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85.向かう刺客


「おい、べルモット。本当に奴らは此処に来るのか?」


「はい。恐らく……いや、確実に来るでしょう」


 深層区画の最深部にて。

 二人の魔人は白と黒の巨体を目の前にし、再び会話をしていた。


「どうしてそう言い切れる? お前には奴らの行動が分かるってのか?」


「ええ、まぁなんとなく。でも普通に考えてみればそうでしょう?」


「どういうことだ?」


 疑問を呈するバルガにベルモットは答える。


「彼らにとってここにいるドラゴンたちは脅威に映ることでしょう。いや、彼らではなく厳密には()()()()()……と言った方が適切でしょうか」


「何が言いたい?」


「要はこれを世に解き放ってしまうのは彼らにとってマズイということです。もう向こうも粗方情報は掴んでいるでしょうし、このドラゴンたちが外の世界に出ればどうなるかも知っているはずです」


「だからそれを止めに奴らはここへ来ると?」


「私はそう踏んでいます」


 ベルモットは冷静な顔つきでドラゴンたちを見つめる。

 するとその横顔を見ていたバルガが、


「それにしちゃあ随分と冷静だな。もう完全化は済んでいるのになぜ始めない?」


「そう慌てる必要がないからですよ。いくら勇者たちとはいえ、彼らがドラゴン(これ)を止めることは容易ではありません。それに、少し実験してみたいことがあるのです」


「実験だと? どういうことだ?」


 ベルモットはそれを聞くと不気味な笑みを浮かべた。


「貴方には言っていませんでしたが、実は今回の計画、人界侵攻のための布石をつくるという名目の他にガルーシャ様から極秘裏にあることを頼まれていたのです。直々にね」


「な、何だと? それは一体――」


「バルガ様、ベルモット様。ご報告いたします」


 バルガはベルモットに問おうとした時、暗闇から突如として現れる者が一人。


 二人の背後に姿を見せる。

 ベルモット直属の配下、グールだ。


「グールですか? どうかしましたか?」


「はい。例の勇者の一派が深層区画に侵入してきました。現在、中階層を移動中とのことで」


「勇者だと!? ってことは……」


「予想通り、来ましたか。グール!」


「はっ」


「彼らをここへお招きしてください。抵抗するようなら戦闘を許可しますが、傷つけてはなりません。いいですね?」


「かしこまりました。では、しばしお待ちを」


 そういうとグールはまた影を纏い消え去っていく。

 

「おい、どういうことだベルモット! 奴らは計画の障害だぞ? 排除すべきではないのか? それに今回の一件は……」


「分かっていますよ。大まかなことはバルガに任せます。ですが、まだその時ではないのです」


「だからどういう意味だ!」


「ふふふ、まぁ直に分かりますよ。一つだけ言えるのはこれも計画の内、つまりは……想定内だということくらいですかね」


「は、はぁ……?」


 わけわからんと言わんばかりに首を傾げるバルガ。

 だがベルモットには何かを確信しているかのような妙な余裕があった。


「さて、バルガ。これから忙しくなりますよ。準備はしっかりとしておいてください」


「お、おいっ! まだ話は――!」


 バルガは引き留めようとするが、ベルモットは止まらず暗闇の中へと消えていく。

 

「ちっ、なんだってんだ!」


 バルガは舌打ちをすると、語調を荒くさせる。

 

「やっぱりあの野郎は好かねぇ! あいつがどう考えてようが、知るか! 俺様は俺様のやり方でやらせてもらうからな」


 今まで鬱憤を晴らすかのようにそう言い放つバルガ。

 

「見てろよ。今回の計画でガルーシャ様の祝福を受けるのはこの俺様だ。そして俺様こそが統べるもの(ドミネーター)に相応しいんだということを証明してやる!」


 バルガは意気込みを声に出すと、来る戦いに備えるべく、その場を去るのだった。

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