第七節 登校その一
朝食を食べ終わった俺は、自分の部屋に戻り学校に行く準備をしていた。すると玄関のドアチャイムが鳴った。岬だ。岬はいつも時間通りに家に来るから確認しなくてもわかる。
俺はバッグを持って階段を降りた。
「あっ、おはようございます。先輩。」
ドアを開けると満面の笑顔でそう言った。
「おう、おはよう。相変わらず律儀だな。毎日俺の家に迎えに来てるが、たまには別の人と学校に行ってもいいんだぞ?」
「いえ、私が先輩と行きたいから来てるんです。私は先輩が好きですから。」
「っ......!」
岬はとても嬉しそうな顔をしながらそう言った。俺の気も知らずこいつはサラッと恥ずかしいことを言いやがる。
顔が熱く感じる。落ち着け、いつものことじゃないか。岬が思わせぶりな言動をするのは。あぁクソっ! 昨日母さん達があんなことを言うから気にしちゃうじゃないか。
冷静になれない。落ち着こうとすればするほど、頭が混乱する。
すると、リビングから母さんが出てきた。
「あっ、岬ちゃんおはよう。」
「おはようございます、お母様。」
「今日は、ユキちゃんと二人でいるんでしょ? ユキちゃんのことよろしく頼むわね。」
「はい! お任せくださいっ!」
「なんなら今日は、ずっと一緒に居てもだからね?」
「おい、母さん。いい加減に......」
「本当ですか!? じゃあお言葉に甘えて......」
「お前も調子に乗るな!!!」
はぁ、勘弁してくれ。誰かこの二人を止めてくれ。
そんな願いが届いたのか、リビングから父さんが出てきた。
「おう岬ちゃん、おはよう。」
「あっ、おはようございます。お父様。」
「あぁ、いいねぇ〜お父様、なんていい響きなんだ。」
「......」
昨日も言ったことだが、もう一度言わせてほしい。父さんに助けを求める俺が間違ってた。
「ユキ、そろそろ出ないと遅刻するんじゃないか?」
時計は8時を指している。
「そうだな、そろそろ出なきゃ遅刻するわ。岬、そろそろ出るか。」
「はい。そうしましょう。」
「あ〜そうだユキ、これを渡しておかないといけなかったな。」
そう言うと、父さんは1万円札を5枚渡してきた。
は? なんで1万円札を5枚も渡すんだ? 普通外で食べると言っても2、3千円が限度だろ。まさかこいつ!
「これで好きな所に泊まってきていいんだからな。あとちゃんと岬ちゃんの同意を得ろよ。」
父さんは耳元でそんなことを言ってきた。
本当になんなんだこの親は!? 自分の子に積極的にいやらしいことを勧めるんじゃない! 岬は岬で、満更でもない顔をしやがって...... 俺の周辺にまともな考えをする人間はいないのか!
「バカじゃないの!? ちゃんと岬を家に送り届けて、帰ってくるよ! 今日の本来の目的は岬の勉強を教えることなんだからな!」
「ちぇ、つまんねぇーの。」
「とにかく! 行ってくるからね!」
「はいはい、いってらっしゃい気をつけてな。岬ちゃんも気をつけて行ってきてね。」
「はい! 行ってきます!」
俺は父さんの手にあった5万円をひったくって、家を出た。
駅に着くまでの間、岬は終始笑顔だった。




