77.作戦会議
『ここら辺でいいか?』
「ああ。わざわざ案内してくれてありがとうな、ルル」
「ルルちゃん、ありがとう!」
ベースキャンプ付近。
俺たちはルルの案内でここまで来ていた。
『二人とも、頑張ってくれよ。無事ドラゴンたちを討伐してこの森に平和をもたらしてほしい。この森は吾輩たちの故郷みたいなものなんだ。だから……頼む!』
「ああ、分かった。任せておけ」
「任せて!」
ルルは俺たちの言葉を聞くとニッコリして、背を向けた。
『じゃあ、吾輩はもう行く。達者でな』
「お前もな」
「またね、ルルちゃん!」
俺たちは去っていくルルに手を振った。
そしてルルが帰っていった直後。
ベースキャンプ方面から誰かの声が聞こえてきた。
「おーいシオンー、リーフレットちゃーん!」
走ってくる二人の影。
ユーグとリィナだ。
「二人とも、大丈夫だった?」
開口一番にリィナがそう言ってくる。
ユーグも同様に心配そうにこっちを見てきた。
「大丈夫って……何がだ?」
「いや、さっきとんでもない魔力反応を察知したからさ。もしかしたら何かあったんじゃないかって騒いでたところなんだ」
「ああ……それなら――」
俺は例の魔物騒動のことを端的に話すと、
「なるほど……例の侵食種ってのが現れたんだな? どうりですげぇ魔力だったわけだ」
うんうんと納得するようにユーグは頷く。
「でも、途中で逃げられちゃったんだけどね……」
「うーん……何か裏がありそう……」
リィナは口元に手を当て、考える素振りを見せる。
「俺もそう思う。その証拠に魔物たちが逃げた後に妙な気配を感じたんだ」
「妙な気配……?」
それを聞いて三人の注目は一気に俺へと集まる。
「うん。ちょっと言葉では説明しにくいんだけど……」
俺はあの時に感じ取った感覚をできるだけ言葉に起こして三人に説明した。
身体全体に染み渡ってくるような不思議な感覚、脳裏にピキーンと何かがぶつかったような感覚などを。
だが……
「う~ん、全く分からん!」
「ごめんね、しーちゃん。わたしも……」
「わたしも自分なりに考えてみたけど、分からなかった」
や、やっぱりそうですよねぇ……。
こればっかりはもう人に分かりやすく説明しようとしてもできない。
もう何というか、五感的問題だから。
「と、とにかく誰かに見られてたことは間違いない。それが誰かまでは分からなかったけど……」
「ってことは、とりあえず言えることはその侵食種が現れたのは偶然ではなくて作為的なものであると……そういうことだな?」
「そ、そうそう! そゆこと!」
ユーグが良い感じに纏めてくれたおかげでみんな理解することができた。
初めからそう言えば良かったんだな……。
「それで、結局あの光は何だったんだ?」
と、ユーグは話を謎の光のことへと切り替える。
「え、ああいや……」
途端に言葉が詰まりだし、リーフも説明しようかしまいかと難しい顔をしていた。
あの光の正体は妖精で、さっきまで精霊王と言われる精霊の長と話していましたなんて多分信用してくれないだろう。
別に誤魔化す必要はないことだとは思うが、説明すると長くなりそうだったので……
「そ、それよりも例のドラゴンについて有益な情報を得ることができたんだ。これから二人にもそれを話しておきたいなと思って」
と、とりあえず話の流れを変えることにした。
ユーグとリィナもその話題に食いついてくれた。
「有益な情報?」
「一体なんだそれは?」
問いてくる二人。
よしよし、何とか誤魔化せたか。
「とりあえず、場所を変えよう。外で立ち話をするのもあれだからさ」
「なら、俺たちが休憩で使っていたテントに案内するよ。あそこなら有意義に会議することができるだろうからさ」
「分かった。じゃあ、そこまで案内してくれ」
「りょーかい!」
と、いうわけで俺たち一行はベースキャンプへと戻ることになった。
♦
「なにっ? 明日中には例のドラゴンたちが動き出すだって?」
驚くユーグの声がテント内に響き渡る。
場所は変わってベースキャンプにある仮設テント内。
俺たちはそこでこれからの作戦会議について話し合っていた。
「あくまでまだ仮定に過ぎないが、可能性はかなり高いらしい」
「どこからそんな情報を? あ、騎士団の連中か?」
「い、いや……それはちょっと説明しにくいというか……」
「……ん?」
「でも、もしその話が本当なら明日の明朝には峡谷に行かないと……」
「うん。ドラゴンがここから飛び立ったらマズイことになる。その前に……」
「止めないといけない……そういうことだよね?」
「ああ……」
ルシアは峡谷から邪悪な波動が出ていると言っていた。
多分、今峡谷では何らかのアクションが起きていることはまず間違いない。
何か良からぬことが動きだしたというべきか。
俺も内心では少し嫌な予感がしていた。
「しかも、もう一つ情報がある」
「なんだ?」
ここで。
俺は精霊園で手に入れたもう一つの情報を開示する。
「実は今回の一件、やはり奴らが絡んでいるらしいんだ」
「奴ら? それって……」
「ああ……魔人だ」
この言葉にリィナとユーグは驚きの目を向けてきた。
「ま、魔人だって!? じゃあやっぱり今回の一件は……」
「魔王軍の仕業に間違いないってことだ」
「う、嘘だろ……また魔人かよ……」
力ない声を出すユーグ。
すると隣にいたリィナが口を開いた。
「じゃあ、わたしたちはこれからどうするの? 明日の明朝にここを出るの?」
「今のところはそのつもりだ。事が終わってからじゃ遅いからな。魔人の存在もある以上、見過ごすこともできないしな」
結果はどうであれ早めに行動に出た方がいいだろう。
運がよければ侵食前のドラゴンたちを討伐できるかもしれない。
それに、情報はもう十分すぎるほど得ることができた。
後はこの目で確かめるのみ。
「なら、もう準備しないと……だね」
「うん。あと、聖威剣のケアは念入りにやっておいてくれ。途中で一戦交える可能性もあるからな」
「「「「「了解!」」」」」
ということで大まかなに次の行動は決定した。
あとは――
「――お話中、失礼します。シオン殿はいらっしゃいますか?」
と、突然外から誰かの声が聞こえてくる。
どうやら俺に用があるみたいだ。
「俺ならここにいますよ。どうかしたんですか?」
「クゼル司令閣下殿がシオン殿をお呼びのようで……至急来ていただけないでしょうか?」
司令閣下が? 何の用だろうか。
「分かりました。すぐに伺います」
と、テント内から返事を。
「ごめん。ちょっと行ってくる」
「おう」
「分かった」
「分かったよ~」
俺は一度テントを抜けると、再び司令閣下と顔を会わせるべく、騎士団兵についていくことにした。




