76.別れ
「あっ、シオン様、リーフレット様!」
精霊園に戻ると入り口でルシアが出迎えてくれていた。
少しソワソワしている様子を見ると、心配していたということが伝わってくる。
「お二人ともご無事でなによりです。お怪我はありませんか?」
「大丈夫です。あれくらい朝飯前ですよ」
「わたしも大丈夫です!」
余裕な笑みを見せて大丈夫だという故を伝える。
実際そこまで手間取ってないので嘘はついていない。
「本当にありがとうございました。お二人には何とお礼を言ったらよいのか……」
何度も頭を下げて礼を言ってくる。
俺はすぐにルシアを宥めた。
「頭を上げてくださいルシアさん。別にそこまで苦労したわけでもないので……」
「いいえ、本来ならば私たちが守るべき場所を守っていただいたのです。お礼すべき理由としては十分すぎるほどです」
そんな大袈裟な……と思うが、実際ルシアにとってはそうなのだろう。
この場所が大切だって想いは何も言わずとも伝わって来る。
ま、何がともあれ守れて良かった。
「さぁお二人とも、どうぞこちらへ。これから宴の準備を――」
「あ、あの……ルシアさん。実はそろそろ……」
俺はルシアにベースキャンプに帰らないといけないということを伝える。
時間を確認してみると、あれからもう2時間以上も経過していた。
流石にこれ以上、キャンプを留守にするのはマズイ。
ユーグやリィナにも余計に心配かけてしまうしな。
「そ、そうですか……それは仕方ありませんね……」
少し残念そうにしゅんとするルシア。
でもすぐに顔を上げると、
「で、ではせめて……これを持って行ってください」
「……これは、なんですか?」
手渡されたのは手のひらで包み込める程度の小さな小瓶。
中には青く澄んだ謎の液体が入っていた。
「それは、”精霊のナミダ”というものです」
「精霊のナミダ?」
「はい。中に入っているその青い液はこの精霊園の象徴でもあるフォルグの大樹木から採取できる樹液に特殊な精霊魔法を施したものです。それを飲めばどんなキズであろうが、病であろうが即座に治すことができます」
「ま、マジですか……」
「人間界の言葉をお借りするなら……全治薬とでも言いましょうか」
「ぜ、全治薬……」
ってことはこれは人間界でいうポーションみたいなものか。
とはいってもルシアの話ではケガだけじゃなく、病気なども治すことができるらしく、さらには精神的疾患までも効果があるとのこと。
何でも治せる最強のポーションとでもいうべきか。
とにかくこんなのが市場に出回ったら即戦争沙汰になるのは避けられないというほどの代物だった。
「こ、こんなたいそうなもの……頂いてもいいですか?」
「もちろんです。逆にこれだけでは足りないと思っているくらいですから」
いやいや、十分ですお姉さん。
これから未知のドラゴンを討伐しに行くにあたって最強の保険を手に入れることができたのだから。
「それと、もう一つよろしいですか?」
「は、はい?」
ルシアはもう一つ言っておきたいことがあるようで、今度は真剣な声色で話を切り出してきた。
「実は先ほど予言精霊が妙な予兆を感じとりました」
「妙な予兆? ドラゴンに関係することですか?」
「そうです。恐らく明日中には、例の二頭のドラゴンは峡谷から動き出すことでしょう」
「明日? ってことは……」
「……ええ。恐らく、全ての準備が整ったのでしょう。実際、とんでもほどの邪悪な波動が峡谷から漏れ出ています」
ということは侵食は完了したってことか。
(だったらマズイな……)
予定より早かった。
ルーノ調査団の推定だと侵食し始めてからまだ3日ほど。
そして完全に侵食するまでは早くても明後日の予定だった。
でもルシアの話だと一日早まったということになる。
正直、こっちの方が信憑性がある。
今回の侵食種の大群出現はもしかしたらその予兆だったのかもしれないな。
「分かりました。心に留めておきます」
ぺこっと一礼。
「また、お会いできる時を楽しみにしています。ドラゴン討伐のご武運、陰ながら祈っております」
「ありがとうございます」
するとその会話の中にルルが介入してきた。
『シオン殿、リーフレット殿、案内はいるか? もしよければお前たちのベースキャンプとやらの近くまで案内するが……』
「いいのか?」
『もちろん! 別に大変なことでもないしな』
「じゃあ、頼もうかな」
『オッケ~!』
ルルはパタパタと羽を広げ、こっちに飛んでくる。
「では、俺たちはこの辺で……」
「お世話になりました」
「いえ、こちらこそ。ルル、お二人のご案内頼むわね」
『了解です! お任せください!』
ビシッと敬礼を決めるルル。
俺たちはもう一度頭を下げ、ルシアに手を振る。
そして俺たちはベースキャンプに戻るべく、精霊園を後にしたのだった。




