08.組織改革
俺が追放された後、勇者軍ではとある騒動が勃発していた。
それは当時、勇者軍の団長であったゴルドとある反国家派閥の裏組織との間に繋がりがあったのではないかという疑惑である。
リベルカたちはとある極秘ルートからその情報を手にし、調査を進めていた。
情報を手に入れるために秘密裏にギルドによる協力も仰ぎ、ゴルドのやり方に不審を抱く勇者たちも取り込んで彼に気づかれないように少しずつ真相を洗い出していった。
そして数ヶ月という時が経った時だ。
リベルカたちはようやくその情報源の尻尾を掴み、驚くことにとんでもない情報が次から次へと溢れでてきた。
まず一つはゴルドが裏の組織で活動する反社会的組織と手を組み、国家もギルドも何も介さないで極秘の貿易をしていたということ。
これは情報通りだった。
だがゴルドの暗躍はこれだけではなかった。
なんと裏で魔族たちが構築する組織と極秘な提携を結んでいたのである。
知性ある魔族たちによる組織。
ゴルドはそんな魔族たちを相手に自分の地位と名声を守るために工作活動を行っていた。
金銭が発生するビジネスが行われたとされる証拠資料もあり、ゴルドは勇者としての表の顔と魔族たちと協力関係にあった裏の顔が一挙に暴かれた。
これは歴史上、前代未聞の出来事だとギルドや軍を管轄する国家機関の要人たちの間で大変な騒ぎとなった。
もちろん。ギルドや国は即時にゴルドとその幹部たちを拘束するべく行動を起こし、彼らは大罪人として逮捕され、事態は終結した。
このスキャンダルは当時の軍内部では一同驚愕の大ニュースになったが、世間に流れるのは立場上マズいとのことで国家とギルドによって情報ごと隠蔽されることになった。
リベルカによるとこの決議には賛否両論があったらしい。
で、その後勇者軍は全てを一新するために新生勇者軍として王都に拠点を移し、今に至るとのこと。
だがしかし、まだ全てが終わったわけではなかった。
問題はそこから先のことだった。
「組織の内部崩壊……ですか」
「はい。ゴルド元団長らが軍からいなくなってしまったことで、組織は新たな指導者が必要となりました。ですがその指導者が消えてしまったことで今までゴルド元団長に賛同していた若い勇者たちが次々と辞めていってしまったのです。その数は軍に属する2割の人たちでした」
「に、2割って……そんなにですか!?」
「あの方は中身はどうであれ、カリスマ性はあった御方でしたから。彼の力があって回っていたビジネスもあったほどですし」
「内部崩壊って人員の急激な減少ってわけですか……」
「主な要因はそうです。ですが問題は他にもあって……」
……と、リベルカは少し間をあけると問題を次々に挙げていった。
一つは資金繰りの問題。
ゴルドはさっきリベルカが言った通り、金になるビジネスを得意としていた。
資金源は大半が彼による資金調達とギルドからの融資。
そして軍を陰から支援してくれている一部の個人投資家による出資で不足分を補っていた。
だがゴルドがいなくなったことでビジネスが機能しなくなり、後継できるほどに専門性の高い人物もいなかったことから有力だった資金源を次々に失うことになった。
ギルドからの融資も限界があり、出資者を募ったりもしたらしいが、ギリギリの運営が続き、一時期は新たな勇者を受け入れることができないほどまでに追い込まれたこともあったという。
「今では前より良くはなったのですが、以前よりもその……」
「組織としての基盤が緩くなった、と」
「は、はい。その上質も前よりだいぶ落ちているみたいで……」
(質……ねぇ)
さっきリーフレットに下っ端の指導を命じていたけど、やはり前よりも悪くなっているのか。
俺がいた時はそんなこと問題にすらならなかった。
雰囲気も全体的に緩くなった感じもあるし。
「魔王を倒すための組織であるはずなのに、今のままではとてもじゃないですが……」
「無理……だと」
「はい……」
表情から察してリベルカは相当悩んでいるようだった。
それは組織の弱体化というよりも勇者としての強い志を持っているものが少ないことに嘆いていた。
今や勇者は昔と比べて一つの大きな職として大成している。
なので魔王を本気で倒そうと入団してくるような人よりも憧れや利潤と言った理由で勇者になる人の方が多いとのこと。
前者はまだ分かる。
だが後者に関しては一種の職として形成されてしまったがために顕著に出てきた問題と言えよう。
勇者は確かに稼げる職だ。
それに誰にでもなれるわけじゃないから肩書としても絶大な効果を生む。
しかし勇者本来の目的はお金を稼ぐことではなくて魔王という災厄を世から消し去ること。
説得しても意志がない(または弱い)から誰も本来の目的を分かってもらえない。
特に若い勇者にはそれが分かりやすい形で現れる。
リベルカはそう言った本来の目的と現勇者たちの意思が反していることに悩んでいた。
「このままでは組織としての在り方が変わってしまいます。ですが、運営や人員減少による問題もあるのでこれ以上無理な制約をかけるわけにもいかなくて……」
「低迷状態が加速する可能性もありますしね」
「なので私は組織を変えるために組織改革を大々的に行おうと思ったのです」
「組織改革?」
「はい。まだ明確には決めていませんが、組織を軌道に戻しつつ本来のあるべき姿に変えるための施策。軍内の現状を見て掟から全てを見直す。いわば組織の再統一化を図ろうという考えです」
「え、でもそれじゃあ失敗した時に……」
「大きなダメージを負うと思います。人が離れ、最悪の場合は組織として存続できなくなることも十二分にあり得ます。ですが今のままでいっても何も解決しないのも事実。私は一組織の長としての最低限の責務を果たしたいのです」
リベルカはここで一旦区切り、話を続ける。
「でも情けないことに私の力だけではこの革命を成し遂げることはできません。なので力ある御方に尽力してもらいたいと思っています」
「な、なるほど……」
リベルカの目に嘘はなかった。
この人も本気で魔王を倒そうとして勇者になった人。
というかゴルドがいた時の勇者軍はみんなそうだった。
俺はまだ組織の内情については把握できていないが、話を聞く限り相当酷い感じのご様子。
でもこの流れ、何か嫌な予感が……。
と、思っていた時だった。
突然、リベルカが立ち上がると俺に頭をグイッと下げて、
「あ、あの……シオン。お願いがあります」
「は、はい……?」
あ、この流れはまさか。
「貴方の境遇、追放されたという過去も含めて不躾なお願いであることは重々承知している上でお願いします。わたし……いえ、この第15代団長、リベルカ=フォン・フィールドの改革にお力添えいただけないでしょうか? もちろん、それ相応の報酬はお支払い致します。なのでどうか、お手伝いしていただけませんか!?」
「お、俺がですか……!?」
と、驚く感じで一応反応はしたが予想通りの展開である。
というか逆にやっぱりそう来ますよねって感じしかなかった。
もちろん、彼女には怪しまれないようにしっかりと演技したけど。
俺は考え、悩む。
そして悩んだ末に俺はふといいことを思いつく。
「……分かりました。その改革に協力しましょう。ですが、一つ自分からもお願いがあります」
「どうぞ、何なりとお申し付けください」
何なりと……か。
ならもうこれしかない。
(前々から親分に頼まれていたことだし……)
俺は対価としてある条件を提示すると、リベルカはそれを快く同意。
双方利害が一致したところで俺はリベルカの話を受けることにしたのだった。