07.団長
「お久しぶりです、リベルカさん。まさか団長になられていたとは思いませんでした」
「シオンこそ、元気そうで何よりです」
ここは団長室。
俺たちは高そうなソファに座り、お茶を飲みながら談話していた。
目の前に居るのは現勇者軍の団長であり、元上官でもあるリベルカ。
そして隣ではリーフレットが出されたお茶菓子をバリバリと食していた。
「まさか……(もぐもぐ)二人が上官と部下の(もぐもぐ)関係だったとは(もぐもぐ)……驚きです」
「厳密に言えば少し違うけどな。詳しくは軍の幹部とその補佐役だった部下の一人ってだけだ。後、口の中にモノを入れながら喋るのは止めろ。失礼だぞ」
団長の前だというのにそんなに堂々とはしたない姿を見せて大丈夫なのだろうか、と思ってたので一応指摘。
するとリーフレットのアホ毛がピンと立ち、
「……はっ! ついお菓子に目が眩んじゃって! す、すみません団長……」
無自覚だったのかリーフレットは食べかけのお菓子を置くとすぐに謝罪する。
だがリベルカはニッコリと笑いながら、
「気にしなくてもいいのですよ。まだまだ一杯あるので沢山食べていってくださいね」
と、優しいお言葉。
「ほ、本当ですか!? ありがとうございますっ!」
目を輝かせ、お礼を言うリーフレット。
それと同時にバクバクとスゴイ勢いで茶菓子を頬張る。
(昔から甘い物好きなのは知っていたが、ここまでだったとは)
……と、少し驚く。
この後、俺たちは世間話などをして時間を潰した。
特に”あの事”についても一切触れずに話は盛り上がった。
それからしばらく経った後のことだ。
リベルカは何かを思いついたのか突然ポンと手を叩き、
「あ、そういえばリーフレット。貴方に一つ頼みたいことがあったのです」
「わ、わたしに頼みたいこと……ですか?」
「はい。実は最近、兵たちの訓練不足が顕著に現れてきて困っているのです。特にBクラス級の勇者が酷いと聞きました」
「え、そ、そう……なんですか? それは困りましたね、あははは……」
(あ、今なんか少し溜めがあったような)
心当たりあります的な表情から察するにこいつもまともな訓練をしていなかったということを今ここで確信。
リーフの奴は専ら、知らんぷりで通すつもりだろうけど。
「なのでリーフレットには彼らの指導に当たってもらいたいのです。できれば今からでも」
「わ、分かりました! そんな輩はこのわたしがSランク勇者の威厳にかけてビシッとさせるように教育し直して見せます!」
何食わぬ顔でリーフレットは頼みを承諾。
ビシッと無駄のない敬礼をし、扉の方へ。
「あ、そうだ」
リーフレットは去り際にこちらを向く。
「しーちゃん、今日はごめんね。ちょっと中の案内は厳しくなると思う……」
寂しげな顔をしながらそう言ってくる。
「仕事なんだから気にするな。また今度、時間ある時に案内してくれ。俺はいつでも工房にいるからさ」
「分かった! じゃあその時にまた工房に遊びに行くね!」
「おう。仕事、頑張れよ」
「うん。ありがと!」
リーフレットは最後にダイヤモンドみたいな輝かしい笑顔を見せると、部屋から出て行った。
そしてこの空間には俺とリベルカの二人きりになった。
「ふぅ、これでようやくあの話ができますね」
会話の初めは向こうからだった。
いきなりリーフレットに対して話を切り出したからもしやと思ったが、やはりそうだった。
「リーフを外に出したのは、例の話をするためでしたか」
「ええまぁ。ですがその前にシオン、貴方に謝らないといけないことがあります」
「謝らなければいけないこと?」
「はい。その……ごめんなさいっ!」
「……えっ!?」
唐突に頭を下げて誤って来るリベルカ。
その真意はすぐには分からなかったが……。
「私はシオン、貴方を守ることができませんでした。貴方は何も……いえ、むしろ正しいことを言っていたのに……」
……と、この言葉で察しがついた。
例の追放事件のことだろう。
「い、いえ。リベルカさんは何も悪くないですよ。そもそも知らなかったんですし」
「で、ですが……」
俯き、瞳を潤す。
言いたいことは俺が一番よく分かっている。
俺もこうして3年経った今でも自分は間違ったことはしていないと思っている。
最後は俺がドジを踏んで掟を理由に追い出されてしまったけど。
「頭を上げてください、リベルカさん。俺なら大丈夫です。新しい職も見つかったし、生活もしっかりとできてます。まぁ……勇者としての肩書はなくなっちゃいましたけど」
少し笑いを含み、俺はそう言った。
そしてすぐに話題を変換し、
「そ、そういえばなぜ例の話をするのにリーフを外へ出したんです?」
もう大体察しはついているが、一応聞いてみることに。
「あの子は知らないでいた方が良いと思ったので。貴方とあの子が幼馴染と知れば尚のことです」
「やっぱりリーフは知らないんですね。3年前の出来事を」
「知らないというより、知っている人の方が少ないのです」
「それはどういう意味で?」
「追放に関してのことは組織が完全に隠蔽したのです。当時幹部だった私ですら、貴方が追放されたことを知ったのはそれから随分後のことでした」
「ってことは、記録にすら残っていないと?」
「はい。貴方は力ある勇者でしたから下の者からの知名度もありました。理由も追放ではなくて、引退という形で他の勇者たちには伝わっているようです。追放という記録はギルドの評価に大きく関わってきますからね。最悪の場合、融資を止められてしまう可能性もあったのです」
くそっ! あの野郎、姑息なことを……。
やはりやる事成すこと汚い奴だ。
顔を思い出すだけでもイライラが湧き上がって来る。
「ですがその後、思わぬことが発覚したのです」
「思わぬこと……?」
「はい。今からそれを全てお話致します。なぜ組織がこうなったのか、知りたいことも多いでしょう?」
確かに知りたいことは多い。
団長がなぜ変わったのか。
組織が王都に移ったのはなぜか。
組織内の雰囲気もたいぶ変わっているようだしな。
今の俺は部外者だが、元勇者軍の人間としては気になるものだ。
「……ぜひ聞かせてください。3年前のあの後、勇者軍で何が起こったのかを……」
俺はリベルカにそう頼む。
そして聞くことにした。
俺が追放されてからの、後の勇者軍の経緯についてを……。




