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人化ドラゴンのドラゴン退治

作者: 滝川 海老郎



人化ドラゴンのドラゴン退治


 俺はリュウ。何を隠そう、いや実際隠してるんだけど、俺の正体はドラゴンだ。

 しかしドラゴン家業では肉しか食っていけないので、人化して出稼ぎに出ている。


 人化した竜を人族はドラゴニュートと呼んだりするけど、彼らは竜っぽい翼やしっぽなどがあり、一目見ればわかる。

 俺はもっと高位の竜族なので、完全な人化術を使えるのだ。


 こうして住処の山を離れて、少し離れた場所にある町で冒険者をしていた。

 冒険者業は、力に優れた俺に向いていて、また密かに使える魔術による探査や気配察知や、覇気で敵を寄せ付けないなど色々なことができるため、みるみるうちにランクが上がっていった。

 俺には固定パーティーがいない。いつも野良パーティーやソロで活動していて、顔なじみも多いが、それでもバラバラで活動していた。

 それでもランクは今はAランク。もうこれ以上はSランク、SSランク、そして殿堂入りのSSSランクしかなかった。

 そんなある日、顔なじみの連中に声をかけられた。


「なあリュウ、今度のクエスト、一緒にやろうぜ。とびきりのやつだぜ」

「とびきり?」

「ああ、ここじゃあ言えねえが、ものすげえ話だぜ」


 ちょっと口調は悪いやつだが、そのくせ人のいい仲間の一人、ウォードが言ってきた。


「参加するよな?」

「ああ、いいぜ」


 俺にかかれば大抵のことは、うまくいく。今さら負ける気なんてしない。


「じゃあ、今度奥で詳細を話そう。ほかの腕利きにも声かけてあるから」

「ああわかった」


 数日後、ギルドの奥の個室へ行くと、そこでの話し合いになった。

 参加者は顔なじみばかり、そして腕が立つやつばかり十名ほどだった。


「おお、リュウがいれば、怖いものなしだな」

「ああ、ちげえねぇ」


 みんなが挨拶がてら俺を持ち上げてくる。


「というわけで今回の話はある貴族の発案だ。――」


 貴族の案はこうだ。

 ここから少し離れた場所にある山、ドスラル山脈の頂上に行き、そこにあると思われる秘宝の山を回収してくる。

 そこは十年ぐらい前まで、ドラゴンの巣であった。

 しかしそのドラゴンは姿を消し、最近は誰も目撃していない。

 くたばったか、他の地へ引っ越したのではないかと言われている。

 どちらにせよ安全だ。

 ドラゴンと言っても、竜だ。宝石を集めることはするが、全部を持って引っ越すとは限らない。

 何か、ダイヤやルビー、金塊など、巣に残っているのではと思われる。

 それを取りに行こう。


 万が一、ドラゴンがまだいる可能性を考え、最強の戦士たちに集まってもらった。


「あぁああ……」


 俺はため息しか出ない。

 そこ、俺ん家。そこ俺の巣だから。


「あの、ドラゴンはちょっと。今から抜けるってことは?」


 俺は信用が落ちることを承知で一応、発言を試みる。


「そりゃあねえぜ。秘密を知って抜け駆けするかもしれねえ。抜けるのはナシだ」

「そうだそうだ。リュウに抜けられたら、こっちの命がやばいぜ」

「リュウ頼むぜ、一緒に行こうぜ」


 どうやら今から抜けるのも何も無駄なようだ。

 集合は明日の朝から移動になるらしい。


「私がリュウを一晩中、相手するから、大丈夫よ」


 よく一緒にパーティーを組む、若い治療師のレティが俺のところに来て腕をがしっと掴んできた。

 その大きな胸が存在を主張していた。


「ああ、しょうがない、よなあ、はぁ」

「夜は私が相手をしながら、監視もしてあげる、ちゅっ」


 俺はもう逃げられない。

 俺は冷や汗をかきながら、解散してレティと夜を過ごした。

 寝ている間に抜け出せそうだが、こいつは気配に敏感で、夜抜け出すのは俺でも無理だった。


 翌朝、普通に集まり出発した。


「どうしようかなぁ」


 俺は嘆息する。

 今はウォードとレティに挟まれて馬車に揺られている。


「お宝ザクザクだといいよな、な、リュウ」

「ああそうだな」

「私、お姫様みたいなティアラがほしいわ。リュウ、見つけたダイアで作ってくれるわよね?」

「ああそうだな」

「もう、何よ。何にも話聞いてないじゃない。どうしたのよ」

「いやべつに」

「変なリュウ」


 しょうがないよなぁ。どうしようかな。

 確かに過去に集めた財宝も、巣の奥のほうにはある。

 だが中には呪い装備などもあって、素人が手を出すのは危険極まりない。


 特に、所有者を呪い殺すという「呪いのアメジスト」がやばい。

 あれらは危険だから俺が集めて保管しているものだ。


 無情にも馬車の旅は順調に進み、徒歩での山登りが始まった。


