あなたはそこに、僕はどこに。(短編)
春の風が吹いている。
目の前を通り過ぎ、その度に僕の命は磨り減っていく。
春を感じる度に、僕の命は否定されていく。
誰もが母なる大地を踏みしめているのに、僕は何者でもなく、ただ宙に浮いているようだった。
そのままどこかへ飛んでいきそうで怖かった。
怖くて、寂しくて、妬ましくて、憎い。
離れていくあなた達は幸せそうにしているのに、僕はただ遠くへ飛んでいくだけで、あなた達の幸せな瞳には写らない。
僕の瞳には見えているのに。
あなた達の幸せが見えているのに、僕の不幸は無色で、透明で、飛んでいってしまう。
水のように美しくもなく、空気のように美味しくもなく、僕はただ、飛んでいく。
誰かが放った銃弾は当たるのに、誰かが棄てたゴミは落ちてくるのに、誰かが吐いたツバは当たるのに、僕の姿は誰にも見えない。
誰かの声は聴こえるのに、僕の声は聴こえない。
僕には見えるのに、あなた達には、僕の姿が見えていない。
僕は、夕焼けの空に融けてしまいたい。
あの美しい夕焼けの空に。
誰かに見て貰えるだろうか。
美しい夕焼けならば、僕の姿は見えるのだろうか。
はたしてそれは僕なのだろうか。
少しセンチな気分になったので、サッと書いてみました。
悪くないっっと思っていただけたら嬉しいです。