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第十節 二項 ジゴク

止まる事を忘れた暴走列車。一向に止まる気配を見せない暴走列車に不安を隠せない乗客。車両によっては、乗客同士の暴動も起きていて、血を流しながら倒れている乗客もいた。

その異様な光景を横目に、俺、岸波綋士は10号車に向かって歩き続けていた。この異様な光景は10号車に近付けば、近付く程に酷くなっていく。終いには、錯乱しなりふり構わずこちらに襲い掛ってくる乗客もいた。怪我をさせるわけにはいかない為、鳩尾に軽く入れてしばらく動けないようにした。


「一体......どうなっているんだ?」


自然とその言葉が口から出た。だが、そんな乗客一人一人にかまっている程余裕がない。とにかく今は、急いで10号車へ行き、車掌の状態を確認しなければ。

焦る気持ちを抑えながらも、俺は歩みを早めた。


———ポタッーーーポタッーーー


「なん......だ...これ......は......」


10号車と9号車を隔てるドアを開き、10号車に足を踏み入れた俺は、その惨状に動揺を隠せなかった。


ーーーポタッ———ポタッーーー


件の10号車には、ロングシートの座席に隙間なく乗客が座っていた。その乗客には、共通した特徴があった。それは、体に付いている頭と四肢が全て、綺麗に切り取られていることだ。切り取られた面からは、血が滴り落ちている。荷棚の方に目をやると、そこには切り取られた頭と四肢が置かれていた。切り取られた顔と四肢は、体の真上に置かれているのを見ると、四肢は真下の体が持ち主なのだろう。

それぞれの体や四肢から滴り落ちる血によって、床は血の海と化していて、車内にはムワッとした生温かい匂いが漂っている。


「これ......全員死んでるんだよな......一体誰がこんな事を......」


そんな俺の独り言が、車内に広がる。しかし、そんな俺の独り言に言葉を返してくれる者は一人も居らず、車内には車輪とレールが擦れる音と、レールの繋ぎ目を通過した時に鳴るジョイント音と血の滴る音だけが、俺を包み込む。


「クソッ! 今はそんな事を気にしてる場合じゃないだろ! 今すべきなのは車掌の安否の確認だ!」


ーーーパンッ、パンッーーー


俺は自分の頬を叩き、喝を入れた。結果はほぼ確定で決まっている。それでも、確認しなくちゃいけない。俺がここに来た理由は、車掌の状態を確認しに来たのだから。

俺は、血の海と化した10号車の床を歩き始める。足を踏み締めると、足元からピチャ、ピチャと音が鳴る。

あぁ、帰りたい。俺は学校に向かっているはずだったのに、なぜか血の海の上を歩いている。通学途中に水溜りの上は歩くことはあっても、血溜まりの上は歩くことはないだろ普通......

そんな、考えても無駄な事を考えているうちに、俺は乗務員室の前に辿り着いた。


ーーーポタッーーーポタッーーー


「............」


乗務員室も、車内と同じく血だらけになっていた。車掌は、貫通扉に釘か何か打ち付けられている状態で死んでいた。おそらく、この車内の中で惨い死に方をしたのは車掌だろう。車掌の頭は金槌で潰されていて、腹は切り開かれて内臓をぶち撒けられている。両手両足には貫通扉に打ちつける為に釘が大量に打ち込まれている。

運転席台を見ると、そちらも金槌で壊されていた。非常ブレーキはまだ生きているかもしれないと考えた俺は、乗務員室のガラスを叩き割って中から鍵を開けた。ドアを開けた途端、今まで以上にムワッとした生温かい匂いと生ゴミの様な匂いが同時に襲ってきた。吐きそうになるのを堪えながら、俺は非常ブレーキレバーの所まで歩いた俺は、レバーを勢いよく引いた。

しかし、ブレーキは掛からず暴走列車は走り続ける。


「どうすんだよこの状況......10号車は死体だらけだし、非常ブレーキは使えないし、車掌は死んでるしで、もう手の打ちようがないぞ......」


この救いようのない状況に、俺は呆然として佇んでいると、ポケットに入っているスマホが鳴った。

こんな状況に一体誰からの電話だ? そう鬱陶しく感じながら俺はスマホを取り出し画面を見ると、そこには羽島行人の文字が書かれていた。

俺は通話ボタンを押して、電話に出た。


「ユキか、どうした? 何か問題が発生したか?」

「あぁ、かなりな問題だ。選択肢を間違えると、死人が出るかもしれない。」

「死人が出る......か、もうすでに手遅れかもしれないぞ。」

「......どういうことだ?」

「10号車の乗客が全員死んでる。車掌も貫通扉に打ち付けられてる状態で死んでるよ......」

「っ......わかった、急いで合流しよう。早く手を打たないともっと死人が増えちまう。」

「了解。じゃあ、さっきの車両でいいんだな。」

「それでいい。じゃあまた後で。」

「了解。」


電話を切った俺は、地獄の10号車を後にした。


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