「歩きは面倒だが、冒険者はなれっこだもんな」

「ああ」

「そうね。私も最初はひ弱な女の子だったのに今じゃ余裕だわ」

「ムキムキマッチョ娘か」

「なによ、そんなことだけ反応して、嫌みなリュウ」

「ああそうだな」

「まったくずっと上の空で、何なの本当」


 数日かかったが、夜もレティがずっとそばにいて、半ば俺の独断専行がないか監視してくる。

 俺のことが好きなだけかもしれないが、困ったな。

 いやぁ持てる男はつらいなぁ。


 そうこうしているうちに頂上に到着した。


「俺、ちょっと先トイレ」

「っち、はやくしてこいよ」

「へいへい」


 適当に断って、ささっと繁みから影のほうへ向かう。

 もうこうなりゃ、しょうがない。

 みんなには悪いがあきらめてもらおう。



 俺はドラゴンに変身した。



「ガオオオオ」


「うわああああ」

「でたああああ」

「に、逃げるか? やる? おい、リュウは」

「リュウのやつ、しょんべんって、まさか気配察知で逃げたのか、あいつ」

「どうする、どうする」

「こっちは腕利き十人、いや九人。勝負するか?」

「いいえ、ここは引きましょう。逃げるほうがいいわ」


 最後に判断したのはレティだった。

 若手だが、彼女は頭がいい。

 屈強な男たちは腕っぷしはいいが、状況判断のような頭脳プレイを苦手としていた。


 俺は暴れまわるように見せかけて、ちょっと手を大げさに開いたりして威嚇をする。

 誰かをヤっちまわないように気をつけねば。


「て、撤退! ちょっと下がろう。巣なら離れれば大丈夫だろう」

「ああ、逃げるぜ」

「リュウがいないわ。どこいったのよもう、私を置いてくなんて」



 俺は竜のまましばらく様子を見る。

 しかし彼らは、山を下りていく気配を見せず、周りを様子見しているようだ。


 俺は気がついた。


 そう、しょんべんしに行った俺が戻らないので、探しているんだ。

 どうしよう。


 俺は巣の中の整理を始めた。

 危険なものはすべて、地面を掘り、そこに箱に詰めて埋めることにした。

 結構大変だ。

 そして、大丈夫そうなお宝を、巣の分かりやすいけど奥まった場所にまとめて置いた。

 そう、これらを手放すのは、この際しょうがない。

 これは必要な犠牲なんだ。


 こうして俺は巣から出て、また人化した。

 俺を探しているみんなの元へ、急いで向かった。


「あああ、よかった。リュウ生きてたのね」

「ああ、悪い。ちょっと足滑らせてな。下から上がってくるのに手間取った」

「うそっ、それは大変だったわね。大丈夫?」

「なんとかな」

「みんな、リュウが生きてたわ。戻ってきたのよ。再アタックしましょう」

「おいおい、また竜が出てくるかもしれないぞ」

「大丈夫よ、ちょっと前に巣から出てきたところを見て以来、消えてしまったわ」

「ああ……」


 そりゃあ消えるだろう。だってそれ俺だもの。


 こうして俺たちは巣に再び向かった。

 気配は何もしない。そりゃそうだ。


「静かなもんだ」

「まさかまだいるとは思わなかったが、今のうちだ。ささっと探してお宝ゲットしようぜ」

「ああそうだな……」


 俺は先頭を歩いて、奥まで向かう。

 そこには、金銀財宝。宝石ザクザク。


「おい、こりゃすげえ」


 俺は大げさにならないように、驚いてみる。


「リュウどうした。おおお、こりゃお宝だぁ」

「おおお、財宝じゃねえか」

「やったわ。私たち。これで結婚、ねえ、リュウ。この財宝で私たち結婚しましょう」


 そういってレティがひっついてくる。

 なるほど俺たちが結婚ね。そりゃすごい。って俺たち? 俺が? 無理だよなぁ。

 いや完璧な人化だから可能ではあるんだが、これから巣どうしようか。

 まいったな。

 俺ん家に強盗に入って俺がその報酬で結婚式とはたまげたわ。


 でも十年前、無名だった俺が宝石抱えてそれを売るのは目立ち過ぎて無理だったことを思えば、むしろラッキーだったと思う。思うしかないなぁ。

 俺が俺を退治して、お宝がっぽがっぽとは、さすがに考えつかなかったわ。


「やったな、すげーぜ」

「ははは、お宝だぁ」

「さあ、早く持っていきましょ。まだ気配はしないけど帰ってくるわよ、そのうち」


 俺たちは俺が置いた目についた宝石を袋にしまうと、巣を後にして帰還したのだった。

 すぐに帰りたいな、俺の家。俺の巣。

 また戦果を見て泥棒が集まってくるかもしれない。

 呪いのアイテムを発掘されないことだけを願うしかない。


 ああ、これからどうしようか、俺。

 人間なら一生遊んで暮らせる金があっても、前途多難だ。


(了)


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