1話 必要とされたい
初投稿です!毎日投稿頑張ります!
自分の唯一の長所が、自分を客観的に見れることであったのはよかったと思うが、そのせいで自分にはろくに売りがないこともわかってしまった。
運動も勉強もダメ、人付き合いも得意な訳ではない。
そんな僕、加藤 空はささやかなひとつの願いを抱えていた。
「だれかに必要とされたい」
それだけでよかった。
助けられるだけなのはいやだった。
求められたい。
それは僕の心の穴であったのだろう。
そう、これは僕の欠けたスキルと心の穴を埋める旅の物語。
その始まりは、家でファンタジー本を読んでいたことからだ。
本を読むことに興味などこれっぽっちもなかったけど
「本とか読んでた方が周りの評価もいいかな」なんて打算的な考えで読んでいた。
ただ、ほんの少しだけだが、その読んでいたファンタジーの世界に憧れが芽生えた。
目を閉じて想像してみる。
自分の手に浮かんでいる魔法陣から炎が出て、それはモンスターに向かって行く。
当たったモンスターは真っ黒焦げに…
そこまで想像したところで、ピッと静かな部屋に似つかわしくない電子音が鳴った。
目を開けてみると、
魔法陣で作られた立方体に囲まれていた。
触ってみようとするも体が動かない。
かろうじて呼吸ができる程度なのだ。
何が起こっている?確認する暇はなかった。
今まで上と思っていたものは上であったのか。それは下ではなかったか?
自分がどこに足をつけているのか、浮遊感すらない現状では確認できない。
奥へ、奥へ、背景の奥、世界の向こうへ。
不意に感じる孤独感、世界から自分だけ切り取られたかのような。
寂しい、さみしい、一人は嫌だ。
叫んでも誰にも聞かれないのに、喉を潰す勢いで叫び続けた僕を嘲笑うように、世界はまた動く。
奥へ、奥へ、今までの世界を超えて新しい世界へ。
意識が暗転する。いや、世界が暗転したのか?
硬い床の感触を感じる。
どうやら寝ていたようだ。
ああ、良かった、夢だったんだ。
多分全部。
いつもの日常はここにあるんだ。
それを期待して目を開けると、仰向けの僕の視界には、仰々しいシャンデリアが映っていた。
…え?まさか、まだ夢の中?
とりあえず体を起こす。
痛い…なんでそこはリアルなんだよ、夢なんだからいい思いさせてほしい。
周囲を見渡すと、どうやら宮殿のような建物の中らしい。
僕を囲むように配置されている鎧をまとった人、その中でも一際目立つ2人組。
王冠を被った「王様ってこんな感じだろうなあ」というイメージ通りのおじいさん。
その横に立つ、豪華な飾りのいっぱい着いた服を着ているイケメンさん。
イケメンさんは僕と目が合うなり話し出す。
「ようやくお目覚めになりましたか、勇者様。体調はいかがです?」
「…体が痛いです」
勇者様?とりあえず僕が答えるとイケメンさんは鎧をまとった人に命令する。
「回復術士を呼んでこい!」
回復術士???え?えっと、よく分からないけどなんだか大げさな気がするよ…とりあえず!
「いらないです!そんな騒がれるようなものではありません。硬い床で寝ていたので痛くなっただけです…」
尻すぼみになってしまうこの性分が疎ましい。
それでも伝わったようで、イケメンさんは兵士を元の位置に戻した。
よく分からないことだらけだ…
1つずつ聞いてみるしかないのだろうか?
「あの、質問したいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんです?」
「まずひとつ、あなたたちのお名前と立場。ふたつ、勇者とはなんなのか。みっつ、回復術士とは?」
そう質問するとイケメンさんは少しうなだれたように見えた。
「ああ…そりゃ分からないですよね。まず、私の名はサンディ。勇者様のお世話係です。こちらの方が…」
ずっと喋らず、威厳をたたえて立っていたそのおじいさんが口を開く。
「自分で名乗る。儂の名は、アンテマ・シュトロハウナ。アンテマ国に降臨する国王じゃ。」
やっぱり国王か。
見た目で推測しやすいのは、僕みたいなはじめて会った人にも威厳を示すためなのかな?
そんなことを考えていると、イケメンさんことサンディさんが話し始める。
「それで、あなたを囲むように立っているのが我が国の兵士。覚える必要はありません。親睦はこの後深めていけばよろしいでしょう。」
「それと、勇者というのは異世界から来た人間の総称です。魔王を倒すために私らが召喚する、というのが主な来る手段ですね。あなたがたからすれば迷惑なことであるとはわかっていますが、これが効率的なのです。」
「効率的?」
「ええ、世界を超えた人間というのは強いのです。世界と世界をつなぐ空間、無界には強いエネルギーが満ちています。それは弱い人間を殺します。ただ、耐えられる強い人間には力を授ける。その力はこの世界の人間よりもたいてい強いので、この世界の人間を育てるより効率がいいわけです。」
…ほんとに迷惑な話だ。
しかもさっき聞こえた魔王という言葉、なんだか厄介事の予感すらする。
だけど、これが現実である保証もない。どうせ泡沫の夢ならば、楽しみつくしてしまおう。
「…魔王を倒すために、僕を…」
「魔王というのは人間を憎んでいて、破壊と享楽を尽くす迷惑な存在です。今までの勇者では倒すことが出来なかった。だけど、我々も進歩した。勇者様と一緒なら、倒せます。我々にはあなたが必要なのです。協力していただけますか?」
サンディさんは僕に歩み寄り、手を差し出した。
あなたが必要。
それこそ僕が言われたかった言葉であり、繋いだ手を離す理由などどこにもなかったのに。
なぜ、ずっと握っていられなかったのだろうか。
いかがでしたでしょうか?
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