6話 副ギルド長、アンセム
「縫い目のないドレスなんてどうやって作ってるんですか!?」
という質問から1分は経っただろうか。
沈黙がそこを支配していたが、このままずっと黙ってる訳には行かないので、口を開く。
「えっと、企業秘密です。」
鑑定カウンター側の受付嬢さんは「ですよねえ」と言い、入団カウンター側の受付嬢さんと少し話をして今度はこちらに話しかけてきた。
「私の上司が話したいと…ついて来て貰えますか?」
反対するメリットもあまりないので静かについて行く。
一対の柔らかいソファがある部屋に招かれた。
いかにも重要な人物のための部屋という雰囲気に、緊張に肩が上がる。
深呼吸をしながら待っていると、戸が開き、体格のいいおじさんが入ってきた。
それまでは心地よく感じていた日光が、急に眩しく思えてきた。
何せこの人…ハゲなのだ!
ハゲおじさんは僕の対面のソファーに座ると
語り出す。
「待たせて悪かったな!俺はアカシム。副ギルド長だ。期待の新人くん、名前は?」
うるさい!
いや、よく通る声とかの話じゃなくて、とにかく声がデカい!
眩しさと声のデカさに参ってなかなか声が出ない。
かすれ声で名を名乗ると、「ああ、すまん!ここに書類があった!ガッハッハッ!」と返された。
なんだか自由奔放な人だなあ…
元の世界にもいたよ、こういう元気だけで生きてる人。
アカシムさんは少し抑えた声で話し出す。
「んで、だ。ここからは真面目な話になるんだが、カトー、この街に店を置かないか?」
目的がいまいち見えてこないな…
多分、こういうタイプは回りくどく聞くより直接聞いてしまう方が好みだろう。
「僕は旅の商人なので。それにしてもなんでです?僕をこの街に置くメリットは?」
「メリット、ときたかあ。まあ、あれだ。色々なとこであんまり型破りな服を作られると、他店が騒ぐんだよ。不穏になることは望んじゃいねえからな。その点ここにいてくれると管理しやすいんだ。お願いだよ!」
前のめりになってこっちを見てくる。
怖いよ…
しかし、僕の商売を型破りと言われて不穏になるからと管理されるのはかなりめんどくさい。それに、僕には行きたい場所もある。
「わかりました。旅は続けますが、折衷案を考えませんか?」
「おう、そうだな。」
「まずアカシムさんの目的は僕をここで管理して、ギルド内の不和を防ぐこと。そして僕の目的は不要な手間をかけることなくことなく行商を続けること、いいですよね?」
「おうともよ。」
そこから始まった話し合いはお互い譲らず、それでも少しずつ譲歩はしていって、やっと結論が決まった。
「じゃあ、ギルドはどこまでが許容できるかのリストを作り、それをわが店は徹底する。1ヶ月に1度、いる場所ギルドからの監査が入る、といった形でいいですね?」
アカシムさんは頷く。話し合いは終わりそうな雰囲気であったが、何かを思い出したような彼は焦って言う。
「そーだそーだ、もうひとつの本題を忘れていた。カトーって流れ者なんだってな!」
「ええ、私は身分がありませんのでその身分を作るためにここに参りました。」
「そうか…このギルドが身分がないものが登録するのに長い書類を書かせるのは、信頼を獲得させるためだ。だが君は信用こそ得ていないが、型破りでもあるが高い品質の商品がある。それに、君は…」
そこでアカシムさんは押し黙り、30秒後くらいで再び口を開く。低く、静かな声であった。
「勇者、なのだろう?」
背筋に冷たいものが走る。
なぜ知られているのか?
この人は元気だけの人じゃない…
何か、何かがある!
「まあそんなことはもういいのだ!君は今、商人ギルドの一員になる!ギルドの会員料については部下に説明させる。話せて良かったよ!」
今まで通りのデカい声でそう言うと、アカシムさんは出ていった。
その代わりに部下の人が出てきて説明をしてくれたものの、アンセムさんが気になって話半分に聞いていた。
あの人は如何にして商人ギルドで登りつめたのか。
僕の感じた何かとは何だったのか?
そんな答えのない問いが頭の中で回り続けていた…
100PV超えました!
皆さんのおかげです。ありがとうございます!
これからも精進していきますので、よろしくお願いします。