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75.帰途


「ふぅ……中々手強かったね! ね、しーちゃん」


「……」


「……しーちゃん?」


「ん、ああ……悪い。ぼーっとしてた」


 心配そうに覗き込んでくるリーフ。

 俺は大丈夫と小声で返答する。


 俺たちは魔物討伐を完了させ、精霊園に戻っていた。

 いや、厳密に言えば逃げられたというべきか。


「でもまさか、向こうから身を引くなんて……何か裏があるようにしか思えないよ」


「そうだな……」


 あの後、魔物たちは何を思ったか、俺たちに背を向けると逃げるように去っていった。


 ちょうど俺が何者かの気配を感じた時だ。

 その直後に魔物たちは森の奥深くに消えていった。


(あの感覚は一体何だったんだ……?)


 魔物たちの撤退にも驚いたが、それよりも気になっていたのはあの時に感じた謎の感覚。

 ほんの数秒間だったが、確かに感じ取った。


(誰かに見られていたのは間違いないんだが……)


「さっきから難しい顔してるけど、何かあったの?」


「そ、そうか?」


「うん。顔がなんかこう……ぎゅーって縮こまってる感じ」


「なんだその表現は……」


 そんな会話をしている時だった。


『リーフレット殿、シオン殿ーー!』


 前方から猛スピードで近寄って来る一筋の光。

 遅れて声が聞こえて来たってことは……恐らくルルだ。


『魔物たちはどうなったのだ!?』


「ああ……それに関してはもう大丈夫だ。向こうから退いていった」


『そ、そうか……良かったぁ……』


 ホッと安堵の溜息をつくルル。

 結界強化に出ていた他の妖精たちも現場から切り上げたようだ。


『あっ、そうそう。そういえばルシア様が二人を呼んでいた。さっきのガゼボまで来てほしいって』


「分かった。すぐに行こう」


 まだあの時の余韻が脳内に残っている。

 

 でも……


(あんまり深く考えるのも良くないか)


 ひとまずこのことは自分の中に閉まっておくことにしよう。

 もちろん、引き続き警戒は怠らずにね。


 こうして。

 俺たちは再び、精霊園へと戻ることになった。

 


 ♦




「……あれが、シオン・ハルバードってか」


 一人の魔人は去っていくシオンを見てそう呟く。

 

「途端に消えたかと思えば、こんな所にいたんですか」


「……ベルモット」


 その背後に現れるは白スーツに身を包んだ魔人ベルモット。

 ベルモットは辺りに散乱する魔物たちの死体に目を向けた。


「彼を試していたのですか?」


「いや、別にそんなわけじゃねぇ。暇だったから少しばかり遊んでやろうと思っていただけだ」


「それにしては貴重な侵食種をこんなにも使うなんて……豪勢な遊びですね」


「ふんっ……」


 魔人バルガはベルモットと違ってシオンの実力をよく知らない。

 ゴルドの戦闘の際も最後だけしか見ていないため、どんな奴なのか気になっていたのだ。


「それで、何か収穫はありましたか?」


「……まぁな」


 バルガはボソッと呟く。

 

「ほう、どんなことです?」


「俺の潜伏スキルが通用しなかった……」


「ん? それって……」


「向こうは俺の存在に気付いてたってことだ。しかも、奴は五感だけで俺を探りやがった」


「……」


 ベルモットはそれを耳にするなり顔を険しくさせる。

 バルガはこんな横暴な性格とは裏腹に魔王軍では諜報や暗殺と言った役割を任されることもある。

 

 特に潜伏能力は絶対不可視と呼ばれ、魔王であるガルーシャでさえも見つけるのは困難なレベル。


 だがシオンはその能力を五感だけで探り当てた。魔力探知など一切使わずに。


「ほんの数秒だったが、流石にひやっとした。俺の潜伏スキルを破れるやつなんていないと思っていたからな」


「じゃあ、少しは彼に対する評価が変わったと?」


「少しだけな。だが、これで暗殺をするのは困難になった。面倒だが他の手を考えなければいけねぇな」


「ん? 暗殺をするおつもりだったのですか? 前は戦ってみたいなんて言っていましたのに」


「別に戦いから逃げているわけじゃねぇ。その方が手っ取り早く始末できると思ったまでだ。それに、さっきガルーシャ様から通達が来たんだろう?」


「来ましたよ。出来る限り、余計な戦闘は避けるように……と」


 数十分前、二人の元に魔王ガルーシャから通達が来ていた。

 内容は任務遂行を最優先にしろという注意喚起だった。


「要はやるべきことだけに集中しろってこった。だから俺もそのやり方に従おうって思ったまでだ」


「なるほど……」


 少し不満そうに理由を綴るバルガ。

 本心では正面きって戦いたいという想いは当然あった。


 でも魔王直々のお達し。

 下手に跳ねるのも良くないと考えた結果、こうした決断に至った。


 バルガは性格に似合わず冷静な面がある。

 これも暗殺者として性に近いものなのだろう。


「まぁ、どちらにせよあのシオンという小僧が危険なのはよく分かった。ゴルドが殺られちまったのも、納得がいく」


「ほう、珍しいですね。貴方がそこまで言うなんて」


「勘違いすんじゃねぇ。手段さえ選ばなければあんなガキ、すぐにでも始末できる。だが――」


「……ベルモット様、バルガ様。お取込み中、失礼致します」


 と、二人の会話に割って入る黒装束の人物。

 その人物は現れるやいなや即座に片膝を立てると、


「ご命令にあった準備が完了致しました。いつでもできます」


「そうですか。ならば、我々もそろそろ戻らないといけませんね。……バルガ」


「言われなくても分かってる」


 バルガはすぐに立ち上がると、スタスタと先に戻っていく。

 

「……とうとう最終段階ですか。これで、停滞していた我が魔王軍はようやく前に進むことができる。ガルーシャ様もさぞお喜びになるでしょう」


 ただ一人、森の奥深くでベルモットは口元を歪め、笑みを零す。


「では、私もいくとしますか」


 ベルモットはそう呟くと、静けさ極まる闇の中へと消えていった。

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