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09.秘めたる想い


「おーい、シオーン! 少しこっちを手伝ってくれぃ!」


「あ、はい! 今行きます!」


 王都の外れにある小さな工房内。

 休日開けの俺はいつも以上に仕事に精を入れていた。


「休み明けから悪いが、今日は忙しくなるぞ」


「そんなに発注が凄いんですか?」


「ああ。特に勇者軍からの発注が凄まじいほど来ていてな。お前さん、あの嬢ちゃんと一緒に勇者軍の本部に行くって言っていたが一体何してきたんだ?」


「あ、いや。それがですね……」


 俺は親分に勇者軍での出来事の一端を話した。

 すると親分は目を丸くして、


「な、なにっ!? 勇者軍と顧客契約を結んだ!?」


 盛大な声が工房内に響き渡る。

 他の弟子たちもその声に反応して一同に視線を向けてきた。


「お、親分! 声が大きいですって! 一応まだ仮の段階なんですから」


「わ、悪い……で、その話詳しく聞かせてくれ」


「はい。実は団長が自分の元上官だった人で色々と頼みごとをされたんです。それで……」


「その対価として契約を結んできたと」


「そんな感じです。でもさっきも言った通り、まだ仮契約なので正式な顧客にはなっていませんけど」


「いやいやそれだけでも大手柄だぞ、シオン! 流石は俺が見込んだ男、やってくれるぜ!」


 両肩をバシバシ叩かれながら、激励を受ける。

 こんなに親分が喜ぶのも顧客の減少という問題があったからだった。


 最近では大手の商標を掲げた武器屋や大規模武具店の展開が急速化したことで俺たちのような小さな武器屋は埋もれつつあるという状況下に立たされていたのである。

 

 経営不振が続く小さな武器屋はどんどん淘汰され、安く品ぞろえの良い武器屋のみが生き残る。

 

 もちろん、そんなことができるのは資金が潤沢な大手武具店のみ。


 俺たちの武器屋は経営こそギリギリというわけではないが、余裕があるわけでもなかった。


 そこで前々から親分には新しい顧客を開拓してほしいと頼まれて、今回のリベルカの頼みの聞く代わりに仮契約を結んできたというわけ。

 

 本契約をその場で結んでもらっても良かったが、唐突にそれはマズいかなと思って止めた。


 でも親分の口元は緩みっぱなし。

 大きな顧客を得たことで相当気が高ぶっているようだった。


「よっしゃ! それを聞いて何だか力が溢れてきたぜ! 何としてでも本契約を結んでもらうためにやれることは何でもしないとだな!」


「何かあったら言ってください。俺が直接団長にお話しておきますんで」


「おう! ありがとうな、シオン!」


「いえ、弟子として当然のことをしたまでですよ」


 それに、親分にはどん底だった俺を救ってくれたという恩がある。

 だからこうして少しずつ返していかないと。


「では、俺は仕事に――」


「あ、ちょっと待ってくれシオン。お前さんに頼みたいことがあったのだ」


 振り向こうとした途端、親分に止められる。

 親分は「少しここで待っていてくれ」というと奥の部屋へ。


 そして数分経った後、親分は大きな袋を四つほど抱えて戻ってきた。


「よいしょっと。あ~重いなこりゃ」


「親分、これは?」


「発注されていた防具一式だ。勇者軍に頼まれていたやつのな」


「勇者軍? ということはもしかして頼みって……」


「おう。これを勇者軍の本部まで届けてほしいんだ。本当は荷馬車を手配する予定だったんだが忘れちゃっててな。ガハハハッ!」


 いや、ガハハハッ! じゃない!


 防具一式(しかも四袋も)を手で持っていけって修行僧かよ。

 前もやったことあるがめちゃくちゃ重いんだぞこれ。

 

「ほ、本当にこれを一人で?」


「すまんな。生憎俺は工房を空けられないんだ。他の弟子たちにこれやらせたら苦行だって文句言われる可能性あるし」


 いやいや、俺ならいいんですかい!?


「ま、まぁ……確かに重いですしね。この前頼まれた時は死ぬかと思いました」


「……ああ。そういうわけで経験のあるお前さんしか頼れる奴がいないんだ。頼む! ジジイの無粋な頼みを聞いてはくれないか?」


 目を潤し、上目使いで頼んでくる。

 

(止めてくれ親分。それは絵面的にきつい……)


 そう思いながら俺は「分かりました」と言って渋々仕事を受けることに。

 ぶっちゃけ本当は嫌だったけど。


 そんなわけで俺は防具を勇者軍本部へと届けるべく、外へと繰り出すこととなった。


 ♦


 一方その頃、勇者軍本部では――


「はい、もっと声出して! そこっ! サボらない!」


 リーフレットが声を張りあげて下っ端の勇者たちを指導していた。


 実は彼女はこう見えても勇者軍幹部の一角に名を馳せる実力者。

 団長のリベルカとは仲が良く、リベルカもまた彼女の実力を認めていた。


「よーし! じゃあ今日はここまで! みんなお疲れさまぁ~」


 ――やっと終わったぁ……。

 ――リーフレット教官、マジ厳しいよなぁ。

 ――でも可愛いしおっぱいデカいから許す!


 リーフレットの訓練は厳しいと定評があった。

 彼女の訓練を受け終わった時には兵たちはまるでドミノ倒しのように次々と地に伏すことになる。


 リベルカに頼まれたということもあるが、純粋に組織を強くしたいという想いがリーフレットにはあった。


「はぁ……今日も疲れた」


『お疲れさま、リーフレット』


「ありがとう、ヴァイオレット。これからケアしてあげるからね~」


 リーフレットは鞘から聖威剣(ヴァイオレット)を抜くと砥石で刃を研ぎ始める。

 

「それにしてもまさかしーちゃんとあんな形で再会することになるなんてね。鍛冶職人をしていたなんて予想もしていなかったよ」


『リーフレットはいつもシオン様のことを考えていたもんね。勇者になったあの時だって――』


「だ、ダメッ!! それ以上言わないで! 恥ずかしいからっ!」


 顔を真っ赤にして俯くリーフレット。

 しかし彼女の想いは本物だった。


『もういっそ伝えてみればいいんじゃない? 貴方が勇者になった理由とずっと留めてきた想いを』


「そ、そんなの無理だよ……。ただでさえ面と向かって話すだけでも表情に変化がでないように我慢しているのにぃ!」


『うふふ。確かにシオン様と会っているリーフレットはいつもと違う感じよね。私は結構可愛いと思うのだけど』


「か、揶揄わないでよヴァイオレット!」


 でも彼女(リーフレット)に長年ため込んできた想いがあるのは本当の話。

 

 そして勇者になった理由もまた、一人の男の子の強さに惹かれたからだったということも。

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