4話 裸のエルフ
王城追放から5ヶ月自分の足で歩いて行くことに恐れを感じていた僕も、慣れるもんだね。
今ではすっかり平気だ。
あの王城という場所は、この王国の実力主義という思想が他より濃縮されて詰まっていただけのようだ。
実際、戦えない僕にみんな助けをくれた。
1人ではないから、何とか生きていける。
まあ、一緒に旅をする仲間はいない訳だけど…
生きていれば大丈夫。
「おーい、そこの男ー、手続きするぞー」
なんて考えていたらもう順番か。
王都では1ヶ月滞在し、色々な街に行き【衣 】を活用して服を作っては売っていたが、ようやく目標の金額まで金が貯まった。
なので、新しい街…王都に次ぐ規模を誇る貿易の拠点ラウドシティに来ているのだ。
手続きを済まし、街に入る。
手続きに2時間くらいかかってしまった…
今の僕のままではなかなか身分を証明出来ないので、手続きは長くなる。
だけど、これから色々な街を巡って商売をするなら手続きは短い方がいい。
だから僕は、商人ギルドの創設地であるここにやってきた。
商人ギルドとは?というと、
商人が集まる団体のことだ。
集まって流行について情報交換したり、取り扱っている商品を、市場に流せばどれくらいの値段になるかを査定してくれるわけだ。
昔からあるギルドなので、色々な場所にコネが効くのも大きい。
そのうちの1つ、僕が狙っているのが、身分の証明だ。
もちろん色んな手続きが必要だ。
そうしなければ、犯罪者にまで身分を与えてしまう可能性もある。
しかし、僕のスキルが作るこの服をもってすれば、もしかしたら手続きをカット出来るかもしれない。
なぜなら、この服はこの世界の高級な服と比較してもちゃんとグレードが高い。
縫い目は真っ直ぐ、縫い目が無いようにも作れる。
布は用途に合わせて選ばれ、どれも肌触りがよい。
着物もドレスも自由自在。
これがギルドに認められれば…可能性はある。
しかし、入町手続きに時間がかかりすぎた。
そろそろ宿を確保する時間だ。
ここはパーっと派手に目を引いて、売り上げてしまおう。
大通り、邪魔にならないスペースを確保して、客引きをする。
元々引っ込み思案だったから、大声を出すのはまだ恥ずかしい。
生きるため仕方ないと割り切って続ける。
…おかしい、売れないのだ。
王都と同じ品揃えにしているはず。
王都でよく売れた物を揃えているのに、なぜ売れないのだろう?
客は寄ってくるのだ。
だが、品揃えを見て帰ってしまう…
このままじゃ稼げない…
今日の宿を確保するくらいの金は当然あるが、今日みたいなことをずっとしていたらお金はなくなる。
とりあえず、店じまいにしようかと思い片付け始めた頃、人気のない通りから出てきた体を布でくるんだ女の人が、下を向いて話しかけてきた。
「あの、服、服を売ってくださいませんか。」
だけど、バスタオルよりちょっと大きいくらいの布ではあまり隠せておらず、恥じらった僕の返答は、ぶっきらぼうな返答になってしまった。
「1番安いのがこの白いワンピースさ。銅貨3枚。」
銅貨1枚が100円、銀貨1枚が2000円、金貨1枚が20000円相当だ。銅貨3枚、つまり300円は新品の服にしてはかなり安いはずだ。
「ありがとうございます、あの、お金を宿に置いてきているので…」
早速着たはいいが、彼女はまた下を向く。
んー、怪しい、逃げるだろう。
担保を預かろうにも、この女の人、何も持ってなさそうである。
…いや、あるな。
「その指輪、担保として預からせてくれるのならいいさ。逃げたら処分するからね。」
下を向いているのでは無い、指輪を見ているのだ。
その指輪の価値は僕に分からない、それでも大切なものなのだろう。
心の拠り所にしたくなるほどに。
彼女はかなり戸惑ったが、外して僕に手渡しで渡してくれた。
…走っていく途中、振り向いて「大切にしてくださいね」と笑う彼女を見て顔を赤くしただなんて、僕だけが知っていればいい。