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おっさん殺害事件

 自分で言うのもなんだが、僕という人間はそこら辺にいそうな底辺おっさんである。


 気づけば40歳になるが、履歴書には高校生だった頃から変わらず特技はタイピング。趣味はゲーム・読書とか書き続けてるぐらい何にも成長していない。


 アルバイトや派遣の経験だけは豊富だが、2次元の主人公たちみたいに生死のかかったアルバイトをしていたり、豊富なアルバイト経験のおかげでハイスペックになっていたりは全くしない。出来ることは増えたが至極普通である。

 強いて特徴を上げるのなら性格が多少変わっているといわれる程度であるから、やはり普通の域を超えないおっさんと言えるであろう。


 特段スポーツをしているわけでもないので、出てしまったお腹が引っ込まなくって久しく、ボディライン的にもナイスガイおっさんとは言いがたい。

 向上心に関してもお察しであるが、同じようなおっさん同士でつるんでいる折、人生やり直せるとしたらどうすると話し合った際、同じことするだろうなとしか言ってしまうほど人生やる気がないのが自慢である。


 そう、これ以上なく、完璧に、自身が駄目なおっさんであると確信している。


 最高に好きな瞬間がサブカルチャーを堪能する時と、若者に僕のようになるんじゃねえぞとのたまうことであるあたり、自分で思うのもなんだが救いがないおっさんである。


 そんな主人公属性なんて欠片も持ち合わせていないおっさんが、会社帰りにこんな事態に遭遇するなんて『事実は小説より奇なり』とはよく言ったものだとしみじみ感じいってしまう。


 近づくまで全く気付かなかったのもおかしな話だし、帰宅途中の暗がりで、そんなことが気にならないほど変な動物たち? に出会ったというのはいかにも空想じみた展開である。


 気づかぬうちにヤバイ薬を打たれていて幻覚を見ているか、もしくは職場で眠っていて明晰夢を見ていると言われた方がまだリアリティがありそうだ。


 いきなり目の前に現れたマフィアっぽい恰好をした豚、鶏、子供、そして今にも死にそうにぴちぴち跳ねている魚を改めて見る。


 おっさんとしては、魚に服着せるのはどうかと思う。というか、かわいそうだから水槽に入れてあげて……。


 あと一生懸命喋ってるのに悪いけど、おっさんは日本語ではない言語には対応できないので勘弁してほしい。ちなみに多言語対応のバージョンアップ予定はありません。そんなことより腰痛(バグ)の改善を切実にどうにかしたいところ。


 なぜこんな時間に外を動物たちとうろうろしているのかまるで理解出来ないが、最近の子供はみんなこんな感じに狂ってる奇行に走るのだろうか。もしくは動画の再生数を上げるために奇行を繰り返す配信者みたいなものなんだろうか。もしそうならおっさんを映しても取れ高はないぞと言いたい。


 せめて僕が面白おかしいリアクションのとれる有能おっさんであればあるいは……ないか。


 なんてことを考えつつ、まったくリアクションをしない僕に対しても変わらず騒ぎ続ける子供+動物たち。


 すごくメンタルが強いです。


 しかし、いつまでもこうしていてもご近所に迷惑だろうし、もし困っているとしたらどうにかしたほうがいいだろうなという善意は僅かながらにあるのだが、現状を打破する解決策がまるで浮かばない。


 あとちょっとで家でゴロゴロ出来るのに何やってるんだろうという疑念交じりの逃避ばかりが頭に浮かぶ当たり、クズい性格してるよなと思う。


 帰り道はこの一本道を通ってすぐなのだ、迂回するのも面倒だし、どうにかかわしてダッシュ……してついてこられるとさらに困った事態になってしまうのはまず間違いない。


 もうどうしようもないし、近くのコンビニに行って警察呼ぶのが手っ取り早い。一生懸命喋っている少年には申し訳ないが親御さんに怒られてくれ。


 よし、英語でとりあえず喋れないと謝って、ふぉろーみー、ぼーい! と言えばたぶんついてくるはずである。


「あー、あっ……?」


 なんだ、落ちている……。体が倒れて……?


 首がない、え? なんだこれ……。


 死…………。



 ほのかに光る街灯に照らされながら、血しぶきが出ることもなく、ただ淡々と冴えない小太りの男の首が体から転がり落ち、男が何かを言いたげに口をぱくぱくさせるのをしばし見つめる。


 僅かばかりの時間がたち、魂が出てきたところを回収する。


 転移なら殺す必要もなかったが、今回は転生させる必要がある。ついでになぜ異世界転生することになったかについても説明しておいた。質問はあるかと問いかけても何も言ってこなかったし完璧である。


 万事順調。それに付け加え、下界で人間と直接話すなんて滅多にない経験を積めた。


「ではお三方、あとは手はず通りにいたしますので」


 了承と、歓喜を叫びながら空へと神々の依り代が溶けていくを見送りながら、男の抜け殻となった体をどうするか少し逡巡したのち、腕を振って消し去る。


「正直なところ、こんな男では建国すらままならなそうですが……、これを機に私の世界の人気が出れば重畳でしょうかね。あ、そうでした。これを忘れてはいけなかったですね」


 何もない空間へと手を伸ばし、いつものように正方形の画面を作り出し、目当てのサイトが表示されたことを確認し、思考入力を始める。


――動画配信サービスVRLiveに這いよる神Liveの規約に同意しますか?


――YES


――必要事項を明記してください。


――配信者名:南雲 奏


――年齢:40歳


――出身:No1586・太陽系・地球・日本


――クレジットカード:XXXX XXXX XXXX


――転生先:No9454・ネレ光星系・ファル・クルヴァレ大森林


――偽装用VRゲーム:異界ネレファル


「あとは前世の記録を貼って……。SNSにリンクをUPしておけば、雑事も完了ですね。さて、私の世界へ共に生きましょうか」



 爽やかな風が肌を撫で、木々のざわめきが優しく鼓膜を揺らしてくる。


 いつもなら朝特有のだるさに嫌気がさすところなのだが、近年稀に見るほどに気分がいい目覚めに少し気持ちが上向く。


「……?」


 自身が死んでしまうホラーじみた光景が脳裏を一瞬掠めたが、夢だったのかと考え、折角の好調日を満喫するべく夢はとりあえず無視して目を開く。


――――目を開けるとそこは森。


 目を閉じる。


 木の幹が白で葉紫とか、配色が色々とおかしい森が眼前にあった気がするが、これはまさかまたホラーな夢なのだろうか。


 そんな夢を連続で見たいわけもなく、目を覚ますためにんーっと伸びをして、ぺちぺちと両頬を叩く。


 その結果、さらなる違和感襲われることとなった。


「ん、んん?」


 ご覧ください、いつもアブラギッシュな肌が驚きのふんわりモチすべ肌に! え、僕の油ないなったん?


 まさかこれが最近買った彼女の出来る洗顔料の効果なのか!? ってそんな訳ないか、そもそもVRLiveに出てくる怪しい広告の商品なんて買ったためしがない。


 


 

この物語はフィクションであり、一般人が神々に殺される心配はありません。


※たぶん

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