5話 エルフの音楽家
エルフさんはちゃんと帰ってきた。
そして僕に銅貨2枚を差し出すのだ。
「その白いワンピース、銅貨3枚だよ。」
「わかっています。ですが、どうか私の話を聞いて貰えませんか?」
はぁ…多分貧乏で可哀想な身の上を語り出すんだろう。
こういう客は前にもいた。まあ、聞くだけ聞いてみる。
「私は元々貧乏な旅の音楽家で、細々と入ってくる作曲の依頼やコンサートの依頼で食いつないでいました。昨日も1つ、近くの町での演奏会の依頼が入りました。楽器はあちらが提供してくれるというので、楽器だけは宿に置いておきましたの。」
貧乏な旅芸人か。
しかし、他にもなにかあるようだ。
払えない理由が。
「演奏会は無事に終了して、本来なら馬車で帰るところを徒歩で帰ったんです。お金の節約のために。そこで追い剥ぎに会いまして…私はお金も服も大切なものも何もかも奪われてしまったんです。指輪と、荷物をまとめていた布だけはあったので、布を羽織ってここまで…宿に置いておいた楽器とこの銅貨2枚、それが全財産ですわ。」
「なるほどね、可哀想に。それで、埋め合わせはどうするんだい?指輪を売ってもいいが、銅貨1枚よりは高くなるだろうね。」
僕だって商人だ。
生活がかかっている。
だけど銅貨1枚くらいなら許容してもいいか…?
だって100円くらいの価値だ。
しかし3枚だってかなりまけている、裸だったからだが。
話が嘘の可能性も捨てきれない。
ここはやはり、きつめに行くしかないか。
「私は音楽家です。音楽で目を引いて、客寄せくらいならできるとは思いますが…お願いします。雇ってくださいませんか。働いて銅貨1枚分はお返しします。」
長い髪に土をつけてしまいそうなほどに深いお辞儀をする彼女。
僕だってそこまで非情でいたいわけではないし、何より大声出すのが恥ずかしい僕にとって客寄せしてくれるのは幸いであった。
「…いいよ。でも今日はもう店じまいだ。今日の宿はあるよね?」
楽器を置いてきた宿はあるはずだ。
ないなら宿代くらいは払ってもいいが…。
「ありがとうございます!すみません、もうここずっと依頼が入りそうになくて、働き口を探してたんです。宿はあと3日泊まれますよ。」
「名前は?」
「マイカル」
「よし、じゃあ明後日から働いてもらおうかな。明日は商人ギルドに行かなきゃいけないから。指輪は返すよ。」
そこからも何時にどこに集まるのか、給料は日給が銀貨5枚になるということ、夕暮れまで働いてもらうということ、もちろん休憩時間についても話した。
話も終わり、わかりました。よろしくお願いしますと言って帰った彼女を、引き留めたいと思ってしまった。
引き留めたって、何をする訳でもないのに。
店じまいを済ませ、宿に帰ったあとも彼女の事を考えていた。
金髪のストレートな髪に、すらっとした体型、それでいて胸はちゃんとあり、とんがった耳も可愛い。
顔は化粧が濃すぎず彼女を引き立てていた。
深夜にわかったもっとふれあいたいという衝動の原因。
もしかしたらそれは、一目惚れなのかもしれなかった。
その日は悶々としつつも何とか眠りについて、今日は商人ギルドに向かう日だ。
宿で朝ごはんを済ませ、人混みをかき分けかき分けて
商人ギルドに着いた。
さすが貿易拠点、人も多い。
とりあえず中に入り、鑑定カウンターに急ぐ。
カウンターも盛況なようで、多少待つことになった。
鑑定カウンターでは、タダ同然の値段で自分の商品がどのくらいの価値があるのかを査定してもらえる。
時間は少しかかるものの、大抵数時間くらいで済む。
僕は昨日のうちに豪華なドレスを作ってあった。マイカルさんが着てくれることを夢想しながら作ったドレスだ。
…なんだかそう思うとこのドレスがいやらしい物に思えてきたな。
待ち時間も終わり、カウンターでドレスを提示して、書類を少しだけ書く。
カウンターの受付嬢の態度はめちゃくちゃいいんだけど、ここの椅子、固くて座り心地悪いなあ…
商人ギルドに所属出来れば書類書くなんてこともしなくて済む。
早く所属してしまおう。
書類を描き終わったあと、所属するための手続きを済ましに行く。
そこ…入団・退団担当カウンターでもまた書類続きだ。
おそらくそこの受付嬢も僕もうんざりしてきた頃、後ろから声をかけられた。
振り返ってみると鑑定カウンターの受付嬢さんだった。
彼女はよく通る声でまくし立てる。
「探したんですよ!鑑定部の人に聞いて来いって言われたんですけど、縫い目のない豪勢なドレスなんてどうやって作ってるんですか!?」
2人の受付嬢の視線が突き刺さる。
…そういえば、縫い目つけるの忘れてたかも。