59.マジックボックス
「はぁ~! 楽しかったぁ!」
「もうこんな時間か……一日って案外早いもんだな」
時刻は夕暮れ時。
俺たちは再び、噴水広場のベンチに腰をかけていた。
貴族街にあるカフェへ行った後、俺たちはそのままの勢いで買い物へ。
リーフの意向もあって服を買いに行ったり、魔道具を見に行ったりしたわけなのだが……。
「にしても、買いすぎだって……」
俺の手元には大量の買い物袋が。
そしてさっきまでその全部を俺が持ちながら、買い物をしていた。
一応、男のメンツ的な問題があるから、荷物持ちを名乗り出たのだが、これがまぁ辛かった。
(もう既に腕がパンパンだし)
ちなみにこれ全部、リーフが買ったものだ。
俺の物は一切ない。
「ごめんね、しーちゃん。買い物に行くとあれもこれもって止まらなくなっちゃうの……」
「それはいいんだけどさ。大丈夫なの? こんなに買って。生活費とかに回さなくてもいいのか?」
「う、うん……まぁ。一日の食事を一食にすれば大丈夫かなぁ……なんて」
「いや、全然大丈夫じゃねぇじゃんか!」
それでも勇者って職業は世間一般から見れば高給取りだ。
特にSランクレベルになれば生活には困らないはず。
リベルカさんが言うには前の勇者軍(ゴルドがいた時)の平均給与と比べれば、だいぶ減額したみたいだが、それでも断食するほどにはならない。
こういうのを買い物欲っていうのか?
前にぬいぐるみを買ってあげた時にも思ってたが、今日でリーフの金遣いの荒さがはっきりと分かった。
「ほどほどしないと自己破産するぞ」
「う、うぅ……気を付けます」
ま、欲しいモノが多いと全部買いたくなっちゃうって気持ちは分かるけどな。
俺も本当に欲しいと思ったら値段気にせず迷わず買っちゃう方だし。
「さてと、そろそろ日も暮れるし帰るとするか」
「あ、ちょっと待ってしーちゃん。あと一個だけ行きたい場所があるの。いい?」
「別に俺は構わないが……」
「やったっ! あ、でもその前に……」
「ん……?」
リーフは立ち上がると、懐から手のひらサイズの小さな箱を取り出す。
「しーちゃん、これに荷物を入れて」
「これは……?」
「マジックボックスだよ。こんなに小っちゃいけど中は無限に広がる異空間と繋がってるんだ。これならいくらでも荷物を保管できるよ」
「そ、そんな便利な魔道具を持っていたのか……」
なら早めに言ってほしかったぜ……という顔をすると、
「ごめんね。さっき持ってるの気がついたの。いつも買い物する時は持ち歩くようにしてたから」
買いすぎるが故に……ということだろう。
でもそんな便利なものがあるなんて知らなかった。
魔道具とかあまり詳しくないからな。
リーフレットはその魔道具の蓋をパカッと開ける。
「とりあえず、その荷物を箱の前に翳してみて」
「こ、こうか?」
俺はリーフの言う通り、箱の前に荷物を翳す。
するとどういうことでしょう。
小さな箱に吸い込まれていくように荷物が次々と入っていくではありませんか。
「す、すげぇ! なんだこの魔道具は!」
「便利でしょ? 結構重宝してるの」
「でも、これ出すときはどうするんだ?」
「えーっとそれはね……このボタンを押すと……」
リーフレットは箱の裏側にある謎の小さなボタンをポチッと押す。
すると箱が蒼白く光り輝き、術式が発動。
目の前に小さな魔法陣が現れると――
「ぐはっっ!」
突然、荷物の雨が俺の元へ降り注いでくる。
「あ、ごめんしーちゃん! そういえば前に買った荷物を取り出すのを忘れてたんだった!」
荷物は確かに出てきた。
だが量的にどう考えても今回のものじゃないもの混じっていたのだ。
「ど、どういうことよこれ……」
「え、えーっと……この魔道具、確かに便利なものなんだけど一つ欠点があって、出したい荷物を指定して取り出すことが出来ないの」
「ってことは、出すときにはそれまで保管していたものが一気に放出されるってことか?」
「そ、そうなる……ね」
「な、なんじゃそりゃ……」
この量からして相当ため込んでいたらしい。
中には剣や鎧なんかの武具もあった。
「まぁ安物のマジックボックスだからね。高価な物はちゃんとしているよ。特に聖威剣を保管するマジックボックスとかはね」
「そんなのがあるのか?」
「うん。任務以外は基本的にそこに保管しているよ」
便利になったもんだな。
俺たちの時はそんなものなかったのに。
リーフは慌ててマジックボックスを開くと、荷物を再び中へと戻す。
「あぁ……さっきは本当にびっくりした~」
「本当にごめんね。ケガとかしてない?」
「大丈夫だ、気にするな。それよりも行きたいところがあるんだろ?」
「あ、そうだったんだ!」
「忘れてたのか……?」
「わ、忘れてなんかないよ! ちょっと記憶がどっかに行っちゃってただけ!」
「どっかって……」
「と、とにかくもうすぐ日が暮れちゃうから早く行かないと! 案内するね!」
「お、おう……ってそんなに手を引っ張るなって!」
どうやら王都デートはもう少し続く模様。
俺はリーフに手を掴まれると、その”行きたい場所”とやらに向けて足を動かすのだった。




