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93.暗黒魔法


「な、なんだ? 何が起こったんだ?」


 突然地に倒れ込む黒の巨竜。

 俺たちは未だ何が起きたのか理解できずにいた。


「あいつがやったみたいだな……」


「らしいな。でもなぜ……」


「さぁな」


「でも俺たちからしたら有り難い話だぜ。一個仕事が無くなったんだからよ」


 確かにユーグの言う通り、俺たちからすれば嬉しいことをしてくれた。

 

 でも……


 嫌な感じがする。

 良からぬことを考えていることはまず間違いない。


「なぜ、そんなことをするんだって顔だな」


 魔人バルガはニタッと笑うと、こっちに寄ってくる。

 

 何というか裏が見えないヤツだ。

 何を考えているのかさっぱり分からない。


 それに何故だろう。急にさっきよりも雰囲気というか空気が変わった。

 さっきまで感じ取っていた奴の魔力も桁違いに増えている。


「何を考えている? そのドラゴンはお前たちが人界を侵略する上で重要な存在じゃないのか?」


 俺はバルガに理由を問う。

 だがバルガは「何を馬鹿なことを」と言わんばかりにフッと微笑する。


「これが重要な存在だって? 笑わせるな。これはあくまで貴様たちを誘き出すためのエサに過ぎない」


「エサだと? どういう意味だ」


「さぁな。知りたければさっきの逃げた奴に聞いてみな」


「逃げたヤツ? さっきまでいた魔人のことか?」


「ああ、そうさ」


 バルガはそれ以上語ることはなかった。

 だがバルガのとった行動に大きな意味があるとすれば……


(何かを狙っている……?)


「ま、一つだけ教えてやるとすれば、俺様がさっき取った行動は誰の命令でもないってことだ」


「誰の命令でもない……だと?」


 ということはさっきまでの一連の行動はこいつの独断専行だというのか?

 

 さらに意図が分からなくなってくる。

 でももし本当にそうなのだとしたら、こいつの真なる目的は一体……。


「お前は何がしたいんだ? 誰の命令でもなければ本当の目的は……」


「ふっ、そうだな。それくらい教えてやってもいいか。いいだろう……教えてやる」


 バルガはここで一つ間をあけると、


「俺様が今ここにいる目的、それは――」


 バルガはそう言いながら、指先を天高くあげ――


「……貴様だ。シオン・ハルバード」


 ビシッと指先を俺の方へ向けてくる。

 

「お、俺……だと?」


「ああ。俺は貴様に興味を持った。初めて会したあの時からな。そしてずっと戦ってみたいと思っていた。それに貴様を倒せば、あの方に俺の実力を示すことができる」


(あの方……? 魔王のことか?)

 

 理由は分からないが、俺と戦う以外にも何かある様子だった。


「それが……お前の目的なのか?」


「最初は違った。だが、あの野郎のやり方が気に食わなかったもんでね。俺様は俺なりのやり方でケリをつけようと思ったのだ」


 あの野郎……多分、さっきのベルモットと名乗っていた魔人のことだろう。

 

 話の筋から考えてみると、さっきの魔人とこのバルガという魔人は馬が合わないっぽい。

 あのベルモットとかいう魔人もまた別の目的で動いてそうだったし、何かあったのだろう。


「俺様は貴様と戦うためにここにいる。さっきの白竜との一戦は中々のものだった。久々に戦いを楽しめそうで嬉しい限りだ」


「自分はあえて手を出さずにドラゴンを俺たちへ仕向けたのは実力を図るためだったのか……?」


「端的に言えばそういうことだ」


 そして用済みになった片方の竜は始末し、後は自分自らの力で俺たちを片付ける。

 この魔人の頭の中は端から俺と戦うことしかなかったのか……。


「それで、お前は今からどうするつもりだ? 俺たち四人を相手に戦うつもりか?」


「戦うのは貴様一人だけだ。そこにいるザコ三人は戦うまでもない」


「な、なにっ!?」


「どういう意味? わたしたちがお前に叶わないとでもいいたいの?」

 

 リィナとユーグはすごい剣幕でバルガを睨みつけ、怒りを言葉にする。

 リーフは言葉を発しなかったものの、拳を震わせ、プルプルと震えていた。


 バルガはそんな三人の様子を見ると「ふっ」とあざ笑った。


「そうさ、その通り。貴様らの実力では俺に勝つことはできない。数多もの実戦を経験してきた俺には戦わなくても分かる」


「「「「「……!!」」」」」


 三人をさらに刺激するバルガ。

 その余裕ある笑みは決してホラを吹いているわけではない。


 むしろ妙な説得力があった。


「納得がいかないって感じだな」


「当たり前だ! 口を開けば舐めたことばっかりいいやがって……」


「同感。なら今すぐにでもわたしたちを実力を思い知らせてやるまで」


 リィナとユーグは感情に身を任せ、聖威剣を抜く。

 グッと構え、魔力を解放させ戦闘態勢に入った。


「ほう……やる気か?」


「もちろんだ。これであとお前の首さえ取れば万事解決だからな」


「わたしたちをバカにしたこと、後悔させてあげる」


「や、やめろ二人とも! 挑発に乗るな! 奴の思う壺だぞ!」


 突っ走っていこうとする二人をすぐに止めるも、


「止めるな、シオン。ここまで言われて引き下がるわけにはいかねぇ……」


「ユーグさんの言う通り。ここで下がったら勇者失格……」


 感情を奴の挑発に持っていかれた二人には無意味だった。

 だがそれに反してリーフは一ミリたりとも動かなかった。


 いや、動かないではなく動けないというべきか。


 さっきからバルガを見ながらずっと震えている。


(リーフ……お前……)


 そんな中で闘志をむき出しにするリィナとユーグは解放の呪文まで唱えると……


「……行くぞ! 俺の力をその目に焼き付けさせてやる!」


「……覚悟!」


「お、おい……!」


 俺の声はもう二人の耳には届いていなかった。

 二人は自らの聖威剣を握りしめると――同時にバルガへと襲い掛かった。


「ふっ……愚かな。勇者のくせに相手の力量も図れないとは……」


 バルガは一つため息をつくと、襲い掛かる二人に向け、手を翳すと……


「詠唱、≪ドレイン・ゾーン≫」


 呪文を詠唱。

 その瞬間、二人の真上に巨大な魔法陣が現れると……急に二人の動きが止まった。


「な、なんだ……これは!」


「か、身体が……」


 手に持っていた聖威剣は地に落ち、二人の身体は完全に動かなくなる。

 まるで強い重力に押し潰されているかのように。


「重力を操る魔法なのか……?」


「違う。これは重力を操っているわけではない」


「なに?」


 疑問符を浮かべる俺にバルガは滑稽な姿を見せる二人を軽い笑みで眺めながら、


「これは相手の精気を奪う暗黒魔法、≪ドレイン・ゾーン≫だ」

 

 ……と、そう一言言った。

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