69.すれ違う真実
「火の妖精……だって?」
「そうさ。そしてここは吾輩たちのような精霊たちが住まう地、精霊園ってわけさ」
火の妖精ルルはその背中についた大きな羽をパタパタとさせながら、説明してくる。
精霊園……聞いたことがない場所だ。
俺も精霊がたくさんいるという場所は一つだけ知っている。
それがグラナガン大樹林にある精霊樹という場所だ。
そこには精霊湖という湖があり、そこにある聖水はあらゆる物に特殊な力を付与することができると言われている。
「でもまさか妖精とはな。てっきり新手の魔物か何かかと思ってた」
『ま、魔物だと!? 吾輩をそんな野蛮で下衆な奴らと一緒にするな! 吾輩たち精霊はルシア様を筆頭とする高貴かつ高名な存在だ。天地万物を操り、世の中に恵みを齎す存在。お前たち人間が当たり前のように火を使えるのも吾輩のような火の妖精がいるからこそなのだぞ!』
「わ、悪かった。だからそんなに怒らないでくれ。お前たちがどういう存在なのかはよく分かったから」
『ふむ。分かればそれでいいのだ』
無い胸を張り、自慢げにする火の妖精さま。
だが途端にその胸を引っ込めるとルルは唐突に険しい顔になる。
『しかしだ。ここ最近で例のアレが動きだしたことで吾輩たち妖精は毎日ビクビクと怯えながら生活する始末。おまけに魔物みたいな下衆連中も森に侵入してきてルシア様もお悩みだ』
「例のアレって……ドラゴンのことか?」
『ああ、そうだ。この森を抜けた先にある峡谷に潜む二体の竜。確か名を黒龍と白竜といったか? 奴らが目を覚ましたせいでこの精霊園も危ぶまれる形となった』
「ん、ちょっと待ってくれ。黒竜と白竜ってなんだ?」
『ん? 知らないのか? 峡谷で長年眠り続けている竜たちのことだ。あいつらは長い間あの峡谷を根城にしてかつてはここら一帯で暴れまくっていた。奴らは数千年に一度しか目を覚まさないと言われていてな。まだ眠りについている頃のはずだったのだが……どうやらその時期が早まってしまったようだ』
黒龍と白竜だと?
聞いたことがない。しかも峡谷にいるドラゴンは異種のはず。
異種は元々孵化前のドラゴンの卵に強化魔法を施し、意図的に超強化を施した異端の存在だ。
しかもそれはつい最近になって現れたという報告もあがっている。
だがルルの話だと長年に渡ってあの峡谷にドラゴンがいたという話になる。
俺たちは一片たりともそんな話は聞いていない。
「ねぇ、しーちゃん。これって……」
リーフも話に異変を感じたのか、俺の方を見てくる。
「……うん。どうやら俺たちの知るドラゴンとは少し違うみたいだな」
『ん……? 俺たちの知るドラゴンとは違うってどういうことだ?』
ルルは首を傾げる。
俺はできるだけ簡潔に、”俺たちの知るドラゴン”についてをルルに話した。
『そ、そんなことが……知らなかった』
「ということはその黒龍と白竜とやらは何者かの手にかけられた可能性が高いな。今あそこにいるドラゴンたちは誰かの手によって強制的な強化を施されたもの。恐らくもうドラゴンとは呼べない別の存在になっていることだろう」
『……そうか、なるほどな。それでお前たちはそいつらを倒すためにここまで来たということか』
「そういうことだ」
『ふむ……どうりで最近人間たちの森の出入りが激しくなっているわけだ』
ルルは今まで抱いていた謎が解けたようで、頷きながら俺たちの話を聞く。
ルルは続けて話す。
『だがその話だと奴らはまだ……』
「ああ、動き出してはいない。多分、何らかの問題があるのだろう。俺たちはその二体のドラゴンが動きだす前に仕留めないとならない。奴らが動き出せば恐らくこの森は全焼、そして近くにある街にまでその被害は及ぶ。俺たちは何としてでもそれを阻止しないといけないんだ」
『……そういうことか。ならば……』
「……ん?」
ルルは腕を組み、考え込む素振りを見せる。
そして「よし」と何かを導き出すと、
『お前たち、これから少しの間だけ時間を貰えるか?』
「時間ならあるが……どうしてだ?」
疑問を呈する俺とリーフ。
そんな俺たちは見ると、ルルは真剣な声色で続きを話した。
『別にお前たちをどうこうしようって話じゃない。お前たちに……会わせたい人がいるんだ』




