84.ゴブリンの群れ
「ゴブリンの群れがそこにいるだって?」
「……ああ。数で約30~40はいた。みんな武装している」
「回避する方法はあるの?」
「いや、ちょうど進行方向を塞ぐようにしているから無理だろうな」
「戦闘は避けられないってことか……」
でも全部が全部上手くいくと考えること自体が甘い。
先へ進む以上、障害はあって当然なのだ。
逆に相手がゴブリンだったことを幸運に思った方がいいだろう。
これがオーグとかジャイアント族とかだったら面倒だった。
「だったら、早いところ片付けようぜ。相手がゴブリンなら俺たちの敵じゃねぇしな」
「でも油断はしない方がいい。ゴブリンが武装しているってことはそれなりに戦闘に精通している可能性があるってことだ。あまり――」
「油断はできないってこと?」
「そうだ」
俺が先を言おうとした時、リィナが話を付け加えてくれた。
別にゴブリンという魔物は一人一人は大したことはない。
脳が小さいため、人ほどの知識は取り込むことができないし、その身体の小柄さから戦闘能力も高い方ではない。
ただ、徒党を組んだゴブリンの場合は話は別だ。
彼らには特殊な部族意識というものがある。
人間でいう仲間意識に近いものだ。
だから連携もよく、ゴブリンだからって甘くみた冒険者が天に召される事例は少ないほうではない。
要するに群れで活動するゴブリンはスペック以上の能力を発揮してくる可能性が高いということ。
そして武装しているゴブリンは特にその部族意識が強い個体だと言われている。
どちらにせよ、気は抜けない。
それに……
「罠である可能性もあるしな」
「罠? どういうことだ?」
首を傾げるユーグと他二人に俺は説明をする。
「ゴブリンの武器をさっき見たが、どうも人が作ったものを持っているらしい。本来ならば木製の棍棒か槍が奴らにとって精一杯の武装のはずだが、みな揃いも揃って鉄製の剣や鈍器を持っていた」
「ま、マジかよ」
「確かにゴブリンはあまり武装しないイメージの方が強いから不自然だね……」
「なら、できる限り無駄な動きは省いて先へ進むことだけを考えた方がいいね」
「リィナの言う通りだ。だから役割を決めようと思う]
「役割? 具体的には?」
「攻撃役と見張り役だ。もし何かが起きた時、即座に対応できるようにしておきたい。全員で罠へハマりにいっては元も子もないからな」
「じゃあ、役はどういう風にするの?」
「俺とリーフが攻撃役を務める。ユーグとリィナは見張り役をしてくれ。いいか?」
「分かった」
「うん!」
「ちぇっ、攻撃役じゃないのかよ……まぁいいけどさ」
少し不満げにそう言うユーグ。
だがこれには理由がある。
この場合、攻撃役は即時討伐ができるスピードがある者が担う必要がある。
たらたら攻撃をしていては役割を分けた意味を成さないからだ。
そしてこの中でスピードがあるとなれば俺とリーフが適任者となる。
リィナはどちらかと言うと状況分析に長けている所があるから見張り役がベスト。
ユーグは……まぁ余り枠で見張り役に。
これはより効率よく、そして安全マージンを取った結果なのだ。
「じゃあ早速行動開始と行こう。頼んだぞ、みんな!」
「「「「「了解!」」」」」
作戦は決まった。
俺とリーフレットは先を行き、二人はその後方で待機ということに。
俺は聖威剣を抜き、少しだけ魔力を解放させる。
そして隣にいるリーフレットに声をかけた。
「……リーフ、準備はいいか?」
「いつでも大丈夫だよ」
「よし、行くぞ!」
俺はリーフレットにそういうと勢いよくゴブリンの群れへと飛び出していく。
リーフレットもそれを追って聖威剣を抜いた。
「――うぎっ!?」
「――うぎぎぎっ!?」
いきなりの奇襲でゴブリンたちは大混乱。
だが俺たちの素早い剣筋が彼らを切り裂き、攻撃する隙すらも与えない。
「はぁっ!」
「やぁぁっ!」
1秒経つごとにゴブリンたちの数は減っていく。
そして5秒ほど経った時にはもう、40体ほどいたゴブリンはみな、地に伏していた。
「よし、これで全部――ん?」
「しーちゃん、こっちはもうOKだよ! ん、しーちゃん?」
「……リーフ、先を急ぐぞ。みんなを呼んできてくれ」
「えっ……? どういうこと?」
俺はゴブリンの死体を眺めていた時に一つ気がついたことがあった。
そしてそれを見た途端、今自分たちが置かれている状況を知った。
「……どうやら、推測は正しかったみたいだ」
「推測? それって……」
「ああ、これは……」
歴とした罠だったみたいだ。




