かなり無理してたが。

 あの頃の弟が一番可愛かったな。どうしてこう生意気な大人に育ってしまったのか。

 きっと社会の汚い部分を多く知ってしまったのだ。やはり社会とはなんと末恐ろしいことか。


 まぁ、今は今で、弟もたくましくなったものだ。私の身体など軽々と持ち上げてしまうのだから。それに結構背中も大きいんだな。今は亡き父を思い出す。

 身長だってとっくに私なんて超えてしまったし、まだ安月給だが、私は今普通の暮らしができている。

 うむ、たまには弟に感謝した方がいいのかもしれないな。


 でもなんとなく気恥ずかしいので、ベッドに着く前に、今起きたふりをして蹴りを入れてやった。彼女いる男に触られるなど汚らわしい。


 まぁ、しかしなんていうか今はビバ弟だ。

 死ぬまでニートでいられるよう私を養ってくれ。終わり。


◆◆◆


「読み終えてしまったか……」


「最後の一行は目を瞑るとして、たまには姉もまともな思考を持っているんだな」


 そう言うと、姉はらしくもなくはにかむばかりでした。

 何なんでしょう、この普通の姉弟みたいな微笑ましい空気は。


「そういえば、まだ私の料理の感想を聞いていなかったな」


「少し味付けが濃かったな。……まぁ、姉としては上出来だったぞ」


「……へへ」


 だからなんだこの空気は。らしくない、本当に俺達らしくない。

 ……まぁ、たまにはこういうのもいいか。


「これからもたまに料理に挑戦していいか?」


「あぁ、次も頼むよ。何気に助かるしな」


「……じゃあキッチンを半焼したことも、そろそろ許してくれるか」


 ……それを忘れていました。姉は昨日の一件でキッチンを焦げカスにしていたのです。


「それとこれとは話は別だろうが。ちょっと待て、やはり姉は料理禁止だ」


「おいおいふざけるな。男に二言があっていいのか? せっかく私が実用的なことに興味を示したんだぞ」


「それ以前に姉はもっとやるべきことがあるだろうが」


「まーた就活関係の話か。ノートの最後にも書いただろう。私は一生弟に養ってもらう」


「そろそろ根性叩き直す必要があるな、愚姉よ」


 ……やはりこういう会話が俺達らしいようです。

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