88.黒幕
黒と白の巨竜。
その大きさは通常種とは比較にならないほどだった。
「これ、本当にドラゴンなのか?」
「こんなドラゴン、見たことない……」
「か、格が違う……」
驚きの声をあげる三人。
俺もこのくらいの規模のドラゴンを見るのは初めてだった。
大きさもそうだが、何より圧倒的だと思う存在を示していたのが、ドラゴンたちの身体全体から溢れ出ている邪のオーラ。
どす黒く、漆黒の霊気が二頭のドラゴンたちから溢れまくっていた。
それも肉眼で目視できるほどに。
「シオン、これは予想以上にヤバくないか?」
さすがのユーグもこれを見て、お茶らける余裕はないみたい。
真っ先に俺の元へと駆け寄ってきた。
「ああ、間違いなくこんなもんを世に放てば世界は一瞬で消し炭だ。何としてでも食い止めないと」
「食い止めるって……俺たちだけでできるのか?」
「やるしかないだろ? そのためにこんな薄暗くてジメジメした場所まで来たんだから」
勝機はないわけじゃない。
確かにこの二頭のドラゴンはそこらのドラゴンよりは破格だ。
だが今、考えるべきは二頭のドラゴンたちではない。
俺が一番警戒すべきだと思っているのは――
「……ご苦労様でした。グール」
その時、謎の声と共に二つの人影が姿を見せる。
その姿は俺が一番に警戒していたものだった。
(ようやく現れたか……)
……魔人め。
「お、おいあれって……魔人じゃないのか?」
「間違いない。恐らくあの二人の魔人が今回の黒幕だろう」
「その通り。今回の計画は我々二人が起こしたものです」
ジリジリと寄って来る魔人たち。
近づいてくるごとにその姿は少しずつ鮮明になっていく。
(にしてもこの感覚……どこかで感じたことが)
「ま、まずは自己紹介から始めましょう。私はベルモット。隣にいるのはバルガといいます。どうぞよろしくお願い申し上げます」
かなり特徴的な白スーツに赤いネクタイを締めた魔人は礼儀正しく挨拶をしてくる。
対して隣にいる甲冑を着た魔人は無言で俺たちを睨み付けていた。
「いきなりの招待を受けてくださり、ありがとうございます。歓迎いたしますよ」
「歓迎だと! 強引にここへ連れてきて何を言う!」
ユーグが声を荒くさせると、ベルモットと名乗る魔人は「ふふふ」と不気味に笑った。
「まぁそう怒らないでください。どちらにせよ、貴方たちはここへお越しになるおつもりだったのでしょう? そこにいるドラゴンたちを討伐するために」
「ほう、話が早くて助かる。じゃあ、もう次に俺たちがどんな行動を取るかも分かるよな?」
ユーグはそっと聖威剣を抜き、グッと構える。
だが俺はそんなユーグをすぐに止めた。
「剣を引けユーグ。感情だけで突っ走るのは危険だ」
「で、でも……!」
「まだ俺たちには奴らから聞くことが山ほどある。今は抑えるんだ」
「くっ……!」
俺の説得によってユーグは剣を鞘へと納める。
と、ベルモットの視線は俺の方へとシフトされた。
「貴方が、我々の同士を倒した少年か。なるほど……確かに凄まじい覇気を感じる。彼が殺められても不思議ではありませんね」
「彼……? まさか!」
『シオン、こいつはあのゴルドとの戦闘の時に近くにいたヤツらだ。間違いない、同じ気配だった』
やはりそうか。
ゴルドとの戦闘の際に微かに感じた妙な気配。
最初は生き残りの魔物か何かかと思っていたが、こいつらだったのか。
「見ていたんだな? 俺たちの戦闘を」
「もちろん。実に素晴らしかったですよ。ゴルドは我々六魔の中では特に武術や剣術に長けていましてね。総合的な能力ならば六魔の中では一番だった男です。だが貴方は彼を倒した。中々の腕です」
「……それは、どうも」
顔は笑いながらそう話しているが、目は決して笑ってはいなかった。
同士を殺されたことに対する怒りがあるのか、はたまた他の感情があるのか。
だが一つだけ言えるのは、こいつはゴルドとは違う何かを感じるということ。
こうして普通に顔をあわせているだけなのに不思議な存在感を感じる。
まるで誰かに背中を押されているかのような重圧感。
隣にいる魔人もとてつもない覇気を持っているが、こいつは別格だった。
(こいつは、只者じゃないな)
今、確実に言えるのはこれだけ。
恐らくゴルドよりも……数段上の存在だ。
「……お前たちの目的は一体なんだ? 人界の侵略か?」
だがここまで来た以上、後戻りは許されない。
俺はベルモットとかいう魔人に計画の魂胆を聞くと、
「それも計画の内ですよ。いずれ、我々は貴方がたの故郷へと侵攻し、侵略する予定です」
ベルモットは続ける。
「ですが、それはあくまで一つの大きなテーマに過ぎません。今回の計画はそのテーマに沿った過程に過ぎないのです」
「……過程だと?」
ベルモットはニヤリと口元を歪める。
そして再び口を開くと、ベルモットはこう言った。
「まぁこの出会いも何か縁でしょう。なのでお教えします。我々がなぜ、こんな辺鄙な場所でこんなことをしているのか。その理由の……一端をね」




